見出し画像

「自走する組織」をいかにして作り、イノベーションへと繋げるかって話

前回の投稿では「自走する組織」の必要性について環境変化の観点から書きました。

「自走する組織」の本質的な目的は、組織力によるイノベーションにあると捉えています。
第2弾の今回は、イノベーションにつながるほどの自走力のある強い組織へとアップデートする方法論について、考えていきたいと思います。

組織のアップデートは人事の全てを変える

Almoha社で、組織づくりのためのプロダクト開発やコンサルティングを通じて多くの会社さんのヒアリングをしますが、「組織の自走力を高めたい」というニーズは日々高まっていると感じます。

これは、組織の規模やフェーズに限らずです。数人若いベンチャー企業から、グループで数万人の企業まで、同じような課題感を持ちご相談いただきます。

しかし、自走する組織は、人事制度を変えればできるわけでもないし、業務分掌や権限規程を変えればできるわけでもありません

ざっとこのくらいの領域全てをアップデートしていく必要があります。

・ミッション・ビジョン・バリュー
・コーポレートブランディング
・経営管理(KPI、OKR、MBO等の設定とPDCAサイクル)
・人事制度(評価・等級・報酬)
・組織設計と人員/採用計画
・中途/新卒採用の戦略と実行
・人材開発とタレントマネジメント
・福利厚生・労務管理と働き方
・システムの導入と仕組みの活用
・情報共有プロセスや会議体・1on1の設計
・社内コミュニケーションの活性化
・組織サーベイの実施

私がコンサルティングで携わらせていただく場合、こうした経営人事や組織開発といわれる領域の全般に手をつけてゆきます。
ジョブ型雇用を導入すれば万事OKというのも、残念ながら幻想ですね。


自走する組織の真の目的はイノベーション

これほど大きな変革をしてまで、なぜ企業やリーダーは自走する組織を志向するのでしょうか?どこにその目的はどこにあるのでしょうか?

社員の自走力が高ければ、マネジメントの手が掛からず成果が楽に上がり続けるというイメージがあるかもしれません。
しかし、実はこれは単に「社員が優秀」というだけで、「自走する組織」が本来持つパワーを表現仕切ってはいないのです。

本質的な目的はそれは、自走する組織をつくることにより、創造性を発揮しイノベーションを起こすことを期待しているということです。

安定的な成長を志向してきた従来の日本企業では、改善を繰り返しながら成果を積み上げていけば良かったわけです。しかし、人口が減少し市場がシュリンクする中においては、過去の延長線上では継続的な成長が見込めなくなり、非連続な成長を目指す必要が出てきました。

そして、非連続な成長にはイノベーションが欠かせないのです。

イノベーションは、カリスマ経営者によるトップダウンによって起こしてゆくケースがベンチャー企業では多いですね。(私が所属したSHOWROOMの前田裕二氏はそうしたスタイルの典型といえます)

一方、組織が大きくなるほど、トップ個人のイノベーションに依存していられなくなるので、現場でのイノベーションに期待されます。
そして、現場主導のイノベーションとなると、トップダウンの中央集権型の組織では起こせないということに気づきます。

そうやって、個の力を開放し最大化しながら、個と個の化学反応を通じて、イノベーションを起こしていこう、となる。だから、個人に任せられそれぞれが活躍する自走する組織でなければいけないんですね。


個の力を最大限発揮するカルチャーをつくる

上述のように、人事・組織まわりではあらゆる部分に手をつけないとなりません。一方で、大前提として欠かせないことは、組織カルチャーとして個の力を最大限発揮できる環境・雰囲気づくりです。

どんなに組織階層をフラットにしたり、評価制度を変えたり、採用方針を変えたりしても、一人ひとりの行動が即座に変わるわけではありません。

個々の強みを最大化して成果を上げていくという組織のポリシーが、日々の行動や言動となって表れ、カルチャーとして定着して初めて、自走する組織が成立し、全員の行動が変わってゆくのです。

