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中年男の身だしなみ消費意欲を高めるために必要なのは「モテ」ではない

男性化粧品市場はこれから伸びていく。コロナ禍においても、女性の化粧品がが委縮の自粛などで低下した半面、堅調に伸びている。もともと市場規模がまだそれほど大きくないだけに、伸びしろはたくさんあるという話でもある。

富士経済によると、「メンズフェースケアの市場規模は、2010年の187億円から、22年には283億円まで伸びる可能性がある」と推計している。

大手総合商社もこの分野に注目しているようだ。

真面目なマーケティングの話をすれば、男性化粧品というか身だしなみ市場を活性化させる最大の商品は「消臭系」だと思っている。仕方ないことだが、男性は臭いのだ。40歳も過ぎれば加齢臭もわく。若者も汗や脂なんやらでいろいろ臭い。しかし、この臭さに本人は気づけない(自分のにおいだから)。

かといって「あなた、臭いですよ」とはなかなか言ってもらえないし、言われたら言われたで不快だろう。かくして、「いつまでも臭いままでいつしか嫌われるおじさん」の完成というわけだ(おじさんは臭いから嫌われるというわけでもないというのがまた悲しいところだが)。


自分では気づけない「臭さ」を数字で人知れずチェックできる機械とかあればバカ売れするだろうなと思う(どこかにある?)。その上で、香水とかではなく「無臭」になれる何かが開発されればなおよい。

さらに、男性化粧品が今後注目されるもうひとつのポイントは、シワ消し、シミ消しの方向。とにかく匂いにしろシワにしろシミにしろおじさんたちは全部消したいのである。長所を伸ばしたいのではなく、欠点を消したいのだから。

こちらも最近は各社からいろんな製品が販売されている。が、そもそも面倒くさがりの男性には、化粧水とかスキンケア商品より、一個で欠点をカバーできるBBクリームなどが重宝される。使用している人は多い。

男性の中には、眉毛の薄い弥生人系統の顔立ちの人も多いと思うが、眉毛を書き足すだけでずいぶんとイメージが変わるものである。ペンシル型のものであれば初心者でも使いやすいのでおすすめしたい。

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ところが、メーカーによっては何をどう勘違いしたのか、男性向けだからと殊更変に「男向け」をアピールしたパッケージやネーミングをしてしまうところもあるが、あんなの逆効果である。
こんなの↓

そういうのは求められていないし、「男の…」なんてネーミングに反応する層はそもそも男性化粧品なんて買わない。

「男が化粧するなんて世も末だ」と思った中高年がいたとしたら、むしろそっちの方が間違いである。江戸時代の町人ですら男は化粧をした。

天保期の1830年頃に発行された寺門静軒の『江戸繁昌記』には、「糠袋(ぬかぶくろ)で肌を磨く男」の描写がある。糠袋とは、主に女性用のデイリスキンケアアイテムだったが、それを使って肌のお手入れをしている男性もいたようである。

さらに遡って、天明年間(1781年~1789年)には、町人の若者の間で、眉を抜いて薄くした“かったい眉”と呼ばれるスタイルが大流行した。また、銭湯では毛切り石が常備されており、男たちはムダ毛ケアに余念がなかった。白い歯も江戸っ子の粋を表すとして、男たちは念入りなオーラルケアをしていた。

もうひとつ勘違いしてはいけないのは、男性メイク市場が活発化するのは、「女にモテたい」という個人的欲求がメインではない。

かつて男性氏の表4にはこういういかがわしい広告が山ほどあったが、こういうことではない。

すでに身だしなみに気を使っている男は、「恥をかきたくない」とか「他者に舐められたくない」とかいう対人関係的な社会的な欲求による。それは言い換えれば、他者の視線を気にするということでもあるが、それは社会生活においては大切である。

「女性にモテる」という訴求は一見効果がありそうな気がするが、そんな広告で寄ってくる人間は決してリピーターや優良顧客にはならないし、かえって「使ったけどモテないじゃないか」というクレーマーを作るだけだ。
それよりも「面接に通るメイク」とか「年収換算でいくらくらい差が出る」とかの社会的な部分での訴求の方が効く。これは、若い男だけではなく、おっさんにも響くだろう。恐怖訴求型でいえば「臭いやメイクも気にしてないようなおっさんは年収あがらない・出世できなくなる・嫌われる」ということです。

ここは重要なポイントで、おじさんは好かれなくてもいいから、せめて少なくとも嫌われたくないのである。

なぜ嫌われたくないのか?嫌われる=所属するコミュニティからの排除のリスクだからである。同時に、かつて自分が若いころ、おじさんたちを嫌っていた人ほど、自分が中高年になると嫌われたくない症候群になる。自分がかつて嫌い、馬鹿にし、排除してきた存在に自分がなるのが怖いからだ。

おじさん構文のラインを送ってしまうのも、くだらないダジャレを言ってしまうのも、セクハラまがいの発言をしてしまうのも、ツイッターで聞いてもいない余計なクソリプ送ってくるのも、ジムで教えたがるのも、本当は嫌われたくないがゆえの行動なのに、悲しい事に、結局そういうことをして嫌われてしまうのだけど…。





長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。