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創生する地方の条件と、企業の新規事業

ご相談を頂くことも含め、仕事でいわゆる「地方創生」に関連するお手伝いをすることがある。まだ地方創生という言葉がなく地域活性化などと言われていた時代から、例えば離島地域の活性化として観光の拠点となる宿泊施設の企画立案から開業に至るプロセスのお手伝いをした経験などが、お声をかけて頂く理由になっているようだ。

いくつかそうした経験があり、また自分自身も子供時代に100万都市から人口数万の町に移り住んだ経験をしていることから、地域ないし地方の衰退をどう防ぎ、小さくても活気のあるコミュニティを作っていくのか、それに成功しているところと失敗しているところでは何が違うのか、というのは、永らく関心事になっている。

最近の地方創生の成功事例として、徳島県の神山町は取り上げられることが多い町の一つ。人口の現象に歯止めがかかったにとどまらず、最近では私立高専を設立する構想も発表され、二の矢三の矢を放ってくる努力には敬服する。

私自身も、何度か神山町を訪れ、顔見知りの人も少なからずいる。いわば「よそもの」である移住者を地元の人が受け入れていて、少なくても排除しようとしていないように思えるし、実際に、知人の移住者たちも現地での生活を楽しんでいることが感じられ、知り合いに関していえば神山を去ったという話は聞かない。

一方で、神山町出身の人が違和感を感じていないかというとそんなことはなく、ここで語られている気持ちは、素直なものだと思う。

地方の閉じたコミュニティに入ってくる移住者は「よそもの」「異物」であって、土地の人からすれば違和感を持つことは当然だ。そして、人々が流動せず定着して暮らしてきた農村であればなおさらのことだ。

それでも、四国はお遍路さんの伝統や、瀬戸内地区は古来大陸との海の道であり京の都に向かう外交使節が往来するなど、歴史的によそから人が入ってくることがあった土地柄だけに、まだ「よそもの」に対する抵抗感が少ないのだと思う。これは徳島に限らず、四国の他県でも感じること。

こうしたことも、神山の成功を支えている基礎的な条件である。

また、記事の写真にも出ている大南さんは、神山の振興に長期的に取り組んできたキーパーソンであり、今の状況に至るまでには、さまざまな試行錯誤をされてきていて、決して一朝一夕に成功したわけではない。こうしたトライアル&エラーの積み重ねがあること、それがご本人だけでなく地元全体にも波及していることも成功の条件だと思う。それは、大南さんの人柄に負うところも大きい。「やったらええんちゃう?」が口ぐせということからも、トライアル&エラーを歓迎する姿勢が表れている。

大南さんが地元の建設会社の社長という民間人であり、任期や投票に左右される政治家ではないということも、長期的に一貫した取り組みを行ってこれた要因の一つだろうし、また神山生まれながらスタンフォード大の院卒であるという「外を知っている」こと、そうした人が「村オサ」つまりはリーダーであることも大きな要因である。

一方で、なかなか活性化や創生の成果が出ない地方も多い。むしろ、そういう地方が普通なのだ。地方の問題を手がけ、手厳しいがいつも的確な指摘をしている木下斉さんが、こんな記事を書いていた。

冷静に考えて、地方が衰退しだしたのはこの数年や数十年ということではなく、私が地方に住んでいた半世紀近く前にはすでに「過疎」の問題が取りざたされている。東海道新幹線が開通した1964年以降には特に顕著に「ストロー効果」と言われるような交通網の整備の結果として地方から都会に人が移っていく現象が起きており、顕在化していたかどうかはともかくとして人手不足はいうにおよばす、地元産業の空洞化や働き手の流失は、ここ最近始まったことではない、古くからの地方の問題である。それだけに、そう簡単に解決する問題ではない。

そして、この記事があげている4つの矛盾に加えて、最も大きな矛盾ではないかと思うのは、「暮らしは良くしたい・カネは欲しい、けれど、新しいことはやりたくない・変化したくない」という気持ちが、雇用者や自治体の長に限らず、地域の人たちのほとんどに根強く残っていることではないだろうか。地方特有の相互監視・同調圧力で動きにくい、動くと村八分的な仕打ちを受けるという背景もあるのだと思うが、「よそもの」を受け入れず、新しいやり方や考え方に否定的・消極的で、昔ながらの方法で補助金を引き出して生き延びていく、残念ながら「よそもの」からはそのように感じられることがある。

よそものどころか、地元の人ですら、ちょっとしたことで現代の「村八分」にあう、ということをこの記事は描き出しているように思う。こうした地域では、よそものが入っていく余地はまずなく、新しいことが起きるはずもなく、地方創生が実現することはない。

多少の失敗や違和感をひとまず脇に置き、地元のリーダーが先頭に立って、新しい動きに対する「お墨付き」を与えることで若い人たちも動けるようになると、成果が出るまでには時間がかかるとしても、前向きな意識のコミュニティが出来上がり、そうなれば「よそもの」も入っていく余地が生まれる。そういう基礎的な土壌の上に、成功のタネが芽を出すのだと思う。

そして実は、これらの条件は既存の企業が新規事業を生み出せるか、ということとも共通する点が多いのだ。その意味で、この問題は、地方だけでなく日本社会全体の問題なのだと、私は捉えている。

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これからもよろしくお願いします。
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川端 康夫(アクティブビジョン株式会社 代表取締役)

アクティブビジョン株式会社 代表取締役。大手企業とスタートアップ企業双方の事業創造・成長のサポートを手がけ、短期的な戦略コンサルティングの後に必要となる、地に足のついた伴走型の戦術コンサルティングを手がける。 http://www.aktivevision.com

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