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「デジタルに苦手な中高年」ってこれからも存在し続けるのか?

この春に出した新しい本『読む力 最新スキル大全』がありがたいことにたいへん好評で、いくつかのメディアのインタビューを受ける機会もありました。

その取材の一環で大手経済誌の人とお目にかかった際、「デジタルに苦手な40代以上の中高年に届く記事を」と話されているのにちょっと驚きを感じました。

パソコンとネットが普及し始めて四半世紀が経過した

コンピューターもインターネットも20世紀なかばの発明ですが、一般社会に普及しはじめたのは1995年、Windows95が発売されたあたりからです。当時わたしが在籍していた新聞社では80年代末に「ワープロ専用機」の導入がスタートし、これがパソコンに切り替えられていったのが1990年代後半。それまではフロッピーディスクで原稿の受け渡しをしていたのが、通信で編集局のデスクに送稿できるようになったのもこの時期でした。

この1990年代後半というのはバブル崩壊後に金融危機が重なり、就職が非常に困難な時代でもありました。この時代に青春期を送った人たちは「ロスジェネ」「就職氷河期世代」と呼ばれるのとともに、いち早くインターネットの世界に馴染み「デジタルネイティブ」とも呼ばれました。1972年生まれの堀江貴文さんや、1975年生まれのミクシィ創業者笠原健一さん、同じく1975年生まれのはてな創業者近藤淳也さんらは、この世代を象徴する人たちと言えるでしょう。2000年代には1976年生まれの起業家が多かったことから「ナナロク世代」なんていう言葉もありました。

デジタルネイティブ第一世代は50歳に近づいている

さて、この世代はいまや40代後半、間もなく50歳に差しかかろうとしています。最近は「世の中的には、43歳からがおじさん」という調査結果もあるほどで、中高年と呼ばれる年齢は昔とくらべてかなり上がってきていますが、まあ50歳は中高年と言って間違いないでしょう。

話を戻すと、わたしが冒頭の編集者のことばに違和感をもったのは、この世代を「デジタルに苦手」と呼んでしまうことに対してだったのです。

そもそも新しい機器の使いこなしについて、年齢による差は無いという研究結果はたくさんありますし、「年齢を重ねてるからデジタルが苦手」というのはステレオタイプすぎる感があります。とはいえ日本では、「デジタル怖い」と感じる人が少なくなく、年齢によってデジタルへの親和性に違いがあるのも事実。

「団塊の世代」は自力でデジタル使いこなしていなかった

業種や職種によって違いはあるので、たとえば現場中心に仕事をしてきたケースなど、70年代生まれでデジタルが苦手な人ももちろんいるでしょう。ただわたしの個人的な観測範囲で言うと、70年代生まれは1990年代後半、「デジタルを自由自在に使いこなしている若者たち」というイメージでした。

他の世代を見ると、いま後期高齢者になりつつある団塊の世代は、90年代後半のデジタル普及期に50代。なので自分ではパソコンもネットもオフィスアプリも扱わず、部下や秘書にまかせきりだった人が多いという印象があります。電子メールのやりとりをするのに、文面を部下にプリントアウトさせて読み、返事は口頭でしゃべってそれをまた部下がタイプしてメールで返信、なんて人もたくさんいました。

団塊の世代の少し下になる1960年代生まれ(わたしもそのひとり)は、デジタル普及期に30代。この世代だとデジタル忌避してパソコンに近寄ろうとしなかった人たちと、積極的に活用しにいった人たちとで真っ二つに分かれていたという記憶があります。そして70年代生まれのデジタルネイティブ世代は普及期に20代なので、職場にデジタルが導入されていれば普通に使いこなしていた印象です。

この世代の変化に加えて、デジタル機器そのもののUI/UXの進化もあります。90年代の普及期には、パソコンなどのデジタル機器やOS、アプリケーションソフトの使い勝手はお世辞にも洗練されているとは言えませんでした。インターネット上にも情報は少なく調べるのも難しく(グーグルが使いやすい検索エンジンを投入したのは2000年前後になってからです)、だからみんなパソコン雑誌やパソコン入門本を争うように買っていました。

パソコン雑誌もパソコン入門本もパソコン教室も消えた

しかし2022年現在、スマホやパソコンを使いこなすために入門本を買う人はほとんどいません。街の風景で「パソコン教室」の看板もすっかり見かけなくなりました。UIが進化し、操作体系がある程度標準化され、本能的な身体の操作でたいていは使いこなせるようになってきたからです。2000年ごろによく言われていたデジタルデバイド問題(デジタルを使いこなせるかどうかが格差につながる)が言われなくなったのも、このUIの進化と、スマホが安価に購入できるようになったことが理由です。

そしてこの先には、スマホの時代も遠からず終わっていくでしょう。パソコンは入力を中心とした仕事の道具として生き長らえるのではないかと思いますが、日常の道具としてのコンピュータはスマホからVR/ARのヘッドマウントディスプレイなどウェアラブルデバイスへになり、さらにその先には身体とデジタルが融合するインプラント(身体への埋め込み)へと進んでいくはずです。

いずれデジタルからはUIという概念さえなくなっていく

そのように身体とデジタルが融合していけば、日常のデジタルにはタッチスクリーンもキーボードも必要なくなり、UIそのものが透明化して使っていることさえ意識しなくなる「ゼロUI」に進化していくことになるでしょう。そして来るべきその時代には、もはや「デジタルが苦手な中高年」は存在しなくなっているはずです。ただし「オレはデジタルは嫌だ!クラウドもメタバースも拒否してアナログとして生きていくのだ!」という選択の自由は残されてはいると思いますけどね。

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