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キャッシュレスのコストとキャッシュのコスト

日本の高齢者にもキャッシュレスが急速に広がってきているという。

主にはいわゆる「電子マネー」だが、クレジットカードと違って審査が不要なのと、基本的にはチャージした分しか使えないことで、使いすぎや紛失への懸念がないことが普及の理由にあげられる、というのは、とても納得がいく。

消費者側のキャッシュレスによる決済利用が進むと、今度は事業者側がキャッシュレスに対応しないことが問題になってくる。決済機の導入コストや決済手数料が敬遠されて導入が進まない、というのが理由としてよく聞かれることだが、キャッシュレス化に伴うコストばかりに目がいって、現金を扱うコストはこれまで意識されることがとても少なかったように思う。

例えば、多くの店では閉店後にスタッフがレジを締めて現金を数え、売り上げの記録と照合し、現金を銀行の夜間金庫に預けに行ったりする。そのスタッフの人件費はキャッシュに伴うコストだ。預けるための夜間金庫の設置コストもある。銀行では、現金を専用の現金輸送車を購入して運用している運輸会社に委託して輸送し、運輸会社はガソリン代の負担のほか警備員兼ドライバーを雇って運んでいる。銀行やコンビニのATMは、安いものでも数百万円する高価な機械であり、定期的なメンテナンスにも人的コストがかかっている。そして、ATM始め現金を扱う設備や施設は、防犯のために通常の設備や施設よりも高価な防犯機器等を備えなければならず、これもキャッシュに伴うコスト。そして、そもそも現金を鋳造・印刷するコストや、偽造を防止する技術にもコストがかかっている。

そして、キャッシュが強奪されたり騙し取られたりするリスクと、キャシュレスによる詐欺等のリスクのどちらが高いのか、キャッシュレス化が進展しきっていない現段階では比較しにくいとは思うが、少なくても強奪のリスクは限りなく小さくなるだろう。カードを取られたとしても、悪用される前に利用を停止できる可能性が高いからだ。こうしたリスクもコストのうちだし、そうしたリスクを回避するための保険もまた、保険料がコストとしてかかってくる。キャッシュレスが進んでいるスウェーデンでは、銀行強盗の件数がかつての1/100といったレベルで減少したとも聞く。こうして現金にまつわる犯罪が減少するなら、警察官の人数も減らせるかもしれない。

このように、これまで当たり前すぎて見過ごされてきたけれど、現金を扱うことには多大なコストがかかっており、それが商品・サービスの価格や銀行の各種手数料や税金などに転嫁されて、私たち自身が負担しているのだ。

キャッシュレスに伴うコストを誰がどのように負担するかは、まだこれからの議論やキャッシュレス社会化の成り行きによって決まってくると思うのだが、社会全体としては、キャッシュにも膨大なコストがかかっており、それとキャッシュレスのコストを冷静に比較していく必要があると思う。

もちろん、当面はキャッシュとキャッシュレスが並存するので、その間はコストが二重にかかることにはなるので、消費者側の心理がキャシュレスを受け入れる方向になったのであれば、あとはどれだけキャッシュレスに速やかに移行できるかが、トータルコストを減らすために重要なポイントになっていくだろう。


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