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「世界最低水準な日本の男女平等指数」と「無理のない改革」の結果にある未来とは?

過去最低を更新した日本の「ジェンダー・ギャップ指数」

今年も世界経済フォーラム(WEF)が、男女平等がどれだけ実現できているかを数値で評価する「ジェンダー・ギャップ指数」が発表された。調査対象国は146ヶ国で、「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野で男女平等の現状を指数化している。

日本は、毎年、「ジェンダー・ギャップ指数」で厳しい評価が下されている。主要7か国はおろか、調査対象国の中でも最底辺が定位置となっている。そして、この残念な結果は好ましくないほうで更新されることになった。昨年の116位に対して、125位という過去最低の順位となった。124位はモルディブで、126位はヨルダンだ。

日本の順位を下げている最大の要因は「政治」と「経済」におけるスコアの低さだ。特に、ジェンダー・ギャップ指数はこの2つのスコアによる影響力が大きい。というのも、各国の平均をみると「教育」と「健康」は非常に高い水準で安定しているためだ。誰もが高得点をとるテストのようなもので、ここで差が付きにくい。
差が付きやすいのが、「政治」と「経済」だ。日本はこの2つの項目で両方とも平均よりも低いスコアとなっている。「経済」に関しては平均よりもわずかに低く、順位は123位だ。平均から大きく差をつけられているのが「政治」の項目で、こちらは138位となっている。
「経済」で平均を下回るのは、企業における重要なポジションに女性が就いている割合が低いことと、男女の所得格差の大きさが主な理由だ。この2つに関しては、ここ20年ほどで日本以上に世界各国が大きく変わった。日本政策投資銀行の大分事務所長に生え抜きの女性職員が就任したとメディアに取り上げられるような日本の現状は、まだまだ平成はおろか、昭和の感覚が抜け切れていない。なお、大分事務所長についた佐野氏のような生え抜き人材が地域拠点のトップを務めるのは同行では初めてのケースだという。このような変化は好ましいが、如何せん、スピードが遅く、変化の幅も緩やかだ。
「政治」に関しては、日本は海外諸国と比べるとなさけないほど、女性の議員数と閣僚数が少ない。また、こちらも首相などの重要なポジションに女性がついていないことが低評価につながっている。今年の統一地方選挙でも女性議員が増えるかは注目の1つでもあり、過去最多の当選数を見せ、女性の当選率も1983年以来、右肩上がりの傾向にある。それでも、当選率を比べると、男性の73・4%に対し女性は64・6%と大きな差がある。特に、与党の自民党が女性候補の擁立に積極的とは言えず、自民党の当選者に占める女性の割合は5.9%しかない。

「男性ポストの女性置き換え」から「女性による新陳代謝」という選択肢

このように、「ジェンダー・ギャップ指数」では日本は非常に低評価を受けているわけだが、かといって何も日本企業や政府がしてこなかったわけではない。確実に、数十年前と比べて女性の活躍の場は広がり、社会が変化しているという実感も得やすい。ただ、世界と比べたときに、変化のスピードが遅く、緩やかだ。

その理由として、日本企業や政治家にとって、ジェンダー・ギャップ指数を向上させるインセンティブが弱いという点があげられる。多民族国家であり、そもそも多様性が社会問題として見過ごすことができない欧米を中心として、ダイバーシティは避けられないのだから、うまく付き合っていくしかない。そのために受け入れるための組織作りや制度の整備、マネジメント方法の確立が進んだ。しかし、戦後、国を揺るがすような大きな危機を迎えてこなかった日本は、男性中心の社会構造を自ら積極的に変化させるインセンティブが働きにくい。変化しなくても大きな問題が即座に起こるわけでもなく、逆に急な変化は混乱を招くと、できる範囲で無理なく変化してきた。その結果、海外諸国と比べて、何週も周回遅れというのが現状だ。

そうはいっても、「経済」と「政治」以外では、日本のジェンダー問題における評価はそこまで低くはない。ジェンダーの国際比較調査はいくつかある。例えば、国連開発計画(UNDP)による「ジェンダー開発指数(2021年)」では、日本は191ヶ国中76位だ。この順位は、イタリアとリトアニア、セントビンセント・グレナディーンと同じだ。この調査では、健康、知識、生活水準における女性と男性の格差を測定している。

また、国連開発計画(UNDP)による別の指標「ジェンダー不平等指数」(2022年)では、191ヶ国中22位だ。同率にいるのは、イスラエルとフランスである。この指標では、性と生殖に関する健康(妊産婦死亡率、15~19歳の女性1000人当たりの出産数)、エンパワーメント(両性が立法府の議席に占める割合、両性の中等・高等教育の達成度)、労働市場への参加(女性の就労率)の3つの側面でスコアが算出されている。ここでは、「両性が立法府の議席に占める割合」以外の指標では日本は世界最高水準のスコアを出している。

つまり、日本のジェンダーの問題は「政治・経済における重要なポジションに女性の割合が低い」「男女の所得格差が大きい」という2つが重大事象といえる。そうはいっても、先述したように、これら2つの重大事象を解決するインセンティブが既存ポストを占める男性にとって弱い。加えて、このようなポストを占めている男性は、年功序列の文化が強い日本では年齢も高く、いわゆる上がりのポジションでもある。そのため、同じようなポジションに就いている他国の若いリーダーたちと比べて変革の意識も弱い。そうすると、インセンティブもないのに、既存のポストを占めている高齢のリーダーが、若い女性リーダーに席を積極的に明け渡すというストーリーは現実味が薄い。

古今東西の過去の歴史を紐解くと、既存のポストがあかないときに変革を進めてきたのは、新陳代謝の考え方だ。つまり、ポストではなく、主導的な立場を占める組織が取って代わるのだ。例えば、アメリカのFortune500 に選出される企業は10年で半数が消滅するという。その代わり、新しい産業の担い手となるベンチャーが新たな旗手として出てくる。これが社会の新陳代謝になる。

そう考えると、政治と経済の分野で、女性が活躍できる伸びしろは非常に大きい。既存の高齢男性に占められたポジションを奪うことに労力を使うのではなく、自分たちが活躍できる新しい領域を創り、業界の新陳代謝を促すことで社会のアップデートを狙う。このアプローチが良く用いられるのはイスラム圏の国家だ。イスラム圏では、宗教上の理由で女性の権利が制限を受けやすい。そのため、欧米で高等教育を受けた両家の子女が帰国して、新しい組織を立ち上げるケースを多く見かける。

長いこと低迷し、変化が起きにくいと言われている日本社会を変えるのは、女性リーダーによる、既存の文脈とは切り離した全く新しい組織かもしれない。そのような新陳代謝を促す新たなリーダーと組織の登場を期待し、応援したい。

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