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悪い結果を報告するときに、私が気を付けている3つのこと

不祥事の原因にはマネジメントの失敗が大きく関わる。個人が起こした不正でも、なぜ組織として見抜けなかったのかを考えなければならない。経営陣は不正を起こしたことへの結果責任ではなく、不祥事が起きる環境をつくったことへの管理責任があると捉えるべきだ。

「不正が起こるのはマネジメントの失敗」より

広告運用でCPAが高騰しているとか、くそ高いオフライン広告を出稿したのに資料請求が全然来ないとか、オウンドメディアを運営して1年経つのに成果が全然見えないとか、自分の権限の範囲で起こる悪い結果って、上司に報告する前に、自分の手で握り潰したくなりますよね。

皆さんも似たような「悪い結果に遭遇した経験」ありませんか? もし、あなた自身で「〇〇施策やりましょう!」と船頭を切っていたなら、余計に胃が痛くなるでしょう。言いだしっぺだから。会議の場で「どうして成果が出ていないの?」という上司からのツッコミが怖い。

なにより1番怖いのは、自分に対する信頼が失われていくことです。「〇〇さん、全然ダメじゃないですかぁ」と笑っていない目で射抜かれた瞬間、食器の小皿がバリーンと割れたような音がします。

信頼こそ仕事の源泉です。割れる皿自体が無くなると、その会社での試合は終了。あとは、陰で悪口を言われながら、出世することもなく歯を食いしばって「業務」をこなすのみです。居心地が悪くなり、やがて退職に追い込まれる。私はそういう人を何人も見てきました。

だからこそ、悪い結果は隠蔽したい。無かったことにしたい。

もちろん、バレたら大変なことになるので、全ての悪い結果を隠蔽できません。ただし、大事故に繋がらないヒヤリハットぐらいなら、この手で無かったことにしたい。生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全てのヒヤリハットを、この手で。

冗談です。

「悪魔の声」に耳を傾けたが最後、ヒヤリハットを隠蔽するために、さらに新たな不正に手を染めることになります。1度隠したら、ずっと隠し続けないといけなくなるのです。そういう事件に遭遇したことがあるから分かるのですが、本当に地獄のような心境で日々を過ごすことになるようです。

では、そうした「悪魔の声」に打ち克ち、悪い結果を報告するにはどうすれば良いでしょうか。私が普段から心掛けている3つのことをまとめました。


①結果と人格を分離する

悪いのは結果であって、自分自身(の人格)が悪いのではありません。結果と人格は分けて考えるべきです。しかし、実際には、自分が責められているような心境に至る人は少なくないようです。

私も20代はその傾向があって、プロジェクトが遅延していることを指摘されると「計画通りにできない自分が悪い」「能力の低い自分はダメ」と、メンタルを自傷していました。

ただ、新たに着任された執行役員に「当初想定していなかった問題も発生している。あなたが悪いのではなく、そうした問題が悪いのだから、一緒にどうするべきか見直そう」と声を掛けられ、目から鱗が落ちました。それからは結果と人格を分ける努力をしています。

悪い結果を報告する際、上司 v.s. 私ではなく、上司と私 v.s. 問題という構図でディスカッション出来ることが理想です。私自身も上司に報告する際には「こういう問題を抱えていて、解決策を一緒に考えて欲しい」(上司に求めているのは問題解決だ)という表現をするように努めています。

そもそも、悪い結果を引き起こした原因が自分自身にあったとしても、必要以上に卑屈にならなくて良い、と私は考えています。そんなことより、現状を何とかして変えていくことに時間を使おうぜ!と思います。

もっとも、そうした態度は「反省の色が見えない!」として、例えば政治家のような大勢の大衆から注目を集める仕事には向かないでしょう。

もちろん、原因が自分自身にあるのであれば、その責任は私にあります。と同時に、悪い結果を招いたのが「自分の権限の範囲」ならば、原因が自分自身に無かったとしても、その責任も私にあります。

しかし、責任の取り方は様々で、すぐさま辞任する方法もあれば、悪い結果の原因が鎮火するまで対処に当たる方法も考えられます自分の思う責任を全うするべきです。ただし、鎮火した後に「自分が権限を果たせていなかった以上は他の人が務めるべき」として、役職を降りたり組織を辞めたりすることも考えられますが。

つまり、まずは自分の人格を守ること。結果が悪かったからといって、必要以上に自分の人格と尊厳を傷付けたり踏み躙ったりしなくて良い。もちろん「自分の権限の範囲」ならば責任があるのですが、人格と尊厳は一切関係ありません。

責任という言葉が、自分を傷付ける言葉として出回っているのは解せん。


②結果ではなく原因を考える

今まで出会った上司の多くが「すいません、私が悪いです」と報告しても許してくれませんでした。「そんなことより、何が悪かったの? なぜ悪くなったの?」と原因を求めました。良い上司だと思うのですが、クソほど厳しい上司でした。

悪い結果は、動かしがたい事実です。結果は変えられません。しかし、その結果をもたらした原因を解明しない限り、また同じ結果が生まれます。したがって、根本原因の追究は絶対に欠かせません。

悪い結果が分かると、内容次第では速報ベースで事象を直ぐに報告する、その後に応急対策案をその日中に報告する、根本対策案を1週間以内に報告するぐらいの速度感で取り掛かるのが理想です。

