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【日経_世界経営者会議】「自社の価値」に対する考え方が将来の事業に繋がる:テスラの欧州月間販売台数首位の衝撃

2021年11月9日(火)・10日(水)の2日間にわたって、世界の名だたる企業の経営者が介し、自社の取り組みと将来のビジネス環境について語る『第23回日経フォーラム 世界経営者会議』が開催された。ありがたいことに、昨年に引き続き、今年もオンラインで視聴させていただける機会をいただけた。

そこで、今月は5回にわたって、世界経営者会議での講演内容を題材として、これからのビジネスの変化について考えてみたい。

変化する価値の尺度に適応できるか?

KPMGジャパン チェアマンの森 俊哉氏の講演は、「企業の価値を再定義する」ことがテーマだった。

これまでの価値観では、企業の価値は何かというと株価によって企業価値を金銭的な数値で表したり、売上高や利益などの財務状況の健全性で評価されることが多かった。しかし、社会環境は変化し、何をもって「価値がある」と判断するのか、基準が変化している。

例えば、現在の自動車メーカーで最も時価総額が大きいのはテスラだ。先月末には100兆円を超え、他の主要自動車メーカーの時価総額を足した金額よりも大きい。それでは、テスラの売上や営業成績が、トヨタやフォルクスワーゲン、ホンダのような競合他社と比べて格別に優れているかというとそうではない。2020年度の売上高は約3兆2,893億円であり、創業以来初めて通期で黒字になっている。売上高だけで言えば、国内メーカー6番手のスバル(約3兆3,403億円)を少し下回るくらいだ。つまり、テスラの時価総額は本業の順調さ以外の部分が評価されている。

財務的な指標で評価ができる資産を有形資産(土地建物、在庫など)と呼び、財務的な指標で評価ができない資産を無形資産(知的財産権、ブランド、顧客リスト、研究データなど)と呼ぶ。伝統的に、無形資産は主に企業価値の源泉として考えられてきた。しかし、近年では無形資産だけでは足りず、人的資産や事業戦略、提携関係などの社内リソースも重視されるようになり、それらの価値の源泉となる資産を合わせて「知的資産」と呼ぶようになっている。つまり、企業価値の評価基準が、事業の結果として生み出される財務的な成果だけではなく、その成果を生み出す源泉となる経営リソースにまで及び、多様化していることがわかる。

森氏の講演では、3つの環境変化がこのような企業価値の判断基準の多様化を生んだと語られた。1つ目は、人の価値観が変わったことだ。端的には、ミレニアル世代やZ世代とそれ以前の世代との価値観の隔絶がある。2つ目は、不確実性が高まる中で、利益ではなく社会的意義の大きさが評価されるように変化した。6年前にビル・ゲイツが現代の社会はパンデミックに対して脆弱だと指摘をしても誰も本気にしなかった。しかし、現実にはその5年後には新型コロナウイルスの大流行が起こり、世の中は激変した。何が起こるのか予測ができない世の中で、ある特定の時点で業績が好調だということは重要度が低い。未来への準備や投資が評価される。3つ目は、技術革新だ。テクノロジーの進化は早い。DXやAIをはじめとして、ありとあらゆる領域で最新テクノロジーの活用がビジネスに大きな影響を与えている。この進化についていくことができなくなると、急速に競争力が失われてしまう。

社会変化はソフトランディングしない

これほど急速に世の中が変化すると、そのスピードについてこれない人々が一定数でてくる。そして、意思決定のどこかで「ソフトランディングできないか」「早急に物事を進め過ぎるのは良くない」という話が出がちだ。

しかし、残念ながら社会変化はソフトランディングせず、社会変化は迅速に、かつ劇的に起こるということを歴史が教えてくれている。ヤフーCSOの安宅和人氏が様々な媒体で用いている事例として、「T型フォードがニューヨークの風景を何年で買えたか?」という話がある。1908年の発売からわずか5年で、ニューヨークの街中から馬車は駆逐され、タイムズスクエアは自動車であふれかえった。

ガソリン車からの卒業は、T型フォードと同じようなスピード感を持って行われるかもしれない。2021年9月の欧州新車販売台数で、テスラのモデル3が最も売れた乗用車となった。JATOのレポートによると、欧州の自動車市場は数年前からガソリン及びディーゼル車の市場は縮小傾向にあり、PHEVとEV車が唯一の成長のけん引役となっているという。欧米市場のEVシフトは、現在の予想よりも早く達成されるかもしれない。

日本でも、EV市場を大きくしようという動きが各社から見られる。そこで注目を集めるのは軽EVだ。すでに軽EVの市販実績がありノウハウを持つ日産・三菱は22年初頭に新車の発売を予定し、ホンダも24年に市場投入を狙う。そして、大きくニュースになったのは25年までに実質100万円台という大衆向け軽EVの発売を目指すスズキだ。100万円台の軽EVということは、既存の軽市場をEVに置き換えるという決断だ。

急激に変化し、しかも予想がつかない不測の事態が起こる現代のビジネス環境において、企業の未来志向の重要性が高まっている。将来に向けたビジョンを示し、そのための積極的な行動を社内外に示す透明性が、企業価値として評価されるようになっている。つまり、将来に向けて、自らの価値をどのように定義していくのかが求められているのだ。

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