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学び直しのスイッチはどんな時に入るか

皆さん、こんにちは。今回は「リスキリング」について書かせていただきます。

あらゆる産業でDXが進む中、従業員にその変化に対応できる新たなスキルを身につけてもらう必要が出てきています。
「リスキリング」という言葉が広がり、個人のスキル習得への意欲も必要性も高まっていることを受けて、従業員にとっては“強制的”ではなく、“自律的”にキャリアを描き、学び直しの機会へとつなげる最適なタイミングが訪れています。

政府は18日に閣議決定を予定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、週休3日制の導入促進を盛り込む見通しだ。期待している効果のひとつとして、「学び直し」の活発化がある。が、学ぶための時間をつくり出せば、人は学ぶようになるものだろうか。そう単純にはいかないことをデータは示しており、人を学習へと導くには別の視点も必要だ。
政府が9日に公表した骨太の方針の原案には、希望者が週に3日休めるようにする「選択的週休3日制」の普及を図るという項目が入った。すでにこの制度を取り入れている企業事例を収集・提供し、産業界に普及させるという。自由に使える時間が増えることで、仕事と育児・介護の両立や兼業・副業を促せるとみている。
加えて念頭にあるのが、社会人の学び直しを広げることだ。選択的週休3日制を議論してきた政府の経済財政諮問会議では、民間議員から「従業員の学び直しへの支援を強化するため、選択的週休3日制を導入するなど働きながら学べる環境を整備すべき」という提言があった。
デジタル化やグローバル化の進展で環境変化のスピードが上がり、仕事に必要な、あるいは今後必要になるであろう知識や技能を身につける「リスキリング(再教育)」が世界の潮流になっている。週休3日制で、その機会を増やせるというわけだ。
育児・介護や兼業・副業は、使える時間が新たに生まれることが確かに助けになるだろう。
だが、学び直しについては、時間的余裕ができることが必ずしも明確な後押しにはならないとのデータがある。リクルートワークス研究所が毎年1月に、15歳以上の男女を対象に、5万人規模で実施している「全国就業実態パネル調査」だ。
2018年の調査では「社会人の学び」をテーマに結果を分析した。興味深いのが週の労働時間と自己学習の関係だ。週に35~39時間働く人のなかで自己学習をしている人の割合は33.3%、40~44時間働く人では34.7%。週の労働時間が多くなるにつれて自ら学ぶ人は増え、45~49時間の人で自己学習をしている人は37.9%、50~59時間の人では39.1%だった。
つまり、日々の仕事に忙しい人ほど、学ぶことに意欲的なのだ。
※中略※
リクルートワークス研究所はどのような要因が自己学習を促すかも調べた。最も効果がみられたのは、仕事のレベルアップだった。仕事の難度が高くなれば挑戦意欲が高まり、新たな知識や技術の習得に動くようになるからだ。
次いで効果が高かったのが、上司や顧客からのフィードバック。働きをきちんと評価されることで、やる気に火が付く。うなずける分析結果だろう。
週休3日制と学び直しの関係について、孫研究員は次のように話す。「週休3日制が学びを促進するかというと、直接的な効果には懐疑的だ。ただし学ぶ時間を求めている人にとっては、この制度がきっかけになって効果があがる場合があるだろう」。学びを促すうえで週休3日制は、「補完的な要素」という。
求められるのは人が刺激を受け、学ぶ意欲がわく環境づくりだ。従業員が「気づき」を得られ、自ら成長しようという気持ちを持ち続けることができる組織を、いかにつくるか
企業の役割は重要だ。上意下達や年功序列型で風通しが悪く、外部から人材がなかなか入ってこない同質的な組織だと、従業員が啓発される機会は乏しくなる。順送り人事がはびこっていれば、やりたい仕事があってもチャンスは限られ、力をつけることへのモチベーションは低下する。
政府が企業に週休3日制を広げても、人々の学び直しのスイッチが入るとは限らないそれよりも、学び直しの意欲がわきにくい硬直的な組織の改革を後押しする方が、効果が期待できるだろう。避けて通れないのが組織の停滞感を生んでいる日本型雇用システムの見直しだ。課題が山積する労働規制改革へ、照準を定め直した方がいい。

