見出し画像

地方発ユニコーン企業が明日の日本を創り出す①【都市の規模編】

テクノロジー、特にインターネットの発展によって、ビジネスにおける場所の制約がなくなったと言われるようになってから20年が過ぎようとしている。都市と地方の情報の非対称性は弱くなり、技術的には大都市ではなくとも先進的なビジネスに携わることが可能になっている。しかし、日本では未だに東京一極集中が根強く、メガベンチャーやユニコーン企業(時価総額1000億円以上の非上場企業)が地方から生まれると考えている人も少ないだろう。大阪府や福岡県など、起業支援に積極的な地方都市も出てきているが、その活動の中心は中小規模のスタートアップの数を増やすことが主目的なように見える。

しかし、地方都市が経済的に自立し、持続可能な発展を遂げるためには、地場の新しい産業を生み出していかなくてはならない。新しい産業を生み出すためには、中小規模のベンチャー企業も重要だが、急成長し、地方経済をけん引する規模の大きな企業を生み出すことこと重要である。地方都市こそ、戦略的にユニコーン企業を生み出していく試みが必要であり、生存戦略となる。

果たして、地方都市からユニコーン企業を生み出すことは荒唐無稽な夢物語なのだろうか?

これから、全5回にわたって、地方都市からユニコーン企業を生み出すことができるのかについて検討していく。


1. ユニコーン企業は大都市からしか生まれないのか?

地方からユニコーン企業を生み出そうと言っても、多くの人は「東京ですら難しいのに、地方からユニコーン企業を生み出すことは無理なのではないか?」と感じるだろう。まずは、東京で起業の風土を作ってから地方に展開すべきではないかと思うのではないか。そもそも、290社あるユニコーン企業の中で、日本企業は1社しか存在しない。それだけ、ユニコーン企業を生み出すことは難しい。(めったにないから、ユニコーンと呼ばれる)

百歩譲っても、東京に次いで規模の大きな大阪や名古屋でならできるかもしれないが、筆者の住む大分県のような中小規模の地方都市では無理だろうと考えるかもしれない。

このような考え方にも一理ある。この根拠の1つが、カリフォルニア州立大学のサクセニアン教授が指摘した、シリコンバレーの「クラスター理論」だ。クラスターとは、マイケル・ポーター(1998)によると、「ある特定の分野における関連企業、専門性の高い供給業者、サービス提供者、関連業者に属する企業、関連機関が地理的に集中し、競争しつつ同時に協力している状態」であるという。

シリコンバレーでは、大学・専門的研究機関・インキュベーション施設、地元企業、ベンチャー・キャピタル、各種経済団体、地元自治体などの起業家を支援する組織や制度が集まり、相互に関係性を構築することで起業家が次々と出てきやすいエコシステム(生態系)を創り上げている。

この論に従うのであれば、エコシステムの構築に必要なリソース(組織・制度・財源)が揃っている東京で挑戦することのほうが、地方都市でユニコーン企業を生み出そうとするよりも合理的だ。

実際に、ユニコーン企業の所在地はある特定の都市に集中している。290社あるユニコーン企業(2018年12月現在)のうち、70%が10都市に本社を置いている。エコシステムが、ユニコーン企業を生み出すことに大きな貢献をしている。

しかし、だからと言って、ユニコーン企業が特定の都市からしか生まれないかと言うと、そうとは言えない。ユニコーン企業が本社を置く都市は、全世界で67都市もあるのだ。

そこで、次節以降で日本の各都市と比較をしながら、規模の小さな都市から生まれたユニコーン企業を展望し、日本の地方都市からユニコーン企業を生み出す道筋を探っていく。


2. 人口10万人以下の都市からでもユニコーン企業は生まれる

果たして、起業を支援するエコシステムを持たない、規模の小さな地方都市からでもユニコーン企業を生み出すことは可能なのだろうか?CBインサイトの公開しているユニコーン企業のリストから、WikipediaとFRED(統計データを公開しているデータベースのサイト)を参考に、本社所在地(都市雇用圏)の人口が小さい順に整理してみた。同時に、都市の規模を把握するために、人口のほかに都市圏内GDPを参照し、同規模の日本の都市も例示している。

