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「平等な雇用維持」は近視眼的かもしれない

コロナ禍で航空業界は大きなダメージを受け、ANAは「2020年度の最終損失が5100億円まで膨らむ」と発表しています。

そして、厳しい業績の中でもコロナ後の垂直回復を目指して、全体の賃金を下げつつ、雇用を維持する方針を打ち出しています。

世界中の競合企業に対しても危機が発生しているため、賃金をカットしても人材を引き抜かれるリスクは低いです。また、コロナ禍は一時的な危機でもあるため、合理性の高い決断のように思えます。

コロナ禍が長期化した場合

今年は冬の賞与をなくし、さらに賃金を減額することで、年収を3割ほど減らす方針だと書かれています。

早期にコロナ禍が収束すれば問題ないのですが、来年以降も、国際線はどこまで回復するのか不透明です。

この数十年で発生した経済的な危機を見てきた人は、企業が財務的な負担に耐えられなくなれば、否応なく組織が切り刻まれていくことを体感しています。会社が自分の一生の面倒を見続けてくれるというのは、幻想に過ぎないと気付いています。

そうなると、この報酬体系で競争力のある人材を長期的に維持し続けられるのか疑問に思えてきます。業界の垣根を乗り越えられる強い人材であれば、流出していくことが想定されます。

また、今回の方針を見て、ITバブルやリーマンショック危機で傷ついた電機や半導体業界における経営判断との類似性が気になりました。

平等な雇用維持を尊ぶのは、日本社会の性質なのかもしれません。しかし、全員の賃金を下げ、雇用維持を標榜した結果、優秀な人材が海外企業に引き抜かれていき、日本企業がその後の競争優位性を失った一因となりました。

コロナ禍の状況は、単なる経済危機とは異なりはしますが、もし、将来に禍根を残すような判断になってしまっていたとしたら辛いです。

国際線航空会社は、日本にいくつ必要か

島国の日本にとって、海外の国々とつながるために必須の空のインフラを担う航空会社の重要性が高いことは、言うまでもありません。しかし、この市場規模で何社存在できるのかには、議論の余地があります。

海外を見ると、イタリアのアルタリアは2007年に、エールフランスに買収されました。ヨーロッパ市場は成熟化に伴い、フラッグキャリアの航空会社ですら他国に統合されていきました。

日本の3倍の人口の誇る米国では、既に大手三社に収れんしています。単純に人口規模だけでみると、日本は1社の計算になってしまいます。

コロナを考慮せずとも景気の波は訪れますし、今後人口が減少していく日本において、悲観的なシナリオを排除することはできません。国際線航空会社が一社へと統合される可能性は低くありません。

社会のレジリエンスは、人材流動性が高くなることで上がる

どの産業でも、どの業界でも、永遠に成長をし続けることを前提にするの危険です。10年前に花形であった銀行業界が、現在では存在意義を問い直される状況に直面しています。

仕事で身に着けたスキルや経験が、固有の企業や業界でしか通用しないとしたら、それは変化への対応力が弱く、柔軟性の低い社会と言わざるを得ません。

組織に所属する個人の立場で考えると、組織へのエンゲージメントの高低は、働き甲斐を左右する重要な要素です。しかし、高ければ良いというわけではなく、組織に依存しすぎると、沈み行く際に道連れとなることが確定してしまいます。冷静で客観的な視点と、転地できる能力が求められます。

また、義理人情に厚い組織は魅力的です。しかし、競争力を失えば消滅してしまい、社会的にも負荷が掛かります。

一見、非倫理的に見えるかもしれませんが、競争力を維持するために必要な人材の報酬水準は維持するといった方針が、結局は社会全体にとって合理的な結果をもたらす可能性があります。

現在は未だ未曽有の危機下でもあります。これまでの当然を当然とせず、本当に何が大切なのかを、見極めることが求められています。

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