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訪ねてきた男が言った。「これ、全部あなたのことですよね」

2019年度の新聞協会賞を受賞した、日本経済新聞社の連載企画「データの世紀」から、現在無料でお読みいただけるおすすめ記事をご紹介しています。きょうはこちら。ネット上で公開されている匿名の位置情報から、個人を特定するどころか出張先や実家まで突き止めることができてしまうという、ちょっと恐ろしい事例が登場します。

ネット上ではときどき、TwitterやFacebookから「渦中の一般人」が特定されて名前や住所が拡散してしまうことがありますが、ここではSNSを一切使っていません。あくまで匿名化された、誰でも見られる情報が発端です。ところが……。

○2018年9月。米ハワイ州で国際学会に参加するため出張。(中略)
○18年10月。兵庫県西宮市内の実家に帰省。神戸空港で飛行機に乗り、新千歳空港に戻る。室蘭市郊外のカフェ「宮越屋珈琲」で一息。
○19年1月。米ミズーリ州東部のセントルイスで無線の通信規格を議論する学会に出席。

データ解析の専門家でもない記者がネット検索を繰り返しただけで、肩書、名前、年齢だけでなく、ここまで具体的に特定できてしまいました。記事では記者が本人を訪ね、確認します。「これ、全部あなたのことですよね」

これが映画だったらさぞ盛り上がるだろうという展開です。ターゲットが絞り込まれていくほどBGMが緊迫感を増していき、決定的な証拠が見つかった瞬間にスパッと無音になって「……見つけた」と主人公がつぶやくのが目に浮かびます。でも、もし自分が見知らぬ誰かに同じことをされていたらと思うとぞっとします。

今回の解析に使われた位置データは、匿名での公開に同意したユーザーが企業などに売ったもので、現在は非公開になっています。それでも、個人情報保護法では匿名の位置データは個人情報に該当せず、本人の同意なしに企業間で共有できるため、同じようなケースは今後もあるかもしれません。

いくら匿名化したデータであっても、ほかから持ってきた情報と組み合わせれば詳細な個人情報に化ける可能性があるーー個人情報は確かに宝の山かもしれませんが、きわめて扱いの難しい宝だと、改めて感じる次第です。

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(日本経済新聞社デジタル編成ユニット 森下寛繁)