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予測不能な時代のマネジメント


 変化が激しい。今年の年初に、3ヶ月後にこんな世の中になっていようと想像した人はおそらく皆無であったろう。
 このような時代に、従来のPDCA(Plan-Do-Check-Action)は、うまく働かない。なぜか。まず、未知のことが次々におきると、時間をかけて計画を作ったり、計画をメンテナンスする意味がなくなる(その労力に見合うリターンがなくなる)。また、計画通り進捗しているかによってプロジェクトを評価することも意味をなさなくなる。
 むしろ、状況を常に注視して、即興的な対応が求められる。これは、組織の活動形態としては、クラシックのオーケストラのように予め譜面という計画に沿って実行するモデルではなく、よりジャズのグループでの即興演奏のモデルに近くなる。
 しかも、ジャズのような息の合った少人数の連携だけでなく、より広い人たちやその専門性が活かされなければいけない。
 これこそが、この予測不能な時代における組織の大きな課題である。

 ここしばらく、この予測不能な時代に有効な組織や働き方とはどんなものかを考えてきた。その結果、一つの答に至った。ここでは、これを共有し、ご批判を仰ぎたい。
 そのポイントは以下の3つのポイントに集約される。

 1. 過去のデータを用いて過去の延長ではどうなるかを予測する(Predict)。
 2. 過去の延長と現実との乖離(兆し)を特定する(Perceive)。
 3. 乖離が起きている対象に対し優先的に行動を起こす(Prioritize)。

 この3つのPを継続的かつ体系的に行う仕組みが必要なのである。これはデータによって検証された変化に強い仕組みなのである。この3つをあわせてPPP(=3P)とここでは呼んだ。

 この予測不能時代のマネジメントは、データとAIを使えば体系化できる。ただ、気をつけるべきことがある。それは、まず予測不能な時代における合理的なマネジメントがあり、それを体系的に行う手段として、データとAIがあるのである。これが逆になってはいけない。
 AIがブームになっても、それほど現実のビジネスに大きな影響を与えていない。これは、このマネジメントをいかに変革するかという概念を持たずに、データやAIの導入を進めようとしているからである。デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるには、この新しいマネジメントが中核にあるべきである。DXが先にあるのではうまくいかないのである。

 この3Pを当たり前のことと思った方もいるかもしれない。実は、この3Pを実践するのは、意外なほど難しい。
 まず、第1の予測(Predict)の結果が、現実と合わないことが障害になる。そもそも、この予測は、未来を当てるためにやっているのではない。過去の延長を知り、過去の延長を越える新たな変化が起きていることを明らかにするために行っているのである。しかし、新しいことには必ず反対する人がいる。批判しようとする人は「この予測は当てにならない」とネガティブ評価になりやすい。
 次に2番目の、予測と乖離した結果をどう認識(Perceive)し、行動に活かすかである。従来の統計学や科学的な検証では、統計的な有意性が大事にされている。得られたデータが、たまたま偶然のばらつきによって得られたものか、確かにデータで検証されたものかを気にするのである(普通「p値」や「5%有意性」という概念が用いられる)。統計に関する教育を受けた多くの人は、「データにより統計的な有意性が検証された事実は認め、そうでないことは認めないことが科学的な態度である」と信じている。
 しかし、実はこれが現実に合わないのである。予測不能に変化する状況では、常に新たな変化が起きている。この新たに起きた変化については、データは当初必然的に少ない。データが少ないと、統計的に決して有意にはならない。従って、上記のような一見「科学的」な態度に従うと、新たな変化を常に無視し、気づいたときには「時、既に遅し」ということになってしまう。統計有意性の上記の考え方は、間違った論文を発表しないためには有効であったが、現実に向き合うためには障害となり、科学的でもないのである。
 しかも、統計有意まで持ち出さずとも、この乖離に注目しようとする人を批判するのは簡単である。「それが大事だという根拠は何ですか」「大事だというなら説明責任を果たして下さい」「検証はできているのですか」と言えばよい。そもそも「現時点では、過去の延長線上になく、データも少ない変化が起きているから、新たな行動を起こそう」といっているのだが、「根拠」「説明責任」「検証」という何人(なんびと)も否定しにくい言葉がそれを阻むのである。
 さらに、仮に、この第1,第2の障害がクリアされたとしても、第3に、この予測からの乖離の起きている対象に、優先度を上げて行動すること(Prioritize)にも障害がある。
 これはそもそも、通常のオペレーションの想定ではカバーしていない変化の対象に対し、新たな調査や試行錯誤を行って、データを積みましたり、分析したりすることが必要だといっているのである。しかし、現場のオペレーション関係者は、効率を常に気にし、効率で評価されている。従って、根拠や検証もできていないことに、現実のオペレーションが影響を受けることに強く反発する。だから行動を起こしにくいのである。
 この3つのハードルによって、この3Pは実行が難しい。しかし、この3Pというのは、データにより有効性が確かめられた科学的な考え方である。ハードルがあろうとも変革が必要である。

 現下のウイルスへの対策においても、この3Pのシステムを体系的に構築することが有効だと思う。既に、このようなことが感染対策の本部において行われているかについては未確認であるが、おそらく本件に関する専門家の方々は、頭の中では、これに近いことを経験的に行っているのでは、とは思う。
 ただ、データと機械学習を用いれば、これをもっと継続的、体系的に、自動的に行う仕組みが作れる。それこそが予測不能な時代のマネジメントあるいはガバナンスの姿だと思う。

 今回のウイルスは、社会の仕組みや考え方を大きく変えると思う。直近のウイルスとの戦いになんとしても勝利することがまずは大事である。しかし、このウイルスの社会的な影響の大きさを考えると、我々は、二度と「ビフォー・コロナ」の時代には戻らない可能性が高い。
 今後の「アフター・コロナ」の時代の大きな違いは「世界は予測不能である」ということを認めることだと思う。その意味で、これが収束した後も、単に今回のウイルスに対する対処療法や反省を繰り返すのでは足りない。以前に盛んに行われた「想定内」か「想定外」かというような議論も不毛である。

 新たな時代では、予測不能な変化に対し、より体系的な行動ができる社会を目指すべきであろう。
 未知の脅威やさらには新たな機会に対し、我々は、常に前に進まねばならない。これには新たな社会と組織のマネジメントが必要である。
 この予測不能な時代における進み方を、いかに体系化するかこそ、我々に突きつけられた最も大きな課題である。
 新しい世の中の再構築に、本論考が何かのヒントになればと思う。

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