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SDGsは一日にして成らず 〜グローバル企業と中国の対立からSDGs経営について考えること

お疲れさまです。uni'que若宮です。

今日はちょっとSDGs時代の企業と国家の関係(とくに対立や摩擦)について書きたいと思います。


ウイグル問題を巡るグローバル企業の苦悩

先日、日経にこんな記事が出ていました。

新疆ウイグル自治区における、中国政府によるウイグル族に対する大量拘束や強制労働は、大きな国際問題になっています。

もしご覧になったことがなければぜひ↓こちらのマンガをご一読いただきたいのですが、そこではウイグル族に対する理由なき拘束と拷問、暴力が行われています。

読んでいただくとわかるように、これは明らかな人種差別であり迫害です。

これに対し、H&MやZARAなどのグローバル企業が中国に対して抗議や批判の声を上げたのですが、今度はそれへの反発として、「中国を批判するのは許せん!」として不買運動や取引の停止、またECからの締め出しなど、排除が起こっているのです。

過去の店舗での不買運動と異なり、ネット空間での批判や排除が企業へ及ぼす影響は大きい。H&Mは2日時点で中国のネット通販から締め出されたままだ。H&Mは中国で約500店の店舗を展開するが、地図や口コミサイトのアプリ上から同社の店舗情報は全て消え、集客に大きな影響を及ぼしている。このまま長期化すれば膨れ上がる在庫への対応を迫られるのは必至だ。


今年に入って、ファーストリテイリング柳井会長も「サステナビリティ戦略」を明確に宣言しましたが、アパレルビジネスにおいてはいま、収益性以上に「エシカル」や「SDGs」への対応が求められてきています。

No.10に「人や国の不平等をなくそう」と明確に掲げられているSDGsの観点からいえば、企業は「人種差別」ともいえる横暴を行う中国において無反省にビジネスを続けるわけにはいきません。それ自体が企業のブランドイメージを毀損し、長期的にはビジネスのサステナビリティを落とすことになるでしょう。

とはいえ、中国市場はあまりにも巨大です。

20年の中国のファッション市場(靴や時計なども含む)は113兆円にまで膨れ上がった。米国(63兆円)や日本(19兆円)と比べても市場規模は突出している。ナイキやユニクロは売上高の約2割を巨大な中国市場に依存している。

とあるように、中国市場でビジネスをできなくなることはグローバル企業にとって致命的なほどの減収・減益インパクトになってしまいます。

企業は中国の差別に対して声をあげ市場を失うか、黙認・容認して事業をするか、どちらをとるにしても非常に辛いジレンマの中にいるのです。


ノースフェイスと石油問題

同じようにブランドイメージと収益性の葛藤を経験している企業のニュースとして、ノースフェイスの問題についても考えてみましょう。

ことの発端は昨年のクリスマス。ある石油会社が社員向けにノースフェイスの商品を配ろうとした時、

The North Faceはこの注文を、「うちのジャケットには化石燃料企業のロゴを入れたくない」という理由で拒否した

のだといいます。ノースフェイスは自社のSDGsや環境負荷についての取り組みスタンスの表明として、こうした拒否を行ったわけですが、これに怒ったのが石油会社。業界を挙げてノースフェイスを糾弾します。

The North Faceの注文拒否を受けて、Innovex社のAdam Anderson氏はLinkedInに公開書簡を発表しました。その中で彼は、「二酸化炭素濃度が高いと植物が喜ぶ」というありがちな主張に加え、最近流行りの「化石燃料は人類を救う」「化石燃料がなければ貧困が拡大する」という論点を推してきました。でも次の部分は、The North Faceにとっても痛いところを突いていました。

「ところで、彼ら(The North Face)のジャケットは、炭化水素からできています。」

さらには、石油業界がThe North Faceに「素晴らしい顧客賞」を授与するという皮肉たっぷりの反撃までなされています。ノースフェイスは石油産業を批判できるどころか、石油をたくさん消費してくれる「お得意様」だというわけです。

このやり取り自体には子供じみた感じというかやや滑稽なところもありますが、「ノースフェイスも大変だなw」というだけでは済まされない、とくに経営者にとっては「以て他山の石」とすべき問題です。

ノースフェイスの石油会社に対する批判は「天唾」や「ブーメラン」のように自分に帰ってきてしまったわけですが、SDGsについて考えることは実は誰にとってもこうした難しさに向き合うことである、ということをよく理解しておいた方がいいのではないでしょうか。環境問題や差別や、そうした色々なイシューは過去の社会の成り立ちを通じ我々の中にあまりに当たり前に浸透してしまっているので、自社だけが安全な場所から善人顔で批判することはできないのです。

