起業の意欲ある留学生をどうやって育てるか?
2025年から「起業ビザ」が全国で適用される。この制度拡充により、外国人が日本で起業を目指しやすくなることは間違いないだろう。特にディープテックや地方創生に関連した分野での貢献が期待されている。しかし、制度の整備だけではなく、その先にある実際の起業支援の在り方が問われている。
筆者は大分県で学生起業を支援する活動をしているが、留学生の起業意欲の高さに日々驚かされる。日本人学生と比べると、留学生は行動力が際立つ。調査に時間をかける日本人学生とは対照的に、留学生は考えるよりも先に動き出す。このフットワークの軽さには一長一短があるが、起業という挑戦においては間違いなく強みである。特に、アイデアを実現するためのバイタリティは、起業家にとって不可欠な資質と言える。
起業の筋道を描く支援が不足している現状
留学生の行動力を支える支援体制は十分とは言えない。現在、日本国内にはビジネスプランコンテストや起業家精神を育むためのプログラムが数多く存在する。しかし、これらの取り組みが事業化の実現まで結びついているかというと、難しい点が多い。留学生がもつグローバルな視点や斬新なアイデアを具体化するための訓練が不十分であることが一因だ。
たとえば、イスラム圏の留学生が「日本とイスラム文化を融合させる」という壮大なビジョンを持っている場合でも、支援者がそのスケール感に対応できないことがある。「まずは小さくお店屋さんから始めたら?」といったアドバイスが留学生を失望させるケースも少なくない。もちろん、現実的な第一歩を提案する意図はわかるが、こうしたアプローチが夢を矮小化させ、留学生のモチベーションを削ぐ可能性もある。
グローバルな視点が生むイノベーション
外国人だからこそ見える視点が新しい事業を生むことは少なくない。例えば、英国在住のエストニア人が開発した海外送金アプリ「Wise」は、異なる通貨で生活費を管理する不便さを解消するために生まれた。同様に、米国では留学生や在米外国人が起業して成功を収める例が後を絶たない。
日本でも、外国人起業家が日本市場や文化を背景にした独自の事業を立ち上げる可能性がある。例えば、ベトナムでは日本からのオフショア開発のニーズの拡大の波に乗って、日本で学んだ多くの留学生が起業し、会社を成長させている。留学生の発想は、単なる日本国内のビジネスにとどまらず、世界規模で展開可能なスタートアップの種となるだろう。
留学生起業の可能性を広げるには
日本で世界と戦える規模のスタートアップが少ないことは長年の課題である。この状況を変える鍵は、留学生を含む外国人起業家が持つグローバルな視点を活用することにある。彼らが描くビジョンを支援し、事業化への道筋を一緒に作ることが重要だ。そのためには、文化の違いや視点のギャップを埋めるための伴走型支援が求められる。
また、金融機関や行政の柔軟な対応も欠かせない。たとえば、銀行口座の開設要件緩和は大きな進展だが、さらに踏み込んで資金調達の多様化や税制面での支援を拡充することが必要だろう。
最後に
日本の起業環境が留学生や外国人起業家にとって魅力的なものとなれば、彼らの視点を通じて新しい産業や価値が生まれる可能性が高まる。「起業ビザ」の全国展開は、その一歩に過ぎない。この制度を活用して、より多くの留学生が持つアイデアを現実化できるよう、教育機関や地域社会が一丸となって支援することが求められる。