そこで、こうした個の力を最大限発揮できる環境をどのようにつくるのかについて、ここでは3点に整理してまとめたいと思います。


(1)性善説を元にした組織運営

1つ目は、「性善説」を前提としたカルチャーづくりです。

人は確かに、ミスを犯してしまうことはあるし、悪さをしてしまうこともあります。だからといって、組織を性悪説で設計し、レベルの低い社員に合わせたルールをつくると、自走して成果を上げられるレベルの高い社員にとっては窮屈で働きにくい環境となってしまいます。

一方、性善説であれば、相手を信頼して任せるため、細かいルールをつくる必要がありません。
ルールを設けないことの最大のメリットは、「考える組織」をつくることができる点です。ルールがないと「何が最適かを自分で考える」ということが常に求められるので、自ら考える組織が育つのです。

アトラエ社は、組織をフラットにして任せていくホラクラシー型の組織運営をされています。ヒエラルキーと反対の組織ですね。アトラエ社では、性善説で任せていく分、ルールがないと動けないレベルの社員は振り落とすということが記事でも紹介されています。

きれいごとのように見えるが、これがホラクラシー型組織を維持するための本質をついた言葉だ。「性善説」にきちんと応えてくれる社員を維持し、そうでない人を振り落とす社員の「品質管理」ともいえる。

金融機関でも、ルールに縛られすぎていることの弊害があるということを認識し、考える組織を作ろうという気運が出てきています。静岡銀行は「しずぎんワークスタイル・イノベーション」を推進し進んでいる企業ですね。

お堅いイメージの銀行が変革を迫られたのはなぜか。八木稔取締役は「大企業病」を挙げる。個々人の視野が狭い、上司の顔色を常にうかがう、意思決定は遅い…。組織を改めて見つめ、そんな現状に危機感を持ったという。「ルールの枠内でしか判断できなくなり、オープンな意思疎通もしにくい雰囲気になっているのでは」(八木取締役)

メルカリでも、性善説にこだわって組織をつくってきました。(グローバルで共通言語となるよう「Trust & Openness」と表現してます)

こうした考え方について、「理想論はわかるが、メンバーがそれぞれ勝手に違う方向に走り出してしまい統制が取れないのでは」という懸念の声を聞くことが多くあります。

この懸念は、会社として目指すべき方向性と、社員が信じるべき価値観や判断軸を言語化することで解消できます。
目指す方向性と判断基準がすり合っていれば、一定の範囲内で自由に発想し行動する組織をつくり出すことができるというわけです。

つまり、自走する組織にはミッション・ビジョン・バリューの策定と浸透が欠かせないといえます。

さらには、OKRを導入することで、社員が四半期ごとに目指すゴールを明確にし、組織全体が連動しながら達成できるような目標管理をセットで導入することもとても有効です。(OKRは、Objective and Key Resultsの略で、目標管理制度の一つです。OKRについてはまたどこかで。)


(2)なんでも自分でやる文化

2つ目は、なんでも自分で手を動かして行う文化をつくることですね。そのためには、管理部門が過度にサービスしないことが大切です。

そもそも組織とは、本来事業を運営するために必要なわけであって、バックオフィスやコーポレートと呼ばれる管理部門は、事業運営そのものを担う部門ではありません。
ただ、組織が一定以上に大きくなってくると、「採用の担当者」や「請求書を処理する担当者」といった、専門のサポート部門を置くことが必要となるわけです。その方が会社全体としての生産性が高いからですね。

管理部門は事業を支援することが役割なので、良かれと思ってあれもこれもとサポートしはじめます。中央集権的な従来の組織であれば、全体の生産性が向上するので良いのですが、自走する組織では、必ずしもそうとは限りません。
むしろ、一人ひとりが自分で考え行動するある種の起業家精神が求められるので、「誰かがやってくれる」環境よりも、「自分でやるべし」という環境の方が、組織カルチャーとしては適してるんですよね。

