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テレワークでの新入社員育成はネトゲが参考になる

新入社員のテレワークは正解がわからない

4月から新年度が始まり、コロナ禍で企業が新社会人を迎えるのも3度目を迎えた。テレワークの活用も試行錯誤を重ねた結果、落ち着きをみせてきた。基本的には、テレワークは会社や部署単位で浸透しているところとそうではないところの差が大きい。学情の調査でも、新入社員の勤務形態は約6割が出社としている。部分的にテレワークも含めると、すぐにテレワークを実施しているのは1%にも満たない。

新卒重視とテレワークは相性が悪い

導入前から危惧されていた通り、新卒社員とテレワークの相性はお世辞にも良いとは言えない。もちろん、企業によっては成功している事例もある。しかし、そのためには新入社員の配属先となる現場のコミュニケーション改革が必須であり、そこまでコストをかけていられない企業が多いというのが実情だろう。

そもそも、新入社員の定着は経営学の中でも人気のある研究課題であり、テレワークを抜きにしても簡単なものではない。にもかかわらず、テレワークの導入で難易度が更に高まってしまった。

経営学では、新入社員が企業に入って定着していく過程について、主に「組織社会化」の枠組みで研究されている。甲南大学経営学部の尾形 真実哉教授は、論文『若年就業者の組織社会化プロセスの包括的検討』にて、組織社会化のプロセスで新入社員の学習内容を10カテゴリーにまとめている。

【組織社会化過程の学習内容の分類】
① 仕事に関する知識、スキル、能力、現語
② 職場の同僚に関する名前、地位、趣味や性格、バックグラウンド
③ 組織内、職場内の人間関係
④ 組織文化と職場文化
➄ 組織内政治と職場内政治
⑥ 伝統や儀式などに関する組織の歴史
➆ 組織や職場で評価される、あるいは評価されない行動パターンや具体的な評価方法・評価基準
⑧ 組織や部門の役割
➈ 組織内、職場内での自分自身の役割
➉ 競合他社や取引相手、顧客、支店、子会社などの外的環境・ネットワーク
出所:尾形(2008年)

10カテゴリーの内容をみていると、①以外をテレワークで育むのは難易度が高いとわかる。そして、テレワーク先進国である米国や中国がビジネスでのメタバースの活用に躍起になりたがるのもここに原因の1つがある。メタバースで、オンラインでもオフライン同様のコミュニケーションができるのであれば、新入社員の組織社会化の問題も解決できる。

組織社会化過程の学習はネトゲでもみられる

現在、メタバースが最も成功しているのはオンラインゲームだ。全世界で億単位のユーザーが、毎日、国や言語の壁とは関係なく、交流し、共にゲームを楽しんでいる。

スクエアエニックスが誇る世界的トップセールスを誇るMMORPG『Final Fantasy 14』は、プレイヤーから「大縄跳び」と揶揄されることがある。ステージをクリアするために、一緒に戦うパーティーメンバーのチームプレーが不可欠であり、誰か1人でも失敗すると即座にパーティーメンバー全員がやり直しを強いられるゲーム性が「大縄跳び」と言われる所以だ。近年のオンラインゲームは、ApexやLeague of Legends、Overwacthなど、チームプレーが求められる傾向が強い。

 そのため、オンラインゲームで勝利するには一緒に遊ぶ仲間とのコミュニティ形成が重要となる。当然、オンラインゲームだから、そのコミュニケーション手段のほとんどはオンライン上で完結する。活気があり、実績をあげているコミュニティでは、先述した組織社会化における10の学習ができていることが多い。

例えば、映画化もされた『光のおとうさん』の原作者、故マイディ氏のブログは主に自身が主催するコミュニティ「じょびネッツア」について書かれている。その内容は、まるで会社経営に奮闘する経営者のような趣がある。また、米国の事例では、CTOの採用面接で最も成功したリーダーシップ経験で、MMORPG『World of Warcraft』

文化人類学で用いられる構造主義的アプローチで分析すると、テレワークとオンラインゲームは似たような構造を持つ。オンライン上でコミュニティを形成し、チームワークで課題を乗り越えるという図式は、オンラインゲームとテレワークで共通している。そうすると、オンラインゲームをベースとしてビジネスに特化したプラットフォームができると、テレワークでのチームマネジメントのレベルがあがることになる。

メタバースがビジネスでも普及すると、テレワーク下でのチームワークは新たな次元に突入する。そして、プロノイアグループのピョートル氏が語るように「遊ぶように働く」が当たり前になると、ある意味、「仕事のオンラインゲーム化」が未来の働き方なのかもしれない。そうすると、新入社員のテレワークは、メタバースの普及にむけた前哨戦的な立ち位置にあるのだろう。

オンライン環境でのチーム構築やコミュニティ形成では、ゲームはビジネスに対して一日の長がある。そこから学ぶことは多い。そもそも、ゲームという言葉には、複数人が協業して競い合い成果を出すことという性格を帯びている。ゲームの語源は、古英語で”Gaman(ゲルマン祖語の"Ga(集まる)"と"Mann(人)")”であり、「人が集まる」という意味を起源に持つ。そこから、13世紀ごろから「狩猟や釣り、鷹狩り、鳥撃ちの成果を競い合う」という意味に変じ(中世の絵画の題では狩猟の成果物を描いたものに「Games」と付くことが多い)、現代の「競技、遊び」へと変遷していく。ビジネスのオンラインゲーム化は、ゲームという言語にとっては、原点回帰となるのだろう。

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