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ミドルマネジメントの負担増を“仕組み”で解決する。管理職の役割を再定義する意味。

皆さん、こんにちは。今回は、「管理職の役割」について書かせていただきます。

「管理職はつらい」「大変」「なりたくない」という声が、以前よりも多く聞かれるようになりました。管理職は日々の業務を舵取りし、組織戦略設計、人材管理やプロジェクトの管理、予算管理、人材育成に至るまで、多岐に渡って業務を抱え、常に責任やプレッシャーを抱えています。さらに、顧客対応やトラブル対応、市場や事業環境変化への適応、リスキリングなど、管理職に求められる役割は多く、難易度も高く、物理的にも心理的にも負担が増大しています。これでは管理職を目指したいという人がどんどん少なくなっているのも頷けます。

働き方の変化だけでなく、キャリア形成に対する意識の変化も管理職離れを加速させています。わざわざ責任の重い管理職にならなくても、自分の知識やスキルを向上させていけば、人手不足で売り手市場の中、十分良い条件で転職することが可能だからです。

さらに、これまではある程度似た属性、価値観を持った人の集合体だった企業の中で、管理職は正社員も非正規雇用社員も、出社の人もリモートワークの人も、時短勤務の人も副業の人も、あらゆる雇用形態や勤務形態の人を部下としてまとめる必要が出てきました。ハラスメントにもますます厳しい目が向けられるようになり、部下の“叱り方”一つとっても細心の注意を払うなど、精神的に負担を感じる人も多いはずです。

今の管理職が抱えている問題や、それらを解決していくためにどのような観点が必要か、具体的に考えていきます。

日揮ホールディングス(HD)が部長の役割を再定義している。中長期ビジョンを実行するリーダーに徹する。そのためにプロジェクト管理、人材育成に専念する2つの管理職ポストを新設した。「3人の部長」が役割を分担し、人材と組織の成長を両立させる。デジタル化や脱炭素で競争軸が大きく変わり、管理職の負担増に悩む企業への解となりそうだ。

■管理職の負担が増大している理由

一般的に、管理職に求められる役割は以下の通りですが、

  • 組織全体のゴール設定

  • 組織の戦略設計・業務遂行

  • 戦略実行のための意思決定・決裁

  • 人材育成・キャリア支援・部下との定期面談

  • 人事評価・査定

  • プロジェクト管理・タスク管理

  • モチベーション管理・チームビルディング

  • 労務管理・健康管理・コンプライアンス管理

  • 管理職研修などによる知識やスキルの習得

  • 有事の際のトラブル対処

  • 部署間の連携・チーム間の情報共有

これだけ見ても、いかに現在の管理職の職責が重いかが分かります。

日本の多くの企業では、管理職の負荷軽減を大きな経営課題だと捉え、早急に対処する必要がありますが、これほど管理職の負担が増えている背景には、以下のような理由が考えられます。

  1. 実務をこなしながら部下を持つ「プレーイングマネージャー」が多い。(業務量の多さ)

  2. 管理職に求められる能力が高度化している一方で、実態が追いついていない。(能力不足)

  3. 従来のマネジメント手法から脱却できていない。(変化への不適応)

  4. 従業員のニーズや考え方、価値観が多様化している。(多様化への対応が不十分)

  5. リモートワークなど働き方が多様化したことにより、管理の煩雑性が増している。(マネジメントの複雑性の高まり)

  6. キャリア構築からプライベートの悩みまで、部下からの相談や要望が増えた。(心理的安全性確保の必要性)

  7. 企業の「個人の意思の尊重」というメッセージが社員の自分本位な要望につながり、その対応に追われている。(“キャリア自律”トレンドの加速)

  8. 組織のフラット化を推進する企業が増え、課長や部長の役割が不明瞭になりつつある。(レポートラインの不明確化)

  9. 市場環境の変化とともに、業務遂行過程での障害やトラブルが増えた。(予期せぬ事象への対処量の増加)


今の管理職は、仕事の時間の大部分をプレーイング業務に割いていて、チームのマネジメントに専念できない状況があります。その上に「労働時間管理」「コンプライアンス管理」「リスク管理」などがアドオンされ、多重責務により疲弊してしまうのです。

職場の多様性や複雑性が増せば増すほど、管理職の役割は不明瞭になり、かつ突発的になり続けていきます。
このような実態から目を背けたまま、組織成果を出すように要求し続けていても効果は期待できず、改めて、ミドルマネジメントの役割を再定義する必要が出てきているのではないかと考えています。

