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出生に奇跡など起きないし、働き方改革ごときで微動だにしない

岡山の奈義町が出生率2.95とかいって、メディアがおもしろおかしく取り上げるのは、まあ今更何言ってもダメだろうからいいんだけど、それに一国の首相が行くなど安いパフォーマンスでしかない。

別に、奈義町をディスる意図はない。この町は町としてやるべきことをやったのだから誇りに思っていいし、計画通り結果を出したことは大きな成果だろう。

しかし、冷静に考えてほしいのだが、人口わずか6000人にも満たない場所で、出生率が2.95になったところで年間の出生数は50人程度です。申し訳ないが、奈義町レベルの奇跡の町がたとえ100件生まれたところで、出生数は5000人にしかならず、木に全体の出生を底上げする規模にはなりえない。

むしろ、人口6000人の規模だからこその2.95であると冷静に判断した方がいい。明石市とか流山市にしても、それはあの規模の自治体であればこその成果であり、それを全国展開したところて効果はない。

同様に、伊藤忠商事の社員の出生率が0.6から.1.9にあがったことがニュースになったが…

これとて社員数約4000人の町の話と同様。しかも、その町は現役バリバリだけがいる町で、その平均所得が1600万円以上の町である。伊藤忠の社員の出生率がどうだという話をして、一体日本全体の何に参考になるというのか。

そりゃあ、給料もよければ、福利厚生もしっかりしていて、育児休業中のサポート体制も万全な同社ならいいけど、世の中の企業の大部分はそんなに恵まれていない。それとも何かい?日本全国の平均給料を1600万円にでもしてくれるとでもいうのかい?

企業の社員の出生率など過去のデータは存在しないが、それこそ昭和の時代の出生率などもっと高かったでしょう。

問題なのは、こうした一部の事実を全体化して、女性の就業率をあげれば出生率があがっているかのような悪質な誤解を与えることである。
日経の記事でもこんなグラフを使っている。

一見、正の相関があるように見えてしまうが、OECD諸国内で比べるのであれば、なぜこの国だけ抽出したのか?それは、OECD全部の国の相関図(青い点)と比較してみれば一目瞭然だ。

残念ながら、何の相関もない。無相関である。一方、赤い点はなぜか記事上で抜き出した国を示す。
おわかりかだろうが、正の相関がありそうな国だけを抜き出してグラフ化しているのである。赤い点だけなら0.5以上の相関があるといえるからだ。

これはファクトの切り取りでしかない。逆に言うと、切り取り次第でデータはいかようにも利用されてしまうのである。注意したい。

子育て支援を充実させるとか働き方改革をするとか男女格差を解消するとか、それらは単体としては注力すればいい。しかし、そうしたことをしたからといって出生率は微動だにしない。まず、この大原則をしっかり皆が共有しないと、どんな愚策でも「出生率を高めるためにはこれをしなきゃならない」という意味不明の錦の御旗にされてしまう。

何度もいうが、出生率はあがらないし、出生数は増えない。日本だけではない。アフリカ除く全世界がそうだ。その確実な未来からいい加減目をそらすのをやめよう。

こちらの記事もあわせてお読みください。所得が高ければ高いほど出生数は増えている現実。


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