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起業家教育の隆盛と、学びにくさへの配慮の問題

「創造性や探求心を養うための起業家教育が小中高校段階から強化される」という記事を見て、いったいどういうことだろうと気になって読み込んでみました。

今日は、いくつかの教育系事業にも関わっている関係から、起業家精神/創造性教育の動向を鑑みつつ、より開かれた学びの機会について考えてみました。

起業家教育の隆盛

文科省も低年齢からの起業家教育に活路を求め、23年度からは小中高生向けのカリキュラム開発を促す。当面は授業には組み込まず、大学や自治体が担い手となり希望者参加型のセミナーや体験プログラムを提供する想定だ。

「起業家教育、小中高生に活路 文科省23年度から対象拡大」日経新聞

すでに起業家教育の取り組みは始まっており、文科省のレポートを読むと、市場調査・課題設定・事業計画の策定・会社設立における経営理念づくりや役割分担・生産、製造、仕入れのながれなど、網羅的に起業と経営を教える内容を各地で行っているようです。そのような取り組みをさらに強化するのが今後の流れです。

起業精神、創造性を育むさまざまな教育機会

この記事を読んだときに連想したのが、民間で実施されている高校生向けの起業家養成プログラムやクリエイター育成プログラムでした。たとえば、「BLAST!School」や「MAKERS UNIVERSITY THINK BIG CAMP」などの取り組みは、多様なゲストを招いた起業家養成プログラムとして展開されています。

またPARCOが主催する「GAKU」では多種多様なクリエイターから学ぶことができる学び場であり、株式会社CINRAから独立した「Inspire High」は世界各国のクリエイターや起業家のインタビュー動画を用いたe-learningコンテンツを学校に導入するサービスを展開しています。

実際の起業だけがゴールではなく、組織に所属するにせよフリーランスでやっていくにせよ、創造的なアイデア生成の経験や、論理的な課題設定のスキルなどは生きていく上で役に立つものでしょう。こうした刺激的な大人のロールモデルに学校の外側で出会えるのはとても意義がありそうです。

起業家教育がすすむなかで気になること

教育資源の問題

他方で、こうしたさまざまな取り組みが隆盛するなかで、気になっていることがあります。

まず一つは、教育資源の問題です。各家庭の収入や養育者のリテラシーによってこれらのプログラムに出会えるかどうかが変わっていきます。また、こうしたプログラムのなかでは、主体的に受講し、コミュニケーションスキルを磨きながら他者と協働し、葛藤を乗り越えていく精神的なタフネスが必要です。

コミュニケーションスキルを持ち、自分を肯定し、他者をエンパワーしながら取り組むだけの精神的な資源を有する人であれば、これらの教育機会を活用し、学びを深めていくことができるでしょう。

しかし、そのような資源に恵まれた人だけではないのも事実です。生育環境に埋め込まれた教育資源の貧富の差によらず、こうした教育機会が開かれるよう起業家教育プログラムの裾野が広がっていくことが望ましいと言えるでしょう。

その点、文科省の動きや茨木市や戸田市など行政と連携をしている「Inspire High」の動きはとても興味深いと感じています。

「学びにくさ」への配慮の問題

二つ目に、これらのプログラムが「生徒の学びにくさ」にどの程度配慮されているのか、という点です。

もし仮に、こうした起業家精神教育のゴールが、「個人が起業もしくは新規事業創造のスキルを身につけること」であるならば、こうしたスキルを身につけやすい人に教育機会が偏っていくことが懸念されます。

しかし、ロジカルなコミュニケーションや、逆に情動的なコミュニケーションを苦手とする認知特性を持つ人たちは、いわゆる「学びにくさ」を抱えているために教育機会からこぼれおちていることが問題となっています。

プロジェクト型学習で起業家精神/創造性を育成する機会が、これらの「学びにくさ」に配慮されていることは、これからまさに教育業界全体が考えていく課題となっているといえそうです。

「それぞれの個性を発揮できる学びの場 LEARN」の挑戦

そうしたなかで、学校に馴染めない子どもたちの活躍の場を模索してきた「異彩発掘プロジェクト ROCKET」は2021年に名称変更をし、「それぞれの個性を発揮できる学びの場 LEARN」として生まれ変わりました。

その背景にあるのが、まさに上記の、教育機会からこぼれおちる人たちへのまなざしです。ウェブサイトのなかに、非常に印象に残る文章があったので、引用させていただきます。

この「志」や「突き抜けた才能」を持つ子どもを発掘し、自己責任で前に進めという教育は、その一方で、「自分は他の子に比べて突き抜けてないからダメだ」と思う子どもを生み出し、彼らを苦しめるようになってきたのも事実です。突き抜けている事だけが素晴らしいことではありませんが、ユニークさを強調したが故に、普通であることがダメであるかのように捉える子どもが出てきてしまいました。また、ROCKETに選ばれることを目標にする子どもも出てきました。つまり、メリトクラシー(業績・能力主義)を批判しながらROCKETがメリトクラシーの罠にはまったわけです。

LEARNの誕生

上記のような省察をふまえ、メリトクラシーの罠に陥ることなくより難しく複雑な方向に舵を切ったLEARNの勇気を、ぼくは素晴らしいと感動しました。

詳細な取り組みを現場で見たわけではなく、ウェブサイトで読む限りですが、LEARNでは、さまざまな特性を持つ子どもたちの学びの課題・キャリア形成の課題に向き合うために、個別最適の学びの場のあり方がさまざまな仕方で研究・実証されようとしているようです。

まとめ

いわゆるプロジェクト型学習が、教育資源を豊富にもち、コミュニケーションスキルと精神的な自信を有する子どもが優位になるような場になってしまっていることを留意しながら、LEARNのような研究機関と、多種多様な起業家育成プログラムが手を組み、参加の敷居を変えていくことができれば、より多様な人々に創造性教育の機会が開かれていくはずです。

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臼井 隆志|Art Educator
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