■時間ができたからといって、自ら学ぶようになるわけではない

記事の中で印象的なのは、「日々の仕事に忙しい人ほど、学ぶことに意欲的」という点です。
「もっと自分に時間があればスキルアップのための勉強をするのに。」「毎日リモートワークになれば、通勤時間の浮いた時間を学習の時間に充てられるのに。」と思っていても、学ぶ習慣がない人や、そもそも学ぶことに意欲的でない人は、時間ができたからといって急に自ら学ぶようになるわけではないのです。

“リスキリング”とは、「必要なスキルを新たに獲得する教育」を意味しますが、企業のDX推進に伴い、デジタル化によって生じる新たな業務に順応するためのスキル習得を指すことが増えています。

簡単に言ってしまうと、必要なスキルを特定し、現状のスキルから移行させるために計画を立てて学習機会を作っていけば良いという話なのですが、まだまだ日本においては「社内教育はこれまでのようなOJT形式で十分」「eラーニングや座学で習得したスキルは実践で使えない」とか、「自分の業務には新たなスキル習得は必要がない。デジタルに強くならずとも違うスキルで勝負していく」などと考える人が多く、なかなか海外のように個人や企業の理解も追いついていないのが実態ではないでしょうか。

「リスキリング」のための環境整備と言ってしまうとまだまだハードルが高い印象があるので、もっと前段階の「人々の学び直しのスイッチをどう入れるか」という点にフォーカスしてみたいと思います。


■学び直しのスイッチはどこにあるか

社会人になり、時間に追われる日々を過ごしていると、もっとこういうスキルを身につけたいという意欲はあるものの、いざ時間もお金もかけるとなるとなかなか重い腰をあげられない人が多いことと思います。

「学び直しのスイッチはどんな時に入るか」ですが、大きく以下3点です。

・業務内容がレベルアップした時
・上司や顧客からフィードバックを受けた時

・周囲から刺激を受けた時

仕事の難易度が上がり、新たな知識やスキルが必要になる時というのは、どんなスキルを習得すべきかが明確になるため、学び直しの機会として最適なタイミングです。
また、日頃の業務の成果や仕事ぶりをよく見ている上司や顧客から、「こういうスキルや経験があるともっといい」というフィードバックを受けると、学習意欲が高まり、行動に移すきっかけにもなります。
周囲の人が新たなスキルを習得し、実際に仕事の幅を広げたり、自信を持って業務に取り組んでいる姿に刺激を受けて、自分も本腰を入れようと奮起する人もいるかもしれません。

個人の学び直しへの意欲に直接つながるかどうかは別としても、企業側は社員に対して「難易度の高い仕事への挑戦機会」や「モチベーションアップにつながる適切なフィードバック」を細かいサイクルで繰り返し提供していくことが必要です。
そして、リカレント教育など社会人の学び直しに対して、寛容な雰囲気や風土の構築もセットで必要になってくるのではないかと思います。

■インプットとアウトプットを増やすために

「学び直し」とまではいかなくても、日常生活の中で「情報をインプットする癖」「情報をアウトプットする癖」を身につけていると、その量と質を上げていくことで視点が高くなり、日々の業務や目標に直結する成果へとつながりやすくなります。そして、その積み重ねが学習意欲の向上へと発展しやすくなります。

