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海外富裕層はなぜ金貨の購入に走るのか?命を守る本物資産

 政府が発行する通貨が紙クズ同然になった時でも、価値を失わない資産として信用できるモノは何か?

ビットコインのような仮想通貨は注目されているものの、セキュリティや信頼性の面で「本物の資産」として世界で認知されるまでには至っていない。デジタル化された資産は、世界規模の戦争や大災害でインターネットが遮断される非常事態が起きれば、流動性が無くなってしまうのも欠点である。

そうした中で、最終的に価値を失わない資産として信用できるのは「金(ゴールド)」だと言われている。それは、金が資産として取引されてきた数千年の歴史からも実証されている。世界経済のリスクが高まると、ゴールドは安全資産としての人気が高まり、買い手が増える傾向が昔からあるが、2019年から現在にかけては、金の取引相場が高騰している。

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金価格チャート(ブリオンボールト)

数ある貴金属の中でもゴールドの価値が衰えないのは、地球上に存在する絶対量が少ないという希少性に加えて、火災で燃えても消失することがなく、酸やアルカリにも反応せずに劣化しないため、どんな保管方法(水中に沈めたり、土に埋める等)にも耐えられるためだ。

しかも比重が重いため小片でも高価値で、ビスケット1枚分の大きさでも数十万円になる。そのためゴールドは、物理的に移動させることにも適しており、どの国に行っても世界共通の相場で換金することが可能だ。

ゴールドが使われている指輪・時計・ネックレスなどにも資産価値があるが、宝飾品はデザイン料や職人の製作料がプラスされるために、素材の原価よりもかなり割高な値付けがされている。そこで資産としてゴールドの現物を保有するのであれば、世界で最も信頼性が高いロンドン金市場が認定した溶解業者の地金を購入するのが一般的である。

日本では、田中貴金属工業、三菱マテリアル、住友金属鉱山など、計12社が認定を受けていて、それぞれ直営の店舗や通信販売で自社ブランドの地金を販売している。

金の地金は「1kg・500g・100g・20g・10g・5g」という6種類のバーになっていて、自分が希望するサイズのバーをその時点の「小売単価×グラム数」の価格で購入することができる。価格の設定は、金相場に連動した「小売価格」と「買取価格」を各業者が毎日更新しながら提示している。そのため一度購入した金を換金したければ、同じ業者にいつでも買い取ってもらえる。公認の刻印がある金であれば、A社ブランドのバーをB社に買い取ってもらうことも可能だが、その場合には買取価格が若干安くなる。

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田中貴金属工業が販売する金地金

【金融封鎖されても生き残る金貨の役割】

金の地金にも弱点はある。金は何度でも溶かして再商品化することができるため、その途中で偽物や粗悪品が出回りやすい。そのため、地金を換金する時には鑑定が必要となり、通貨のように流動性が高い資産としては使えない。

また、金には国境を越えた価値があるため、金の売買が過度に行われると、国と国との力関係が崩れてしまうため、自国の経済や通貨の信用が不安定な時には、国の政策として金の取引が制限されることがある。新興国では投資目的の金売買が制限されていることが多く、中国が個人の金投資を自由化したのは、つい最近のことである。日本でも戦時中から戦後しばらくは、国内すべての金を政府が管理していて、1980年代になってようやく個人の金売買が解禁された。

そこで海外の富裕層は、地金と同等の価値があり、かつ流動性が高い「金貨」を好んで購入している。世界的に信用力が高いのは、カナダ政府が発行する「メイプルリーフ金貨」と、オーストリア政府が発行する「ウィーン金貨」で、それぞれ1/10オンス(約3.1g)、1/4オンス(約7.8g)、1/2オンス(約15.6g)、1オンス(31.1g)の4種類がある。

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たとえば、カナダの家庭で子どもが生まれると、誕生日を迎えるたびにメイプルリーフ金貨を1枚ずつ買い増してゆき、子どもが成長して家を出る時に、金貨を資産として渡すことが行われている。感覚としては積立預金に近いが、長期のスパンでみたゴールドの値上がり率は預金金利よりも高い。2008年の時点でメイプルリーフ金貨1枚(1オンス)の価値は約8.2万円だったが、2020年は19.9万円に上昇している。

日本人の中では、最も信頼できる資産は?という質問に対して、「銀行預金または紙幣(1万円札)」と答える人は多いが、預金金利は実質ゼロに設定され、マネーの大量増発も行われている昨今の金融政策では、目に見えない形で、預金や紙幣の価値は大きく下落している。

預金、株式、保険など、近年の金融資産は、ほとんどが電子的な口座の中で管理されるようになっているが、世界が非常事態に陥った時には、それらが「命を守るための資産」として、口座から引き出して使える保証は無い。そうした危機感は、長い歴史の中で資産の凍結を何度も経験してきた国の富裕層ほど強く、ゴールド上昇相場の牽引役となっている。

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