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視野を地球規模に広げる。

2050年のカーボンニュートラルの実現。これは地球に住む我々にとって確実に達成すべき命題だ。これからは、地球の有限性の範囲内で、「豊かさ」と「経済」と「企業競争力」を、持続的に高次元でバランスさせなければならない。自社が主語に留まらず、社会や地球も主語に物事を考えることが必要だ。「視野の広さ」がこれまでとは比べ物にならないほど広がってきている。自社の収益を上げながら、人々や社会、そして地球にとって嬉しいかを突き詰めることが重要なのだ。

これまで移動の手段として欠くことの出来なかった自動車も大きな転換期を迎えている。ガソリンや軽油を燃やしてCO2を発生させる内燃機関を積んだ自動車は、環境負荷が高いと、持続性の面で大きな疑問符が付いた。以前から進めてきた燃焼効率を改善する取り組み、一部電動化/HV化による燃費向上の取り組みに加えて、いよいよEV化の流れが本格化している。電池やモーターの高性能化も進み、内燃機関の車とあまり遜色のない使い勝手のEVも多数登場している。

2022年のEVの世界販売は700万台を優に超える。全販売台数の10%程度に到達する見込みのようだ。メーカーの内訳は、中国が4割、米国が3割、欧州が2割だという。一方、日本メーカーは5%に止まり、世界的な競争力が懸念されている。十数年前には日産と三菱がEV市場を席巻していただけに、とても残念だという声すら聞こえる。日本勢はHVを足元の現実解としてきたが、なぜここまで中国や欧米勢考え方が大きく異なっているのだろうか。

EVもHVも、電池、エンジンなどの部品の製造時や車の組み立て時にはもちろんCO2を排出するが、製造時の排出量はEVとHVではそこまで変わらない。大きく異なるのは走行中のCO2排出量だ。EVはゼロなのに対して、HVはガソリンを燃やす分だけ排出する。さらに、電気やガソリンを作るところでもCO2が排出される。再エネであればゼロだが、火力であれば大量に排出する。また、もし新たに再エネ設備を作るなら、その過程で排出されたCO2もカウントすることになる。

つまり、EVやHVの排出量というのは単純に走行時の排出量ではない。ものづくりや燃料づくりの上流まで遡って、すべての排出量を足し合わせる必要がある。車を走らせるまでに地球上で起こしてきたことを全て足すイメージだ。車を企画した人々の移動やオフィスでの活動についても排出量にカウントすべしと定められている。エネルギーを必要とする人の移動やモノの加工・組み立ての全てにおいてCO2が排出される。それらの総量を自然や地球が吸収できるCO2の量以下にしようというのがカーボンニュートラルだ。アプローチの方法は一つではないように思えてしまう。

もう一つ大事な概念がある。サーキュラーエコノミーだ。地球にある資源は有限で、自然が再生できる量を超えて乱用してはならないという考え方だ。「一度作ったものは長く使う。使い終わったものをリユースする。資源に戻す」といった製品軸での考え方に留まらず、地球上にある有限の資源を理解し、それぞれの資源をどんな用途にどう使うべきかを割り当てるという考え方が必要になる。人の暮らしは加工や組み立てをした沢山のモノによって豊かさを実現してきた。これからは全体最適の視点で、どんなモノが必要で、それぞれのモノをつくるために、どんな資源を使うのかを考える必要があるのだと思う。

移動の世界で言えば、マイカーがいいのか、カーシェアがいいのかといった議論もある。その時の車の内装はどうすべきか。機能性や合理性が大事なのか、それとも豪華にして所有欲を満たすことが大事なのか。それはカーボンニュートラル的にはどうなのか。サーキュラーエコノミー的にはどうなのか。どうやら、しっかりとシナリオを作って、視野の広いシミュレーションをする必要がありそうだ。人の移動やモノの加工や組み立て、そしてそれに使う資源。「豊かさと経済と企業競争力」を高次元で成立させためには、これらをどう有効に機能させたら良いだろうか。この複雑な課題をやり切ることが求められているのだ。デジタルの力も借りながら、視野を広げる能力を身につけて未来を切り拓きたいと考えている。

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