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大きい会社ほど社長はオフィスにいない【日経COMEMOテーマ企画_遅刻組】

今月の日経COMEMOのテーマ企画として、「社長に出社して欲しいですか」というお題で投稿募集がなされていた。たしかに、テレワークの対象は従業員だけではなく、管理職や経営層にまで及ぶ。組織内の職位が上がるにつれて高齢であることが多いので、COVID-19に罹患したときのリスクが高まるので、役員こそテレワークが必要かもしれない。

しかし、このとき2つの疑問を頭がよぎった。第1に、このようなお題が出るということは、経営層がテレワークに適したコミュニケーションやマネジメントができていないのではないかという疑問だ。テレワークは多くの行動変容が伴わないと有効に機能しない。このことは経営層にも言えるだろう。第2に、そもそも社長は職場にいるものなのかという疑問だ。就業時間内において、社長がオフィスに滞在している時間はどれほどなのか。

このような疑問を基に、今回は経営層のテレワークについて考えてみたい。

テレワークは社長のマネジメントの在り方も変える

COVID-19によってテレワークが広まったが、その成果については賛否が出ている。富士通のようにテレワークを新しい働き方として原則実施するところもあれば、テレワークを導入したが出社を基本姿勢とする伊藤忠商事など、対応は様々だ。そもそも、日本は諸外国と比べて、テレワークの導入率が低く、実施していない企業も多い。

このような状況に加え、テレワークに対する評価も諸外国に比べて、日本は異様に低い。その中でも代表的なものが「テレワークではマネジメントできない」という管理職からの声だ。このことは、オンラインで仕事を進める上でのコミュニケーションは、対面で仕事を進める時のコミュニケーションの延長線上にあるのではないことが原因としてある。コミュニケーション・スキルに断絶があるため、対面で通用していた方法がオンラインでは通用しない。このことは欧米では30年前から注目され、バーチャル・チーム研究として数多くの知見が残されている。

そして、このバーチャル・チームの研究対象は、部署レベルの話だけにとどまらず、役員レベルも対象となる。つまり、役員層もテレワークを原則とした働き方では、コミュニケーションの方法やマネジメントの方法を学び直す必要が出てくる。

例えば、経営層が自主的にテクノロジーを使いこなす必要が出てくる。オンライン会議の設定ができないからと、自宅に秘書を呼びつけたり、待機させておくようなことはできない。また、オンライン会議でのコミュニケーションの仕方も新しいものに変える必要が出てくる。よく、オンライン会議では雑談ができないという話があるが、慣れてくると雑談もできるし、会議をしながら裏でSlack等のチャットツールで個別の打ち合わせを同時進行で行うというのもよくある話だ。つまり、多くの不満が自分がツールを使いこなせないがために生じている。

これが新しい機材を使いこなせない技能工の場合だと死活問題だが、なぜかホワイトカラーでは新技術が使いこなせないことが許されてしまう不思議な現象が起きている。当然、この結果、労働生産性は使いこなしている企業と比べて水をあけられることになる。

また、テレワークの場合でも100%を在宅とするのは逆に生産性を下げる。在宅でも済む仕事と対面ではないといけない仕事を切り分け、ハイブリット化することで労働生産性を高める工夫が求められる。そこで重要になるのが、何を対面として、何を在宅とするのかといった職務の切り分けだ。職務の切り分け方や在宅と対面の割合に決まった答えはない。トライアンドエラーで、最も生産性の高い切り分け方を見つけていくことが肝要で、常に自分の仕事の仕方を改善していく姿勢が求められる。

これらの取り組みは、優れたビジネスリーダーに共通してみることができる。例えば、Yahooアカデミア学長の伊藤羊一氏は、コロナにおいてオンライン学習の重要性が高まると感じ、いち早くオンライン学習の知見を共有するコミュニティを立ち上げている。新たなテクノロジーを吸収する姿勢はどんな若者にも負けずにどん欲だ。youtubeやtiktokなどのライブ配信も積極的に行い、最近はVoicyも始めている。

元日産自動車人事部長で、人事コンサルタントとして独立した山極 毅氏も同様だ。元エンジニアであり、グローバル企業でのマネジメント経験もあることから、新たなテクノロジーを積極活用している。山極氏もYoutubeチャンネルを開設し、情報発信を行っている。

このように優れたビジネスリーダーをみていると、COVID-19という逆境をチャンスとして捉え、新技術を学ぶことで付加価値を高めようという姿勢が読み取れる。そこには「若くないから、新しいことを覚えられない」といった中高年の言い訳はない。

経営者はオフィスにいるものなのか?

また、そもそもの話として、社長をはじめとした経営層はどれだけオフィスに滞在しているのかという疑問もある。私がリクルート時代に、峰岸社長の部屋の真正面の席だったことがある。そのとき、大企業の経営者はオフィスにいる暇がほとんどないくらい多忙なのだなと驚かされた。同じようなことは、新卒で入社したスズキ自動車でも言えた。鈴木修会長は世界中を飛び回っているので、オフィスにいるものだという発想はなかった。

ソフトバンクグループの孫正義社長や楽天の三木谷浩史社長がビジネスジェットを保有するのも、活躍のフィールドが全世界規模であるため、オフィスに常にいるという状態ではないためだ。時間を有効活用し、少しでも労働生産性を挙げようとしている。

グローバル企業の経営者をみていると、「社長に出社して欲しいですか」という問いが、そもそも成り立つのだろうかという違和感が出てくる。社長は、必要なときに必要な場所にいるものであって、ここにいれば常に会うことができるというものではないだろう。

「自由に使える自分の時間」がどれだけあるか?

「社長に出社して欲しいですか」という問いが成り立つ企業があるとすると、それは少し気を付けたほうが良いかもしれない。労働生産性に対する考え方が甘い可能性がある。

「時間」は全人類が等しく与えられた資源であり、ビル・ゲイツだろうと生まれたばかりの赤ん坊だろうと、1日は24時間しかない。この限られた時間の中で、どれだけ付加価値の高い成果を出すことができるのかというのが労働生産性であり、とてもシンプルだ。そして、人間は機械ではないので24時間365日働くことができない。

労働生産性を高めるためには、自分の健康状態と相談しつつ、限られた時間を何に費やすのかを自分で決める必要がある。そのとき、「テレワーク」という時間の使い方の選択肢を自ら捨てることは愚かな選択だろう。「テレワーク」はただのツールでしかなく、それをどう使うのかが重要だ。有効に使うためには、常に選択肢の1つとして持っておく必要がある。

労働生産性を高めることを重要視するのであれば、「社長に出社して欲しいかどうか」といった疑問は出て来ようがない。生産性を高めるために必要があれば出社するし、必要がなければ出社しないだけの話だ。重要なことは、自由に使える自分の時間がどれだけあるかである。在宅と対面を使い分けることで自分の時間を増やし、できた時間が新たな付加価値を生み出す源泉となる。

そのため、経営者はもちろんのこと、管理職も従業員も「自分の時間を増やし、できた時間で付加価値を生み出す」ことができる仕組みを企業が作り出す必要がある。そして同時に、運用する個々人も自分がどれだけの付加価値を生み出すことができているのかを自覚し、労働生産性を高めるための動機づけがなされているのかが鍵となるだろう。そういった意味で、ユニリーバ・ジャパンが推奨する「Team WAA!」のような動きが、もっと拡がることに期待したい。


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