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ベーシックインカムって、どうなんだろう?

ベーシックインカム(basic income)とは「社会保障の一種で、政府が全国民を対象に最低限の生活を送るのに必要な金銭を支給する政策」です。

今年2019年の1月に開催されたダボス会議の発言で、センセーションを巻き起こしたオランダ人歴史学者ルトガー・ブレグマンがベーシックインカムを推進しており、改めて注目を集めています。

ルトガー・ブレグマン氏2019年ダボス会議での発言

ここでの発言は、本当に痛快でした。

私はダボス会議は初めてですが、正直ちょっと困惑しています。デビッド・アッテンボロー卿が人類は地球を破壊しているという話を聞くために、1,500機のプライベートジェットがダボスに飛んできているわけです。ここでは、参加とか正義、公平性とか透明性とか、そういう言葉が飛び交っていますが、租税回避について指摘する人はほとんどいません。金持ちが公正な負担をしていない、という話です。消防士のコンファレンスに来て、水について話すことを禁じられているような感じですよ。
「世界が突然後退したりしないように産業界は何をしたら良いのか。」答えは簡単です。慈善ではなく、税金について話をすれば良いのです。とにかく税金ですよ。2日前に、この会議で億万長者が、誰だったかな、マイケル・デルだ、彼が、「累進課税の限界税率が70%で成功した国があるなら教えてくれ。」と言っていましたが、私は歴史家ですから答えられます、アメリカですよ。1950年代、共和党の大統領アイゼンハワーが、彼は退役軍人なんですが、マイケル・デルみたいな億万長者に対する限界税率を91%にしました。相続税の最高税率は70%以上でした。これは宇宙工学じゃない、難しい話じゃないですよ。またボーノを呼んできてくだらない慈善事業のスキームに関して延々と話をすることもできますが、税金について話をしないと意味がないんです。税金、税金、税金です。私に言わせれば、他のことは無意味ですね。

ダボス会議に集まるような大富豪の税率を高め、財源を確保することで、ベーシックインカムの実現を提唱しています。

格差への認識

隣人が食べるものにも困り、ひどく困窮しているのに、自分や自分の家族だけが、とても豊かで笑顔で幸せである」という状況を、想像してみます。

心情的には、そんな状態は成立しづらいと思ってしまいますが、実際に米国では富裕層と貧困層の地域の隣接はよく見られますし、日本でも貧富の差は存在しており、格差自体は社会の必然です。

社会における格差を計測するジニ係数をみると、日本の所得格差は年々広がっていますが、税金や社会保障による再分配によって、格差拡大を防いでいます。

日本のジニ係数推移 1962~2014

一方で、米国での格差は年々拡大する傾向にあります。

主要国での所得格差の推移

ベストセラーになったトマ・ピケティは、「21世紀の資本」で富の格差の拡大を論じました。

富める人は不動産、株式や債券などに投資することが可能です。一方、投資余力のない人が財産を増やすためには給与所得に頼るしかありません。

賃金が上がる率よりも、投資収益率は常に高い状態が続いているため、格差はますます拡大する傾向にあります。

トマ・ピケティ 『21世紀の資本』

忙しく日々暮らしている中で、他人の生活にまで心を配るのは難しく、アイデンティティの外側に対しては目を閉じて生きているのが、現代社会の実態でしょう。

しかし格差が行き過ぎると、治安を悪化させたり、暴動を引き起こしたり、富裕層にとっても生活しづらい環境を作り出してしまいます。

ベーシックインカムの意義

2009年のロンドンで、年間3000ポンド(50万円程度)を13人のホームレスの男性に渡し、何の管理も行わずに、自由に使ってもらう実験が行われました。

1年後に9人はホームレス状態から脱し、2人は住宅申請中となりました。主な使途は電話、辞書、補聴器といった生活必需品や、リハビリなどの次のステップにつながるものでした。

13人がホームレスで居続けた場合に比べ、使った費用を考慮しても社会負担は減少しました。一つの実験ではありますが、困っている人を助けることに金銭を使うことが、社会全体で考えて投資対効果が大きいことを示しています。

もうすでに、社会保障制度は確立していると思ってしまいますが、現実の世界にホームレスは存在しています。

それは、世界の多くの制度が過度に管理されているために対象者の条件が限定されいたり、対象者に屈辱を与えているという問題があるためです。

また、貧困は自己責任だという論調が、特に日本では根強くあります。どんな辛い環境であっても、個人の努力によって抜け出すことは可能であり、努力できないのは自己責任であるという考えです。

貧しさは、環境が生み出していることが、様々な研究でわかってきています。所得と学歴の高低は相関が高く、子どもの学歴は親の学歴と相関しています。

貧困層では、お酒を飲みすぎたり、ギャンブルをしすぎたり、借金をしすぎたりするといった、賢明な判断ができない人の割合が多くなります。

ただし、社会的な底辺の暮らしに浸かり、セルフリスペクトが失われた状態にあれば、人間の特性として、誰しもそうなる傾向にあるため、本人の責任だけではないこともわかっています。

貧困状態から抜け出すことができれば、人はもっと賢い判断ができるようになるはずです。

ベーシックインカムは例外なく貧困解決を目指す仕組みです。社会全体の幸福を最大化する可能性を秘めていると考えられます。

ベーシックインカムの課題

人間は、マズローの段階欲求説の低位の欲求に引っ張られる傾向にあります。

生存や安全の欲求を満たすことは、生活の前提です。将来への不安があれば、心配に駆られて努力をします。

熱帯地域と比べて、寒冷地域や四季のある国々の経済が、先行して発展してきたのは、日々の延長に暮らしていると生存が危うく、考え、備える必然があったからではないでしょうか。

ベーシックインカムが導入され、社会的な不安から解放された時に、我々は前進のための努力を続けるのか、多少の疑問が残ります。

ロンドンの実験は、貧困者が救われる一つの証明になっていますが、困窮しておらず健全に未来の不安と対峙して努力を続けている人たちの活動の勢いを緩め、人類の進歩の速度を落とす可能性がないとは言い切れません。

さらに、勤労意欲が低下する人が増え、社会全体の経済活動が継続できなくなる可能性も否定できません。

財源に関しても大きな課題があります。

富裕層に財源を求めて、資産や所得に対して累進的な増税を実行すると、低税率の地域へと脱出してしまう可能性があります。

ベーシックインカムによって、社会全体の幸福の総量が、そして自分自身の幸福が、確実に高まるという共通認識と深い納得が醸成されない限り、実現は困難です。

まずは、ベーシックインカムの導入によって起こり得る課題を徹底的に洗い出し、限定した地域で実験を行い、数値的な検証と共に、皆の心を動かす成功物語の創出を目指すべきだと考えます。

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遠藤 直紀(ビービット 代表)
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