図表を見てみると、かなり小さい都市でもユニコーン企業が本社を置いていることがわかる。すべてを展望するには字数が掛かりすぎるため、ここでは最も人口の小さな都市3つに本社を置く企業を見ていく。

まず、最も小さい都市に本社を置くのは、英国スコットランドのEllon(人口 9,860名)で、クラフトビールを製造・販売するBrewDog社だ。

2007年に24歳の若者2人が3万ポンドで始めた会社が、2017年には時価総額1000億円を超えるユニコーン企業として急成長している。高品質なビールだけではなく、古い既存の大手ビールメーカーを真正面から批判し、過激なマーケティングを行って知名度も上げてきた。また、オフィシャルビアバーを全世界に展開し、海外市場でのブランド確立にも積極的に取り組んでいる。

次に小さい都市に本社を置くのは、カリフォルニア州のCarpinteria(人口 13,684名)に本社を置くPROCOREである。

PROCORE社は、建設会社向けのプロジェクト管理用アプリケーションの開発会社だ。2003年から急成長を遂げ、2016年に時価総額1000億円を超えている。創業者のTooey Courtemancheは、自分が家を建てるときに建設会社とのコミュニケーションに課題があることを実感し、建設業でのプロジェクト・マネジメントを効率化させるためのソフトウェアを開発した。現在は、米国で最もよく使われている建設プロジェクトのマネジメント・ソフトウェアとなっている。

3番目に小さい都市は、ドイツのDuderstadt(人口 20,517名)に本社を置く、Otto Bock HealthCare社である。

Otto Bock HealthCare社は1919年に創業したドイツに本社をおく総合医療福祉機器メーカーであり、若いベンチャー企業のイメージの強いユニコーン企業にあって歴史ある伝統的な会社だ。義肢・装具の世界的なリーダーとして良く知られる。1988年のソウルパラリンピック以来の公式義手のスポンサーとなっている。2015年に売上高が8億ユーロを越え、2017年にユニコーン企業としてCBインサイトのリスト入りを果たしている。(※ユニコーン企業であるためには、①1000億円以上の企業価値、②創業10年以内、③ハイテク企業という規定があるが、Otto Bock社は2016年と2017年に資本関係の大きな見直しがありリスト入りしている。)

また、21位であるドイツのMunichの人口規模は広島雇用圏と同程度であり、GDPでは兵庫県と同規模であるが、ユニコーン企業を2社有している。つまり、都市の規模だけをみれば、広島と兵庫県にユニコーン企業が2社生まれてきても不思議ではない。

このように、業種や社歴の長さを問わずにユニコーン企業として地方都市で成長を果たしている企業が数多くある。


3. 日本の地方都市の潜在能力は大きい

日本は小さいとよく言われるが、比較対象を約200か国ある全世界にまで広げると比較的大きな部類に入る国だ。欧州諸国のほとんどよりも広い国土と経済基盤を持つ。特に、地方都市のインフラ整備や公共サービスの充実、全都道府県にある国立総合大学をはじめとした高等教育機関の整備など、他の先進諸国と比べ、そん色がないほど、地方都市が整備されている。つまり、日本の地方都市は潜在能力は大きい。

下図は、日本の大都市圏と比較した時、都市の規模毎にユニコーン企業の数をまとめた。そうすると、8大都市圏に含まれない規模の都市であっても、かなりの数のユニコーン企業が含まれていることがわかる。

特に、GDPに焦点を当てた場合、約4社に1社の割合で名古屋よりも小さな都市から生まれている。


4. まとめ

ここまで、ユニコーン企業の本社所在地を展望することで、ユニコーン企業は大都市からしか生まれてこないのかについて検討してきた。その結果、都市の規模に関係なく、ユニコーン企業が生まれていることがわかった。

また、ユニコーン企業というと、多くの人にはIT系のベンチャー企業あるという固定概念がある。しかし、実際のユニコーン企業には、ITだけではなく義手義足メーカーやクラフトビールのメーカーなど、業種や企業プロフィールに多様性があった。

BrewDog社やOtto Bock社のようにグローバル市場を視野をいれて、ビジネスモデルを展開していくことで、地方都市であってもユニコーン企業として成長することは不可能ではない。是非、地方都市の若い起業家や起業を志す学生、支援者は挑戦して欲しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?