■管理職の役割の再定義が必要

ミドルマネジメント層においては、「部下を持っていない管理職」もいますし、「少数の部下を抱えている管理職」から、「複数のチームをまとめて見ている管理職」まで多岐にわたりますが、部下の人数がまだ多くない段階では、前述の通り「プレーイングマネージャー」としての役割を期待されていることが実際には多いです。自分自身に課された目標に対する成果も出しながら、部下のピープルマネジメントもするという、両面を求められる立ち位置です。「どちらもやって」と求め続けることも一つの方法ですが、何でもかんでも押し付けるのではなく、自社の戦略やカルチャーに合った役割をしっかり定義する必要があるのではないかと思います。

たとえば、

  • 人材育成よりも「組織成果」を徹底して求める

  • 業務を分解し、仕組み化・マニュアル化するなど、組織の生産性を引き上げるための業務遂行を求める

  • いかにリーダーシップを発揮し、「掲げた目標に向けて組織を導けたか」を評価する

  • チーム全員の「目標設定」とその「進捗管理」をメインミッションとする

  • 部下の「やる気を最大化させること」をマネジメントの第一優先事項として定める

  • 部下の「スキル習得」や「能力開発」のサポート状況を評価項目とする

  • コミュニケーションの質と量を担保し、部下の「モチベーション管理」と「離脱防止」を役割として求める

というように、具体的に何をトッププライオリティとして役割を担ってもらうか、マネジメント層に求めることを明確に定義した方が、管理職側も動きやすく、かつパフォーマンスも発揮しやすいと思います。
※ただ、より上の役職にステップアップしたり、大きな組織や難易度の高いプロジェクトを統括する際などは、結局はプレーイングマネージャーとしての能力も、ピープルマネージャーとしての能力も、どちらも求められることの方が多いということは付け加えておきます。
 
引用した記事には、「将来像を描き、達成への道筋を示す」役割を担う部長を筆頭に、「プロジェクトへの人材配置を差配」したり、「人材育成を主導」する役割を担う部長級の管理職を別で設置している、とありました。部長級の役割を担う人を複数設置し、明確な役割分担をしながら課題を共有し合い、同等に意思決定を行っているそうです。

このように、部長“代行”や課長“代行”のような形ではなく、最終決裁者は部長でも、人材の採用や配置、育成に関する意思決定を「三位一体」で行うというような仕組みは、間違いなく重要です。

組み合わせ方や人数などは、各企業の実態に合わせて構築する必要がありますが、重要なポイントは、一人の管理職に何もかもが集中する体制を回避し、管理職の補完的な役割を担う業務を正式な役割として組織の中に組み込み、「管理職の機能の役割分担をする」という発想を取り入れることです。得意な領域を得意な人が担っていくことは、強い組織を構築するためにも欠かせません。管理職の役割を、複数人の“チーム”で担保することの重要性は、ますます高まっていくはずです。

その際重要なのは、管理職が「何をする人」で、「何が期待されているのか」、「組織から何を求められているのか」の解像度を上げることだと思います。上司が思うほど、部下は上司の仕事の内容を理解していません。役割や業務内容を曖昧なままにせず、誰が見ても明確な役割を定義することは、チーム経営によって組織運営を健全に行うためにも、次の世代が管理職を目指しやすくするためにも、非常に重要なことではないかと思います。

部長は役員候補でもある。複雑な業務の負担が軽くなれば、全社的な視野で経営への感度を磨く時間も得やすい部長層からビジネスモデルの変革をけん引する経営人材をどれだけ輩出できるかも、管理職改革の試金石になりそうだ。

とある通り、管理職になりたくない若手社員が増えている中で、管理職が魅力的なものであると認識されなければ、将来の重要ポストに就く候補者が大幅に減り、先細っていく一方です。

管理職の役割を細分化し、「プロジェクト管理担当」であれ「育成担当」であれ、その道のプロフェッショナルとして活躍する管理職の新たなロールモデルを構築していく必要があることは明白です。


