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SDGs。今こそ、生物や自然に学ぼう。

25年前、自然科学者の自分がいた。モノや素材の性質を明らかにする学問に取り組んでいた。モノに光や粒子など色々なエネルギーを当てて、モノに含まれる元素の量を測ったり、原子の結合の仕方や結晶の形などを推定したりしていた。そのプロセスを通じて、自然の中に潜んでいる様々なメカニズムを見ることができた。全体からみたらほんの僅かな部分ではあったかが、自然の素晴らしさの一端を実感したのを覚えている。

ふと、脳が手本という記事が検索にひっかかった。人間の脳はかなりの省エネだとは思っていたが、20ワットの電球一個ほどのエネルギーしか使わないという。この記事によると、生物は熱や音など日常に存在するノイズを巧みに利用して、僅かなエネルギーで情報の伝達を行なっているという。東京大学の田畑仁教授らはスピングラスという材料を開発して、これを真似ることに成功したという。情報伝達の超省エネが実現されそうだ。

この他には、「ニューロンを模した1つ1つの素子同士が情報をやり取りして計算する」という脳と同じメカニズムを実現するハードウェアも紹介されている。社会に浸透してきたAIもニューラルネットワークという脳の働きを模した技術だ。こうした「考える」や「伝える」という演算機能もそうだが、生物、そして脳は、とにかく超省エネで様々なことを平然と成し遂げている。エネルギーを使いすぎてきた人間が、今から真剣に学ぶべきは自分自身の生きるメカニズムなのかもしれないと改めて感じる。

建築物に秘められた魔力。なんとも引き寄せられるタイトルの記事を見つけた。幾つかの興味深いテーマがあったが、その中でも目を引いたのが「フラクタル日よけ」だ。フラクタルとは、図形の一部分と全体が自己相似的(再帰的)になっている形を指す。コッホ図形が有名だが、私自身はリアス式海岸を例に使うことが多い。日本全体を示す地図で見ても、岩手県の地図を見ても、岩手県の海岸線の地形はギザギザしている。もちろん現場の海岸線に立っても同じだ。

話を戻すが、「フラクタル日よけ」の発案者である京都大学の酒井敏教授は、「自然の木の枝や葉っぱの繁(しげ)り方は一種のフラクタル。それならフラクタル図形で日よけを作ってみたらと思いついた」という。この日よけは「効果的に遮光・遮熱して地表温度を下げ、風を通すため体感的にも涼しい。夜間の放射冷却や、降雨後の水の蒸発による気温低下を妨げず、台風などの強風にも耐えやすい」のだという。自然の中で営まれている形状を真似るだけでエネルギーを使わず、様々な機能を発現させることができたのだ。商業施設やオフィスビルなどで採用が相次いでいるという。

この記事にはカテナリー曲線というロープなどの両端を固定して下に垂らしたときにできる曲線の話もある。カテナリー曲線を建築物に活かすと、美しくかつ頑丈な建物ができると書かれている。山口県岩国市の錦帯橋やアントニ・ガウディが設計した集合住宅「カサ・ミラ」もこの曲線が使われている。これも興味深い記事なのでので是非読んで欲しい。いずれにせよ、日々の生活の中で、自然の美しさやフラクタルを探し歩けば、様々な課題をシンプルな形で解決するヒントが見つかるのではないだろうか。

この記事は、物質文明の時代が終わりを迎えて到来している「生命文明」に、ネイチャーテクノロジーやライフスタイルという概念を統合して、新しい学問を実践されているINAX元CTO石田秀輝さんの取り組みが書かれている。恥ずかしながら、ネイチャーテクノロジーという学問をこの記事で初めて知った。完璧な循環を最小のエネルギーで駆動する自然に学ぶのがネイチャーテクノロジーだ。「今や土に学んだ無電源エアコン、カタツムリにヒントを得た汚れのつきにくい表面など実用化が広がり研究者も増えました」と石田さんは話す。

「二元論の西洋と違い、日本人は自然に対する叡智(えいち)や畏怖を持っている。自然に生かされていることを知って自然を上手に生かし自然を往(い)なすという概念が世界をリードできます」と、石田さんは日本人の素晴らしさを語っている。コロナ禍でニューノーマルが叫ばれているが、リモート勤務、ワーケーション、ジョブ型雇用といった効率化メインの施策に留まるのではなく、もっともっと自然に触れ、自然を観察し、自然のメカニズムを生活に取り入れる活動を、小さくても良いので始めたらどうだろうか。そうした活動の輪を広げ、日本の強みにまで仕立てあげる。そうすれば、自然を手本にした日本が、世界の手本になる日が来るのではないだろうか。次世代につなげたい取り組みだ。

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