もちろん、事業部門が事務作業に追われてばかりいては本末転倒。事務を全員がやろうということではなくて、できるだけ仕組み化することにより、事業部門の作業負荷を減らしつつ、各自が自走できる状態をつくるのが望ましいですね。
管理部門はデジタル化によって効率化・自動化が加速しているので、自走する組織づくりを進めるための環境は整ってきたといえます。

実際、DeNAは、社内ITによる自動化や効率化が進んでいて、承認や決裁などをSlackに全て一元管理することで、事業部門の作業負担を減らしています。

また、メルカリで業務をエンジニアリングの力で自動化した時の話などもわかりやすいと思うので、よかったら事例としてご一読ください。


(3)認知的多様性 × 心理的安全性 = イノベーション

最後は「認知的多様性 × 心理的安全性 = イノベーション」の方程式です。

現場でイノベーションを起こすには、個人が自分で考え行動するというカルチャーをつくるだけでは足りません。個人の力には限界があり、個人でイノベーションが起こせるのはスティーブ・ジョブズのような天才だけです。

僕ら凡人が天才に対抗してイノベーションを起こすには、複数の個人による化学反応に期待するしかありません。そしてその力はとても強力です。

しかし、複数のメンバーでチームを形成しても、必ずしもイノベーションが起きるとは限りません。複数揃うことで、新しいものを生み出すどころか、逆に生産性が落ちていき個人で動くよりもアウトプットが低下するというケースもあります。

そこで欠かせないのが、認知的多様性と心理的安全性の2つです。

この2つが揃う組織のパフォーマンスが高いということは、実はオランダのHuman Insight社によるQIインデックスという研究で証明されています。

この研究を基にしたDHBRの記事で日本語のものもあります。

多様性というと、一般的には、性別、性的指向、人種、年齢、身体的能力などから、多様性の度合いを図りますよね。

「認知的多様性」とは、そうした外見で判断しやすい部分ではなくて、物事の見方・考え方や、価値観、パーソナリティといった、より内面的な要素の違いを指すものと言われています。(日本ではまだあまり言われてませんが、Cognitive Diversityという概念です)

そうしたバックグラウンドの異なる人材が集まると、当然様々な観点からの意見が出ますから、アイデアも広がり、そこでの化学反応も起こりやすくなりますよね。

これはまぁ、ダイバーシティの議論でよく言われる話で、「多様性を高めてイノベーションを起こしたい」と経営者や人事の方もよく話しておられますが、それだけで簡単に起こせたら苦労はありません

ポイントはここに「心理的安全性」が欠かせないという点です。

QIインデックスでは、多様性を集めるだけだと「反抗的」な組織になってしまうことを指摘しています。自分とは違う考えの人が違うことを言うわけなので、意見も合わないですし、気に入らないことも出てくる。そうやって相手に抵抗し、反抗的な組織になってしまうわけです。これではイノベーションは起こせません。

一方、心理的安全性が高い組織であれば、相手の意見を受け入れ、違いの背景を理解しようとし、相互に尊重し合う組織となります。そうなれば、違いのある相手を認め、興味を持ち、互いに学び合うようになります。そこから、化学反応によるイノベーションが期待できるわけですね。

このように、認知的多様性と心理的安全性を備えることによって、イノベーションという、自走する組織の本来の目的を果たすことができます。

ちなみに、多様性と心理的安全性の掛け算の価値は、宇宙兄弟のムッタとビンセントの関係からも議論されてますね。(個人的興味ですみません)


まとめ

以上、「自走する組織」をどのようにつくり、どのようにイノベーションへとつなげていくかについて、検討してきました。

変化の時代において、過去の延長となる安定的な成長には限界があります。

非連続な成長を遂げるためにも、イノベーションを起こす「自走する組織」を構築する一歩目を一緒に踏み出してゆきましょう!!


2021/03/30のイベントでさらに詳細も話せると思いますので、よかったら見に来てください〜

ダイヤモンドオンラインで連載中の記事です!

組織カルチャーを可視化し、浸透させてゆくため、ぜひこちらもご一読ください!


いいなと思ったら応援しよう!