■管理職の仕事を魅力的なものにするために

管理職になりたいと思える人が増えるように、管理職の仕事や職務を魅力付けしていくためには、現管理職が以下のような点を意識していくと良いと思います。

●仕事を増やすのではなく、減らす側になる(業務やタスクを仕組み化する側になる)
→管理職の仕事は放っておけば、勝手にどんどん増えていってしまいます。責任感の強い人ほど、やらなくてもいいことをやり続けてしまい、気づかぬうちに膨大な業務量に押しつぶされそうになっています。これは部下も同様で、現場の社員ほど自分で必要な業務とそうでない業務の“仕分け”が難しいはずです。成果を最大化するために本当に必要な業務とそうでないものを明確にし、チームのメンバーの負担を軽減するための工夫を凝らすことはもちろん、自分自身の業務も見直し、大変そうに働き続けるのではなく、楽しく前向きに働く姿を後輩や部下にも見せることも、管理職な重要な役割ではないかと思います。

●一つ一つの仕事の“意義”を明確にする(仕事の意義を与える側になる)
→リーダーである管理職が、どの方向に向かっているのか、何を重視しているのかを理解しないままだと、チームメンバーは成果の出し方が分かりません。会社がどのような目標やビジョンを掲げていて、だからこそ自分自身がどのような方針を持っているのかを明文化する努力が必要です。成し遂げたい目標や大事にしている価値観、チームに求めるクオリティレベル、評価するポイントなど、できるだけ具体的に説明するだけでなく、一度伝えたら十分というわけでもないので、その時々のタイミングを見ながら適切に伝え続けていくことが重要です。そうすると、一つ一つの業務に落ちていった時にも、なぜその仕事が重要なのか、組織や会社全体にとってどのような意味があるのかも、チームメンバーが理解しやすくなっていきます。

●部下の成長を自分事化し、企業の成長へとリンクさせる(組織全体の成長を仕掛ける側になる)
→良いリーダーは、部下ができるだけ成功体験を早期に積めるように、必要であれば“修羅場経験”を促し、乗り越えるためのサポートをしながら成長へと導くことができます。一人ひとりが持っているスキルや経験に応じてレベル差はありますが、繰り返し成長体験を積んでもらえるような環境や機会を提供し続けていくことが管理職の重要な役割の一つとも言えます。部下の成長を自分の成長のように喜び、チームが着実にレベルアップしていくことが会社全体の成長につながっていることも理解しながら、組織全体の成長を促すために必要なあらゆる施策を仕掛ける側になることが、管理職のやりがいでもあり、魅力の一つとして映ることになるのではないかと思います。

ご紹介したポイントはあくまでほんの一部だと思います。「能力やスキルに自信がない」「自分には適性がない」「多忙になるのが嫌」「責任を負いたくない」など様々な理由で管理職になりたがらない人が増えている中で、「どのように魅力付けをし、組織が期待をかける人材が積極的に重要な役割を担ってもらえるか」、「管理職というポジションが多くの社員から目指されるものとして機能させられるかどうか」は、どの程度企業も人も成長させたいかという経営層の本気度にかかっています。

 
最後に、少し論点が逸れますが、こちらの記事には、

育児を理由に働き方を変える男性が増えている。夫婦で平等に家事や育児を担う考えが若い世代を中心に広がっていることが要因で、長時間労働が常態化し柔軟な働き方ができない企業からは転職・退職を選ぶケースもある。

とあります。性別問わずライフスタイルの変化に伴い、勤務先の働き方などの方針が合わなければ、離職リスクが高まってしまいます。人材流出を防ぐためには、長時間労働の是正や企業風土の見直しだけでなく、仕事の“やりがい”や“明確な目標”が必要です。従来の日本人の働き方をベースとした慣習や価値観の枠組みを超え、マネジメントシステムそのものを変えていかなければならないのです。

こちらの記事にも

総務省によると2022年に転職を希望した人の数は968万人と過去最高を記録。10年で2割増え、23年は1000万人超えが予想される。実際に転職した人の数は303万人と新型コロナウイルス禍前の19年(353万人)に迫る。

とある通り、転職者数は今後も着実に増え、いよいよ日本でも転職が当たり前の時代に突入しつつあります。

好待遇で人材獲得をする動きも目立ち始める中、重責を担う人材がどんどん辞めていってしまうような会社は株式市場からの評価も当然低くなっていくことは間違いありません。人口減少社会の日本で、どのように管理職に対して明確な役割を定義し、課題を設定し、能力開発を行っていくかは、企業の浮き沈みを左右することになります

今まで以上に、企業の中で重要な役割を担う人材への“投資”と、成果を出す上でボトルネックになっているものを排除するなど徹底的な“支援”が問われているのではないでしょうか。



#日経COMEMO #NIKKEI

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