定期的に話題になる新入社員の「外遊研修」の効果を高めるにはどうすべきか?

不二越の新入社員海外滞在制度と人材育成の課題

不二越が新入社員全員を対象に実施している2カ月間の海外滞在制度は、若手社員のキャリア形成に良い影響を与えているようだ。Z世代の若者にとって、異文化体験を通じて新たな視点や価値観を学ぶことができるこのプログラムは魅力的であり、帰国後に仕事へ向き合う姿勢やキャリアビジョンに変化をもたらしているという。しかし、同様の外遊プログラムは、過去にも様々な企業が実施してきたが、その効果は一様ではなく、飛躍的な成長を遂げる者とそうでない者の差が顕著だ。そこで本稿では、このような外遊プログラムの意義や課題について考察する。

新入社員にとっての海外滞在の意義

不二越のプログラムでは、新入社員が欧米などで一般家庭にホームステイしながら語学学校に通う。現地での生活を通して異文化の価値観に触れることや、自分の「当たり前」が他者には異なることを知ることは、新人社員にとって大きな学びとなる。例えば、ある社員はカナダでの滞在中に、家事を手伝うことで距離が縮まり、人間関係の構築における行動の重要性を体感した。また別の社員は、米国での日常生活の中で異なる価値観の存在を実感し、それぞれの流儀を尊重することを学んだという。こうした異文化体験を通じて、社員たちは自己の視点を柔軟に持ち、職場においても協調性や対話の重要性を意識するようになるのである。

このような経験は、企業が期待する対人関係スキルの向上や異文化理解の促進に直結するものであり、今後のグローバル展開においても有益だ。不二越の本間 博夫会長も「営業で契約を取るには、人の心に入れることが最も重要」と述べており、こうした人間関係構築能力の向上が、新入社員の貴重な資産となることを期待している。

海外滞在プログラムの課題と効果的な設計

一方で、こうした外遊プログラムには課題もある。NECやデンソーなどでも同様のプログラムが過去に行われてきたが、その実施コストの大きさに加え、必ずしも全員が成長するわけではない点が問題視される。大学生の語学留学や交換留学でも同様の現象が見られ、飛躍的な成長を遂げる人と、単に海外を楽しんで帰国する人との差が大きい。この違いは、外遊先での経験が個人にどれだけ意味のあるものとなるかに依存しており、人事部が外遊先での経験内容を完全にコントロールできない点も課題である。

筆者自身もインドネシアでの調査留学や大学教員としての経験から、渡航前の問題意識の設定と渡航中のキャリアカウンセリングが成長に大きく寄与することを実感している。漠然とした期待感だけで渡航する若者は、自分探しに終始することが多いが、問題意識を持って出発し、定期的にキャリアカウンセリングで経験を言語化し、自分の気づきを明確にすることで、帰国後のキャリア開発に生かす経験を自ら積み、短期間でも大きな成長を遂げる。

結び

不二越が導入した新入社員海外滞在制度は、若手社員に異文化体験を通じて多様な価値観や対人スキルを身につけさせる優れた取り組みである。しかし、ただ海外に派遣するだけでは成長は保証されない。企業側が事前に目的意識を設定し、渡航中の経験をキャリアに活かせるようなサポート体制を設計することが重要である。企業は、社員が海外滞在中に自らの気づきを深め、帰国後のキャリアにどう活かすかを指導することで、短期間でも効果的な成長を促すことができる。

これにより、企業がコストをかけて実施する外遊プログラムが真の人材育成に繋がる。今後、グローバルなビジネス展開がますます重要になる中で、日本企業はこうした人材育成のあり方を再検討し、効果的なプログラム設計に努める必要があるだろう。

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