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広い視野で考えたいQRチケット導入の効用

長野県上田市の公共交通機関で QR コードを使った運賃決済サービスが始まるという。

もともとQR コードは日本企業であるデンソーが開発した技術で、スマートフォン以前の日本の携帯電話で広く使われだし、それがその後ヨーロッパではバス停の時刻表の読取り用などに使われたほか、近年は特急列車など鉄道の乗車券に広く使われるようになった。冒頭の画像は実際に筆者が使ったチケットだ(赤の斜線は事後に筆者が加えたもの)。また、同じく QR コードが中国を発端に決済の手段として使われるようになり、これが逆流される形で数年前に日本で大きな QR コード決済の顧客獲得合戦が繰り広げられたことは記憶に新しい。

冒頭の記事にある通り、 IC カードなど専用機器を使った決済手段は、どうしても設備投資に多額の費用がかかり、また国内でも各種のカードのシステムが統一されていないうえ、世界的にはまだ共通の標準規格が浸透していないことから、国内もさることながら、海外からの旅行者が使いにくい、という問題点がある。

先に述べた通り、ヨーロッパを中心に鉄道のチケットは QR コードの利用が広く進んでいる。ヨーロッパは基本的にはホームに入るための改札がなく、車内で車掌がチケットを確認するという仕組みになっている。このため QR コードを印刷したチケットをパソコンからプリンターでプリントするか、スマホの画面に表示すればよく、QRコードを車掌が専用の読み取り機で読み取って検札するという仕組みが採用されている。

これによって、各駅に改札機を設置・メンテナンスするコストが省けるだけでなく、国際的な旅行者であってもウェブサイトから容易にチケットを購入できるため券売機を駅に設置する必要も最小限におさえることができる。
こうしたことから、国際的な旅行者がよく宿泊するホテルにはロビーにチケット等を印刷するためのパソコンとプリンターを設置してあることも当たり前のようによく見られる光景になっている。

こうしたチケッティング関係のコストを、汎用品を活用したり、またユーザーが手元にある機器を活用することによってまかなえる仕組みになれば、多くが赤字に直面している地方の交通網を維持する上においても、下記記事の提言に加えて、コスト負担を軽くするための良い手段になると思う。

また今はコロナの問題のために一旦インバウンドの旅行客はほぼゼロに近いと言って良い状態になっているが、状況が改善し再び海外からの旅行者を迎える時に、オンラインを通じてQR コードでチケット類を販売しそれを印刷・表示したもの直接読み取れる仕組みが組み込まれているのであれば、チケットを買う難しさがハードルになって利用されないといった機会損失を防ぐことにもつながるのではないだろうか。また、国内旅行者も、今のJRチケットはネットで買っても駅の券売機でチケットに引き換えなければならず、旅行者・事業者双方にとって、時間とお金のロスを生んでいることも指摘しておきたい。

日本の場合、いわゆる交通系 IC カードが先に普及してしまったために、こうした QR コードの交通チケットへの応用というのはなかなか進んでいないという実感があるが、海外では、クレジットカードに搭載された NFC 機能を直接読み取ってそれを交通系 IC カードと同じように使えるようにする取り組みも、例えばロンドン地下鉄などで始まっている。こうした新しい動きも見逃すことはできない。クレジットカードが直接チケットになるなら、カードやカード販売機等を交通機関が独自に用意する必要はなくなり、やはりコスト削減に寄与するものだろう。

またこうしたチケットの販売・利用で取得したデータを活用することによって観光や交通政策の最適化やマーケティングに活用することもできるようになるはずだ。

もちろん、改札機の通過スピードがコンマ秒単位で求められる都市部の通勤客には、こうしたQRコードによるチケットは向かないだろう。しかし地方の路線や、日本でも(省略されつつあるが)車内で検札を行うような特急列車のチケットには、旅行者の利便性向上と事業者のコスト削減双方の観点から活用が考えられてもよいのではないだろうか。もちろん、そうした専用機器の開発納入メーカーが打撃を受けることにはなるのだが。

これまで、駅には改札機がありそこに券売機がある、といった常識があったが、これを見直すことによってより一層公共交通機関のコスト負担を低減して交通網を維持し、乗客を増やすことの可能性について、従来の常識にとらわれずに考えておきたい。 

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