「複業人材を生かす組織」とは、複業で得られた知見を共有する仕組みがある組織

初めまして。11月からKOLとなりました堀田陽平です。弁護士をしています。経済産業省産業省産業人材政策室で働き方に関わる政策立案に従事した経験を踏まえ、働き方に関して意見を投稿していきたいと思います。

早速、「複業人材を生かす組織とは」とのテーマについて募集がありますので、初投稿します。

https://comemo.nikkei.com/n/n546d2e7e34e3?magazine_key=mb7af516ae320

1 そもそも複業は何によって禁止されていたのか
このテーマに関しては、少し迂遠になりますが、「そもそも複業は何によって禁止されていたのか」から考えてみたいと思います。

働き方改革実行計画で「副業・兼業の推進」が掲げられて以来、“副業解禁”という言葉をよく耳にするようになり、「副業」(「複業」、「兼業」…)という言葉は広く浸透してきたように思います。
ところで、働き方改革には、法律マターのものと、ガイドラインマターのものがあります。「副業・兼業の推進」がどちらであるかというと、まずモデル就則の改定と副業・兼業ガイドラインの策定が行われたものであるので、ガイドラインマターということになります。
つまり、(課題がないわけではないですが)「副業・兼業を行うこと」自体については、法令改正が必要であったわけではなく、そもそも、働き方改革の前から、労働者は、例外はあるものの原則として自由に副業・兼業を行うことができるとするのが裁判例の考え方でした。

働き方改革実行計画が示された頃、「平成30年から厚労省が副業解禁!」とか「副業解禁はいつから?」といった言葉をよく目にしましたが、これを踏まえると、実はこの言葉には違和感があるはずです。なぜなら、法的にはもともと解禁どころか、一度も禁止されていないからです。

となると、副業・兼業を「禁止」していたのは、法制度ではなく、これまでの固定的な組織風土や長時間労働を是とする働き方、働く価値観によるものではないでしょうか。

2 複業人材を生かすには就業規則を変えるだけでは足りない
とはいえ、働き方改革以降、「●●社が副業解禁」という言葉もまたよく目にするようになり、各企業が「副業解禁」に乗り出しました。
しかし、これが単に「就業規則を変えて、原則副業OKにしました」ということだとすれば、そのことだけでは「複業人材を生かす組織」ではないでしょう。なぜなら、これまで述べたとおり、もともと法的にいえば、副業・兼業は原則として自由であったので、就業規則そのように変更したとしても、何も変わっていないからです。いわば「マイナスがゼロになった」というに過ぎません。
さて、長くなりましたが、「複業人材を生かす組織」は、抽象的に言えば、これまで障壁となっていた固定的な組織からより多様性を受容し柔軟な組織へと変えた組織ということになろうかと思います。そのために、まず経営トップからのメッセージや企業理念、パーパス(“purpose”)の発信ということが重要でしょう。
ただ、現実的に複業をしている人がより「生きる組織」というのは、複業で得た知識や経験を本業の企業においても共有し、フィードバックする機会を作っている組織ではないかと思います。
おそらく、複業を行っている人は、例え経営トップからのメッセージがあっても、多かれ少なかれ、他の社員に引け目を感じているかもしれません(もちろん、そうならない社会になればよいですが)。そのような中で、複業で得た知見を本業企業にフィードバックできる機会があれば、複業人材は「自分がやっている複業が本業の他の社員や本業企業にプラスになっている」とまさに実感できるはずです。また、こうすることで、本業、複業へのモチベーションも上がり、良い循環ができるでしょう。
実際、副業・兼業を積極的に推進しているある企業では、定期的に、副業・兼業で経験した知見を他の社員に報告する場を設けているところもあります。その企業では、どのくらい儲かっているか、ということについても報告させているようです。
このように複業での知見を本業にフィードバックを得ることは、複業を行っている人材本人だけでなく、本業企業においても新たな気づきを得て、新たな付加価値の創造につなげることができ、究極的には企業価値の向上にもつながっていくものと思われます。

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