インプットやアウトプットの機会を増やすためのポイントを3つ、挙げてみます。

① インプットは雑でいい
→インプットの機会が減ってきていることに自ら気づき、自ら増やそうと努力しないと、新しい情報を持たずにバージョンアップできないままになってしまいます。インプットの絶対量が足りなければ、判断の精度は高まりませんし、発想の幅も広がりません。ただし、「インプットしなければ」「勉強しなければ」と身構えて、タスクとして義務化してしまうと、結局は時間がないことを理由に後回しにしてしまいがちです。
インプットは雑でよく、まずは質を高めるよりもインプット量を意識するところからスタートすれば良いと思います。通勤時にニュースの流し読みをする、1時間かけて1冊の本をじっくり読まなくても、飛ばし読みをしながら同じ時間で2冊読むなど、まずは多くの情報に触れる中で、自分が興味を持ったものや自分の仕事の成果に直結するものを見つけ、より知識を深めていくためにさらにインプット量を増やし、そこから質を高めていけばいいのです。
一回のインプットで10個も20個も学びや気づきを得ようと欲張らずに、大事なポイントを取捨選択しながら、アウトプットにつながるものだけを情報として入れる、くらいの気持ちで良いと思います。
② あくまでアウトプットするためにインプットをする
→インプットした情報を相手に伝える際、自分が理解をしていないと正確に人に伝わりません。アウトプットするという経験そのものが、思考の整理を促すため、インプットとアウトプット両方を繰り返し駆使することでどんどん深い知識をつけていくことが可能になるのです。つまり、「アウトプットは最大のインプットである」と言えます。
インプットの量を増やすのは、アウトプットをするためであって、「ただ勉強しているだけ」「ただ知識を頭に入れておくだけ」では意味がありません。インプットしたらその後にすぐにアウトプットをする、アウトプットしたらまた必要な情報をインプットする、というサイクルを何度も積み重ねていくことで、生産性が高まっていくはずです。
③ アウトプットは「書く」「話す」「やってみる」だけでOK
→アウトプットというと、長い論文を書くとか、大勢の前でプレゼンテーションするということを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、目の前の紙に文字を書くだけ、隣の人に入手した情報を話すだけでも立派なアウトプットです。
アウトプットすることで、学んだことへの新しい気づきを得たり、人に教えたり話したりする過程で学習効率が飛躍的に高まり、インプットした情報を「使用する」機会を自ら作り出すことができるのです。
たとえば本を読んで、内容を十分インプットしたつもりになっていても、いざ要約して話したり、理解したことを書き出そうとすると、実は説明できない、書けないという状況はよく起こります。インプットした情報の要点を話したり、理解したことを書き留めておく習慣をつけるだけで、アウトプット力は一気に高まります。


■サイバーエージェントの取り組み

当社のインプットとアウトプットに関する取り組みを、2つご紹介します。

① YOMOCA(ヨモカ)
→“読もう(YOMO)”と“サイバーエージェントのCA”を合わせて、「YOMOCA(ヨモカ)」という名前の取り組みで、日経新聞を読み、その記事の要約と自分の意見をグループチャットに投稿するというものです。部署単位で実施するやり方が定着していますが、過去には部署横断で若手社員だけで対抗戦のような形で実施したこともあります。

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新聞を読む習慣を特に若手社員に身につけてほしいという目的から始まったものですが、ニュースをインプットする上で視野を広げ、物事を俯瞰して考える習慣が身につきますし、記事に対する自分の意見を発信するのでアウトプットにも磨きがかかっていく取り組みになっています。一人がシェアした記事の内容や見解が他の人の新たな気づきとなり、お互いに意見交換して更に見解を深めていけるという良い相乗効果も生み出しています。

② 読書会
→ありきたりかもしれませんが、課題図書のような形で毎月1~2冊決めて、チーム単位や部署単位、または管理職単位で読むようにしています。自分自身の学びを言語化し、人に説明することでより理解が深まり、他の人の視点やアウトプット内容にも刺激を受けるので、「読書会」もインプットとアウトプット、どちらも強化していける取り組みとなっています。


最後に話を戻しますが、DX人材を育てるために「リスキリング」を推進していくには、ただ個々のスキルレベルやリテラシーに合わせて段階的に研修を実施していけば良いわけではありません
企業が用意した研修を受動的に受けるだけでは、個々の学び直しの意欲が高まるわけではなく一時的な学習機会で終わってしまいます。きっかけは何かしらの研修参加や育成プログラムの受講などで良いのですが、その先に、能動的に学ぶことへの意欲を掻き立て、それを評価し、新たな仕事上の挑戦機会へとつなげるような土壌をいかに整えていくかがカギとなります。

コロナ禍を機に、「学び続けないと仕事がなくなるかもしれない」「スキルがないと定年まで会社に残れないかもしれない」という不安や危機感から、キャリアを切り開こうと考える人が増えている中、これまでの経験や成功体験にしがみつくことなく、新たなスキルを武器に、また違った形で組織に貢献することが今こそ求められています

従来のような、一時的に休職をして大学や大学院に通ったり、海外留学をすることだけが社会人の「学び直し」ではありません。

世の中で求められる個人のスキルが変化した時、キャリアの中で成長カーブが落ちていると感じた時、これからのキャリアで必要なスキルとは何かを考え始めた時、自分の生涯をかけてやりたいことが明確になった時など自分で「今だ!」と思い立った時こそが最適なタイミングです。

「学び直し」のきっかけは、実はいつでもどこにでも転がっているのではないでしょうか。


#日経COMEMO #NIKKEI

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