ただし、そもそも何が原因かなんて、そんな直ぐに分からないものです。もし分かるのであれば、最初から対策を立てて施策を遂行するので、悪い結果にならないでしょう。

インサイドセールスの活動で、急に商談獲得に至らなかった。急に連絡が取れなくなった。ウェビナーのアンケート回答率が、急に悪くなった。いつだって悪い結果は「急」です。悪くなる傾向なんて大変が見えません。

だから、悪い結果を目の当たりにすると、仮説ベースでも良いので「恐らくこうなんじゃないか?」と案を生み出し、「だとしたら、こうするべきなんじゃないか?」と仮の対策をすぐさま考えられることも重要です。

短期的には速度重視(悪い報告を直ぐに知らせる、仮説を立てて直ぐに対応する)、中期的には正確性重視(原因を正確に特定し着実に対策する)、長期的には仕組重視(悪い問題が発生し辛い組織の仕組み、悪い問題が発生したら隠蔽しない組織の仕組み)のバランスが重要だと考えます。

仮説の多さが、事業を強くしますから。


③信頼貯金を自ら切り崩す勇気も必要

以前に、Meta広告の運用で、ほんの少しだけ修正した結果、めちゃくちゃ数字が悪くなり、復旧に1カ月ほど要したことがありました。

その時は理由が分からず、かつ、どのような対策を打つべきかすら分かりませんでした。血の気が引くとはこのことです。

そこで、私は「原因は分からないんですけど」と前置きをして「黄色信号です!」「アラートを上げます!」とフラグを立てました。通常、悪い結果を報告する際は「で、どうすんの?」という声に応えるべきなのですが「本当ごめんなさい、分かんないのだわ」と開き直るのです。

冒頭、信頼を失う度に食器の小皿がバリーンと割れて、皿自体が無くなると会社にいられなくなる、と述べました。ある意味において、開き直ってでも「理由は分からないんです」と報告することは、信頼貯金を自ら切り崩す行為ではありますが、必要な行為でもあります。

原因が分かるまで報告しない、という選択肢はありません。悪い結果に出会ったら、応急対策案はその日中、根本対策案は1週間以内が目安だと思っています。その日までに報告できないなら、むしろ「悪い結果は絶対に報告する」という信頼を守るために、「原因は分かりませんでした!」と謝罪するのも1つの方法です。

現在、執行役員を務めていて痛感するのですが、1番怖いのは空気が楽な方に流れることです。報告しない方が怒られずに済む。黙っていれば無かったことに出来る。そうした空気が出来た組織は、居心地は良いのですが、絶対に成長しません。

私が定期的に読み直す書籍の1つである「失敗の本質」に、こんな一文があります。抜粋します。

「空気」はノモンハンから沖縄までの主要な作戦の策定、準備、実施の各段階で随所に顔を出している。空気が支配する場所では、あらゆる議論は最後には空気によって決定される。もっとも、科学的な数字や情報、合理的な論理に基づく議論がまったくなされないというわけではない。そうではなくて、そうした議論を進めるなかである種の空気が発生するのである。同じく沖縄作戦の策定過程に開かれた台北会議で、八原高級参謀が戦略合理性の高い「第三二軍司令官の意見書」を朗読し、以降沈黙を守ったが、それによって「会議の空気を重苦しいものにした」といわれている。そのうえ、陸軍中央の実務責任者である大本営作戦課長服部大佐は、八原大佐の態度に驚き、具体的に議論する「気分」をそがれたという。ここでも、空気、気分が支配し、戦略的判断にかかわる議論が行われないままに終わった。

論理よりも「空気」。これはあたかも日本だけの特徴として指摘されがちですが、どこの国も多かれ少なかれ、そんな感じでしょ、とは思います。

「なあなあ」な空気を排除するよりは、なるべく厳しい空気を作っておくことが理想だと思いますし、その厳しい空気に寄り添う報告であれば、多少の信頼貯金を切り崩してでも行動に移した方が良いと考えます。

報告を受けた上司も、1日の終わりの湯船の中か、歯を磨いている最中にでも「あの報告は、あれはあれで大事だったな」と思い返すと私は思います。


思考停止しないために

仕事の大半は苦行です。私は「忍」だと思っています。心の上に、刃が乗っている。少しでもバランスを崩せば、心は刃で真っ二つです。だから、切れないように「忍ぶ姿勢」で耐えないといけない。ビジネス系カンファレンスで華やかな成果を報告していても、足元はジタバタもがき苦しんでいる(はず)。知らんけど。

悪い結果に遭遇して「忍ぶ」の方が、ビジネスにおいて日常茶飯事ではないでしょうか。だから、思考を停止させてはいけないと思うのです。考えることを止めたら、惰性に身を任せれば、心は刃で真っ二つです。

繰り返し書いてしまい申し訳ないのですが、以下3点が重要だと考えます。


  1. 結果と人格を分離する。上司v.s.私ではなく、上司と私v.s.問題という構図でディスカッションする

  2. 結果ではなく原因を考える。悪い結果が分かると、内容次第では速報ベースで事象を直ぐに報告する、その後に応急対策案をその日中に報告する、根本対策案を1週間以内に報告するぐらいの速度感で取り掛かる

  3. 信頼貯金を自ら切り崩す勇気も必要。なるべく厳しい「空気」を保つことが大事


以上、お手数ですがよろしくお願いいたします。

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松本健太郎
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