働き方改革法案で日本の働き方は本当に変わるのか?

先週、働き方改革法案が可決し、いよいよ働き方改革は罰則付き法整備という大義のもと、企業規模や産業の区別なく推進する国レベルの活動となった。働き方改革を推進しようという安倍政権の本気度は歓迎すべき動きだ。

その反面、今回の法整備のスタンスにはいささか疑問もある。というのも、これは現状の働き方改革の追認をしただけで、新しい社会を作ろうという指針にはなっていないように思える。法整備とは、後追いになるものだといわれてしまうとそれまでなのだが、これでは働き方改革に積極的に取り組んでいる企業に対する援護射撃にはならない。

月の残業時間100時間超はもともと過労死ラインとして設定されていたものであり、議論が紛糾していた高度プロフェッショナル人材制度も、対象者の中で「みなし労働時間制」や「年俸制」が導入されていない層はごくわずかだろう。つまり、これまで企業がこれまで取り組んでいた内容に法的根拠が補足されただけである。同一労働同一賃金は現状の追認ではないが、同一労働同一賃金への対応方法は企業に委ねられているため、非正規社員との待遇差の是正につながるかはまだ不透明なところが多い。それでは、どのような法整備が働き方改革によって、労働生産性が向上し、1億総活躍社会の実現に近づけるのだろうか。

■クオータ制の導入

働き方改革の推進において、まず取り組むべき問題は女性の活躍推進だ。1億総活躍社会なのに、この問題が解決されないことには人口の半分のリソースは活用されないままだ。企業の積極的な努力によって、女性の就業人数はここ20年で大いに伸びたが、所得格差や管理職比率の低さは依然として大きな問題である。そこで、私はクオータ制の導入を強く勧めたい。

神戸大学の平野光俊教授曰く、働く女性の多くは自分たちのキャリアに「逆選択」をとるような状態にあるという。「逆選択」とは、経済学用語で情報の非対称性があるために、損をしたくないために利益の低い選択をしてしまうことだ。現状だと、働く女性の多くはキャリアを積んでいくことのメリットがわからず(逆に、マネできないような苛烈な働き方をする女性ばかりが目に入り)、自分からキャリアを積もうという選択をしなくなる。子供が生まれたのを機に、育児に専念と言って、自分のキャリアをあきらめてしまう女性が多いのが現状だ。子育てに専念することが良い母親像だという社会からの暗黙的な圧力もあって、キャリアを積むことに魅力を感じにくい。

同じような社会構造は、欧州ではドイツでもあった。ドイツも女性は家庭に入って、母親に専念すべしという社会観念の強い社会だ。しかし、ドイツでも2015年にクオータ制が導入され、大手企業108社は、2016年1月から監査役会の女性比率を30%以上とすることが義務付けられる。なお、ドイツのクオータ制導入時の大企業200社の監査役会の女性比率は18.4%である。

日本がまず導入すべき法整備はクオータ制の導入だろう。ゴールとして、役員の一定割合を女性にすることで、企業はゴールから逆算して諸施策を講じなくてはならなくなる。その中には、当然、現在行われているような労働時間の削減や育児補助、テレワークなどの諸施策も入ってくる。

■クオータ制は男性への逆差別か?

クオータ制の議論になると、かならず「男性に対する差別だ」「女性だけが優遇されるのは公平ではない」という反対意見が巻き上がる。このことは日本だけではなく、同様の議論は欧州でもあり、フランス、イタリア、スイスでも1度は違憲として却下されている。しかし、この3か国とも今や憲法を改正し、クオータ制を導入している。「歴史的に形成された不平等」を是正するために、積極的差別是正措置を講じなくては、社会をよくすることはできない。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32398980Z20C18A6MM0000/

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