いつからか「日本人は働かない」と言われるようになった

かつて、日本企業といえば長時間労働とハードワークが当たり前の時代があった。「リゲイン」のCMに象徴されるように、「24時間働けますか」というフレーズが美徳とされる時代は、まさに高度経済成長を支えた日本の労働文化の象徴だった。しかし、近年ではその状況が一変し、「働きすぎの日本人」というイメージは過去のものになりつつある。

厚生労働省の発表によると、2024年の1人当たりの月平均労働時間は136.9時間と、前年から1.0%減少した。特に残業時間が顕著に減少し、パートタイム労働者の増加が労働時間短縮の要因のひとつとされている。日本の労働時間はコロナ禍以降も回復が鈍く、2019年の水準を未だ下回っているのが実情だ。

さらにOECDの統計を見ると、日本の年間労働時間は米国やOECD平均よりも低くなっており、かつての「日本はよく働く国」という常識は崩れつつある。アメリカはコロナ禍で落ち込んだ労働時間を取り戻しつつあり、OECD平均も回復傾向にあるが、日本だけが依然として低迷している。

一方で、成長著しいアジア諸国では、依然としてハードワークが経済成長の大きな要因となっている。例えば台湾の半導体メーカーTSMCは、世界をリードする企業のひとつとして知られるが、そこでは高度な専門性を有する人材が猛烈に働いている。こうした傾向は欧米でも同様であり、総労働時間の短い傾向にある国々でも、エリート層はハードワークを厭わない。

海外のビジネスパーソンと接していると、「日本人は思ったよりも働かない」という声を聞くことも増えてきた。かつての「勤勉な日本人」というイメージとは異なり、日本の労働文化は変化していると認識されつつあるのだ。

もちろん、昭和のように残業を厭わず働け、というわけではない。長時間労働の弊害は明白であり、働き方改革の進展は必要な施策だった。しかし、国際競争の舞台では、すべての労働者が一律に労働時間を短縮することが必ずしも最適解ではない。

日本企業のプレゼンスを維持し、国際競争で勝ち抜くためには、「ハードワークすべきときはハードワークする」というメリハリのあるジョブデザインが必要だ。高度な専門性を持つ人材が競争力を持つためには、相応の努力が不可欠であり、単に労働時間を減らすのではなく、戦略的な労働設計を行うべきだろう。

日本が国際市場での影響力を維持し、成長を続けるためには、単なる労働時間の削減ではなく、働き方の質の向上と、必要な場面ではしっかりと働く文化を再構築することが求められている。


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