トモダチ経済圏〜「終わっても仲間」がイノベーションを生む
このところ、大企業のアルムナイ(同窓生)ネットワークが花盛りだ。終身雇用が終わりを告げ、雇用の流動性が高まったため、社員の持つ知識や経験をつなぎとめたい企業の思惑と、懐かしい仲間と繋がっていたい社員の気持ちが一致する。アルムナイのネットワーク化のその先に、どんなイノベーションの苗床が生まれるか考えたい。
ネットワーク1.0:同窓会
次の記事は、パナソニックが中途退職者の交流ネットワーク「アルムナイ」を4月に立ち上げる、というものだ。「希望者が戻りやすい環境整備を急ぐ」と記されている。この記事の写真が本社前の松下幸之助さんが握手を求めていて、「辞めても仲間だからな」と語りかけているようだ。
次の記事でも、日本の企業のアルムナイネットワークが紹介されている。その中では、「一度、ベイナー(ベイン社員)になったらずっとベイナー。『家族』であり続ける」というベインカンパニー日本代表のコメントも紹介されている。
これらの同窓会は、あくまでも仕事をするのは企業に戻ったらであり、同窓会自体は「予備軍のプール」に過ぎない。時々イベントを開催したり、定期的に一方的な連絡が行ったりと、多くの人は読む専会員になる枠組みだ。せっかく同窓会を組織化しても、そこでイノベーションが起きることは期待できない。この状態を次のようなWebの進化でなぞらえると、同窓会はWeb1.0の時代と同じということで、ネットワーク1.0と呼べるだろう。
Web1.0:静的で、情報の流れが一方通行な Web の時代
Web2.0:動的で、情報の流れが双方向な Web の時代
Web3.0:分散型インターネットの時代
ネットワーク2.0:実践共同体
少し前の記事にはなるが、電通の「社員の個人事業主化」は、もう一歩踏み込んだものだ。会社が社員の独立を積極的に支援し、その人たちと長期的な実践共同体になっていこうという取り組みであり、これはネットワーク2.0と呼べるかもしれない。。個人事業主となったアルムナイは、双方向でやりとりしながら、学び合い、刺激し合いながら、価値創造を共にする仲間となる。
しかし、この実践共同体にも限界がある。あくまでも電通というプラットフォーマーが存在し、実践共同体のルールは電通に握られていることだ。これはWeb2.0の光と陰と全く同じ構図と言える。
ネットワーク3.0:トモダチ経済圏
Web3.0は、プラットフォーマーの存在を前提とせず、自律分散で社会インフラを再構築しようという仕組みだ。この考え方に基づくネットワークこそ、大企業中心の同窓会を超えたネットワーク3.0の可能性を示している。
次の論文は、渋谷から始めて、今では京都や広島を含め全国各地で開催している「つなげる30人」について書いたものだが、このプログラムのねらいは短期的な成果ではなく、長期的なイノベーションの生態系を創ることにある。
つなげる30人では、参加組織から派遣されたメンバー間の信頼関係構築を第一にする。同じ都市で働く他の組織の次世代リーダーと、お互いの想いや課題を傾聴・共感し合う時間を丁寧に取ることで、まるで旧知の友人のような深い相互理解を得ることができる。
これで何が得られるかと言うと、「自分達でぐずぐず考えてないで、聞いてみよう」というアクションだ。たとえば「行政はどう考えているんだろう」とか、「LGBTQの当事者はどう感じるんだろう」とか、会議で話題になったら、「誰々さんに聞いてみよう」となる。これが、つなげる30人メンバーの最大のメリットだ。つなげる30人の特に行政から参加したメンバーなどは、いきなり「組織で一番の人脈の持ち主」と目されるようになる。
しかし、組織から「有益な人脈」と見える「つながり」だが、つなげる30人で培われる関係は、人脈と言うよりは友人に近い。「組織の利益代表」としてネットワーキングする「人脈」を超えて、人として信頼し合った「友人」同士が「組織を超えて協働」する。この密度が都市レベル、バリューチェーンレベルで濃い関係性ができあがった時、そこに「トモダチ経済圏」があると考える。
トモダチ経済圏を生み出すためには、次の3つの「脱」が重要と考えている。これらは、組織人として大事と思われていることの、すべて逆張りである。
脱目的:事前に目的の設定されない会を定期的に続ける
脱組織:組織ではなく個人を知り、相互に応援し合う
脱成果:成果を出すことよりも、この関係を面白がる
これらの原則を守ってプロジェクトを推進することができれば、「終わっても仲間」が継続する。その結果、「ほんとうに困ったときに味方をしてくれる他者の存在」が生まれ、それがあって初めて「イノベーションを生む」ことができるようになる。これが、ネットワーク3.0の最大の意義である。