ビジネスパーソンにとって、チームスポーツは学びの宝庫
日本はスポーツが身近にある国
最近、国際的なスポーツ大会における日本代表の活躍が目覚ましい。サッカーワールドカップでは世界を驚かせるようなジャイアントキリングを繰り返し、野球では世界一に輝いた。日本代表の活躍に魅せられ、スポーツをしたい欲求が上がっている社会人も多いのではなかろうか。
もともと、日本は海外と比べてもスポーツがしやすい環境にある。それを支えるのは部活動だ。部活動は日本固有の文化といっても良いほどで、若者が学校生活の一環としてスポーツに取り組むことができる制度はほとんどの国に存在しない。近しいのはイギリスにもあるが、日本ほどは加入率は高くない。早稲田大学スポーツ科学学術院の中澤篤史教授によると、 日本は 「一般生徒の教育活動」、 アメリカは 「少数エリートの競技活動」、 イギリスは 「一般生徒のレクリエーション」が国別の特徴だという。
スポーツに馴染みある人の多い日本だからこそ、スポーツから得た学びがビジネスに活きることもあるだろう。実際に、十数年前までは新卒採用で体育会系を好んでいた企業が多くあった。それでは、スポーツから得る学びとは何か、日経COMEMOのお題「#スポーツから学んだこと」について考えてみたい。
スポーツは組織行動論で重要な研究対象
日本では、経営学は "Business Administration(経営管理)"として企業の活動に焦点を当てた学問だと捉えられがちだが、世界的には対象とする組織には多様性がある傾向にある。特に、ヒトを対象とする組織行動論や産業組織心理学では尚更だ。顕著なのはリーダーシップやチームワークに関する研究で、代表的な研究が軍隊を対象とした調査から知見を得ているものも少なくない。
その中で、スポーツも重要な対象となる。例えば、欧州のプロサッカーチームでは組織心理学の研究者を雇用して、チームを最適な方向に導く方法を分析したり、プレーに役立つ情報を得ている。先日のワールドカップでもよく見られた場面で、PK戦で選手がタブレットをみながら、データ分析の結果を活用していたのは記憶にも新しい。
ラグビー日本代表から生まれたリーダーシップ理論
日本でも、スポーツから着想を得て生まれた理論がある。立命館大学総合心理学部の高橋潔教授のチームは、ラグビー日本代表の監督を務めていた平尾誠二氏から、リーダーシップの4つのスタイルを提唱している。優れたラグビーチームでは、発揮されるリーダーシップは1種類ではなく、なおかつチームのメンバーが分担して受け持つという。
スポーツは、ルールという制限の中で相手チームと競い合いながら、メンバーの相乗効果を生み出さなくては勝利を掴むことができない。そのため、リーダーシップやチームワークが顕著であり、確認がしやすい。一方で、ビジネスではスポーツとは異なり、メンバーの役割や戦術が明確であることは少ない。だが、ルーティーンで回している業務ではなく、プロジェクトベースの業務になってくると性格がスポ―ツに近づいてくる。プロジェクトとして予算や時間などの制限がある中で成果を出すためには、メンバー同士の相乗効果が重要となるためだ。
今後、AIによってルーティーンで回す業務は自働化が進み、プロジェクトベースの業務が更に増えると予測されている。DeepLやAI画像作成、チャットGPTの衝撃など、変化の兆しを強く感じる場面も増えてきた。そうなったとき、スポーツかビジネスかを問うのではなく、プロジェクトで成果を出すための行動や心理は領域に関係なく有益な知見が数多く出て来るだろう。