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トイレに人が集まる人間行動学と集客マーケティング

日本はトイレ先進国といわれているが、「トイレを貸す」ということについては意外と後ろ向きな時代が長かった。店内のトイレはお客様用にあるもので、「トイレだけの利用者はお断り」といったスタンスだ。しかし日本人の文化レベルからすると、清潔なトイレを気持ちよく使わせてもらえば、何らかの感謝の気持ちを表わすものだ。それが“ついで買い”につながることもあるし、『あそこの店のトイレは素敵だから一度行ってみて』という口コミとなって善意の宣伝が広がることもある。

人間には生理現象が避けられないことから、無意識のうちでも常にトイレ探しをしている。その習性からするとトイレがある場所に人は集まりやすいということになり、しかも清潔なトイレほど集まる人の質も高い。そこを踏まえると、集客を考える店舗経営者は店内のトイレをもっと戦略的に使うべきだろう。

【意外と知らない公衆トイレの設置基準】

そもそも公衆トイレは、多くの人が集まる場所には適切な数のトイレを整備することが指針として定められている。たとえば、オフィス内のトイレとなると、国が定めた「事務所衛生基準規則」の中で、設置すべきトイレの数がきちんと定義されている。男性の小便用便所は「同時に就業する男性労働者30人以内ごとに一個以上とすること」(同則第十七条三)、女性用便所の数は「同時に就業する女性労働者20人以内ごとに一個以上とすること」(同則第十七条四)とある。ただここで定められている数字について、その具体的な根拠はわかっていない。

またスポーツ大会でのトイレ設置でも、たとえばトライアスロン大会では、「スタート地点では競技者50名あたり1個、種目の切り替え地点に最低5個、マラソンスタート地点に最低3個、水泳スタート地点に最低5個を設置する」という国際標準が設けられている。

地域の公衆トイレについては、各自治体によって設置基準が異なっているが、国際的にみても衛生的で高機能型の公衆トイレを整備することが文化都市の条件になりつつある。

東京都の場合には、都内にトイレの「空白地帯」をなくすという名目で、半径4~500メートル以内に必ず公衆トイレがあるという設置指針を打ち出している。この数字は都民へのモニター調査に基づいたもので、高齢者の歩くスピードも考慮したうえで、10分以内にトイレにたどりつけるという想定で求められた数字だ。

単純に計算すると、東京都内におよそ8000カ所の公衆トイレが必要ということになる、そのすべてが、独立して設置されている「公衆トイレ」というわけではなく、コンビニやファミレス、飲食店などの店舗内トイレも含めての数としているようだ。

【公園の公衆トイレはなぜ汚いのか?】

 公衆トイレの増設が求められている中でも、特に女性の場合には、野外の公園に設置されている公衆トイレを利用する人はほとんどいないのではないだろうか。それは「トイレが汚れていて不潔」というのが理由だが、どうして公園のトイレは清潔に保てないのだろうか?もちろん市町村が管理する公衆トイレの清掃は定期的に行われているはずだが、常に汚れているように感じる原因はトイレ清掃にかかるコストの問題にある。

ある自治体が管理する公園の例では、週5回のペースでトイレの清掃をするために年間160万円のコストを費やしているが、それでもトイレを清潔に保つためには清掃回数がまったく足りない。

では、どれくらいの清掃頻度が求められるのかといえば、多くの人が利用する公衆トイレを清潔に維持するのは1日に最低3回の清掃が必要と言われている。これを1年間(365日)に換算すると 1095回の清掃が必要ということになり、1回あたりの清掃費用を6千円で見積もっても、年間ではトイレ1箇所につき657万円のコストがかかってしまう。誰でも自由に利用できる屋外の公衆トイレは「キレイにすれば、すぐに汚される」のイタチごっこで、清潔さを保とうとすれば清掃にかかるコストは底なし沼というのが実態だ。

【店舗への新たな集客経路となるトイレマップ】

そのため行政でも、税金で公衆トイレを増やしていくよりも、民間の施設や店舗のトイレを共同利用させてもらおうとするスタンスへと変化してきている。民間側にとっても、トイレ提供のメリットとして期待できるのが「トイレマップ」へ自店が掲載されることだ。

トイレマップというのは、外出時のトイレに困らないようにと目的地周辺で利用できる施設や民間店舗のトイレ所在地をネットやスマートフォンから調べられるサービスのことを指す。トイレマップには行政が制作したものと、個人や民間の団体が作成したものとがあるが、これが店舗への集客において大きな効果を示すものとして注目されている。

そこに記載される内容には、トイレある所在地の他に便器の種類、トイレが使用できる時間帯、トイレの写真、実際に使った人の感想などが掲載されることもある。もともとトイレマップの編集は個人的な活動としてスタートしたものだが、身障者や高齢者が外出する時には是非とも必要なコンテンツということで、海外では自治体が予算を投下してトイレマップ制作事業に取りかかりはじめている。

たとえば、オーストラリア政府は約9億円の予算をかけてトイレマップの編集にあたっている。トイレマップ専用サイト「toiletmap.gov.au」では、オーストラリア国内にある1万箇所以上の公衆トイレ所在地がデータベース化されており、目的地に応じて周辺のトイレを検索することができるが、その中には公共施設ばかりでなく、民間店舗のトイレも含まれている。

各トイレデータには、緯度経度の情報まで記載されているのが特徴で、これは自動車や携帯電話に搭載されたGPSからの利用を前提としたものだ。つまりトイレマップに掲載されている店には、GPSが集客の手助けをしてくれるということになる。トイレマップに自分の店が掲載されることで来店客数が増えるのなら、それは積極的にトイレを開放したほうが賢いということになる。

【公衆トイレで稼ぐ高速サービスエリアの収益構造】

高速道路を長時間走っていれば、必ず立ち寄りたくなるのがサービスエリア(SA)だが、これは主にトイレ休憩のために約50キロ毎に設置されている。大きなサービスエリアになると1日に5~10万人もの利用者があるため、高速道路上のSAは全国で最も規模の大きな公衆トイレ施設といえる。

トイレを管理するのはサービスエリアの運営者である道路公団(NEXCO)で、トイレの利用はもちろん無料だが、10万人の集客力を活かして飲食店や物販店のテナントを誘致することで家賃収入を稼ぐのがSAの収益モデルになっている。

飲食店や土産品を売る業者なら、利用者数の多いサービスエリアに出店することで、ほぼ確実に魅力的な売上げを稼ぐことができるが、もちろん簡単に出店できるわけではない。出店審査をクリアーするためには相応の業績が求められるため、大手の業者でなければ契約は難しい。そして出店料(家賃)として売上高に対して約20%のロイヤリティを払わなくてはならない。

サービスエリア内では、小さな業者が屋台を出しているようなケースも
見受けられるが、これはSAの管理団体から出店権を直接得ている大手業者との二次的な「子契約」または三次的な「孫契約」によって出店させてもらっているというカラクリがある。彼らが親業者に対して支払っている出店料は売上げの40~50%とかなりの高率なケースもあるが、それでもサービスエリアの集客力があれば、薄利でも採算が合うと踏んでいる。

元をただせば「サービスエリア=公衆トイレ」であり、それだけの場代を払っても出店したいという業者が殺到するのは、人間の生理現象によって自然と集客ができる「トイレ」が、じつは非常に商売に適した立地ということを示している。

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