記事の結びにはこうあります。

我々は今、化石燃料使用に伴う膨大なコストをようやく受け入れ始めたところです。人類はこれまで、(石油産業による情報隠ぺいやロビー活動、従順すぎる政治家、とかのせいもあって)化石燃料への依存度を強めてきてしまいました。なので「自然って大事だよね」みたいな企業が石油産業を批判しても、「お前だってダメじゃん」のループになって、前向きな変化につながりません。石油産業やThe North Faceみたいな企業に責任を果たしてもらえるように働きかけること、そこが我々にかかっています。

SDGsについて語ることは、すべからく他者批判ではなく自らの居住まいを見直すことなしにはできません。ノースフェイスが本気でSDGsに取り組むとするなら、素材の見直しから含めて極めて大きな経営戦略の見直しが必要となるでしょう。これは一朝一夕にできることではありませんし、コストの増大によって大きく利益を圧迫するでしょう。それでも環境問題に取り組む覚悟はあるのか?ノースフェイスの本気度が問われています。


ウイグルや石油の問題は社会全体、そして地球全体が連携して解決していくべきものですし、連携なくしては実現できないものです。しかし、それに取り組むこと自体が短期的にはビジネスの業績にネガティブなインパクトを及ぼすことが少なくありません。こうしたジレンマがある時に、それでも将来を見据え舵を切れるか、というのは経営的にはなかなかしびれる問題です。(「べき論」で頭では理解できても実行はとても思い意思決定です)


国家による「遮断」がSDGsを阻む

再度ウイグルの問題に戻りましょう。人種差別をなくすことはSDGsとして国際社会が合意している目標なのに、なぜH&Mはここまでの窮地に立たされているのでしょうか?

不買運動やH&Mとの契約の打ち切りは政府によるだけでなく民間からも起こっていることです。「人種差別」に反対する企業に対し報復をするなんて、中国国民はいったい「人種差別」を是認しているのでしょうか?

この点について、冒頭の日経の記事の中にはこのような記載があります。

中国では政府の方針に合わない書き込みは当局の自主検閲により削除される。世論を当局がコントロールしているとみられ、プロパガンダを主導している可能性が高い。

民主化が進んだようにみえても中国にはまだまだ政府による検閲やコントロールが存在しています。ウイグル族についても政府は民族への弾圧としてではなく、「反国家的な危険分子」に対する「対テロ」政策のようにプロパガンダし、世論を誘導しているのです。

国家による偏った情報にのみ触れ、その見解を信じている国民にとっては、ウイグル政策を批判する各国や外資企業はテロリストに味方する「国賊」のように思われ、そうした企業に対して協力することは「売国奴」のように見えます。ことほどさように情報の遮断やコントロールは危険なのです。


国家による民衆の弾圧が続く香港やミャンマーでもインターネットの遮断がされています。これも国が国民を国際社会から切り離し、特定の情報の中で自国(あるいはその中の特定の人々)にとって有利なように国民をコントロールをしようとするためです。


SDGsのNo.17に「パートナーシップで目標を達成しよう」という項目がありますがS、国を超えた連携がなければSDGsを成し遂げることはむずかしいでしょう。ある国家が自国利益のみを考え、国際協調から逸脱する時、そうした国はSDGsを目指すグローバル企業と利害において相反します。

そしてそうした国が情報の「遮断」によって国際社会から自国民を分断し、国際協調に反するように誘導するなら、中国のように政府のみならず国民もその企業に反発するという事態が起こります。こうした国ではビジネスを展開すること自体がむずかしくなることもあるでしょう。


以上のように、SDGsは「みんなのため」に掲げられたものですが、決して簡単に成し遂げられるものではなく、そこには痛みが伴うかもしれません。企業は自らの利益と引き換えにしても間違ったことに声を上げたり、また自らのバリューチェーンも見直して中期的に体質改善をしていくことが必要です。そして企業の取り組みを潰えさせないためにも、国際社会全体として「分断」を超えた協調へと常に向かっていくことが重要です。

ウイグルもノースフェイスも香港もミャンマーも、決して他人事ではありません。とくに経営者はそれぞれの事態について、「自社だったらどうするのか?」と自分ごととして考えてみるべき問題ではないでしょうか。

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