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多様性は何のため⁈ どう大事にする⁈

ご存知のとおり、トランプ氏の再選をきっかけに、ダイバーシティに対する保守的な反動が生まれている。これは、自動車業界との縁が深かった自分にとっては「EV一本足からハイブリッドの復権」と似たような動きに感じてしまう。どちらも、人権尊重もしくは環境保全という点では当たり前に正しいことだが、現実世界でこれらを貫くことの難しさを感じると共に、貫く必然性に腹落ちすることができていないのではないだろうか。

必然性は納得感と言い換えても良いだろう。多様な人や地球を大事にしたいのはやまやまだけど、それによってデメリットばかり生まれるのなら躊躇してしまう。デメリットが生ずるのは良いとしても、それならばメリットも享受したいというのが人間の性かもしれない。様々な企業の中で、どんな思いで保守的な反動が起きているのかを知れる立場にはないが、メリットをもう少し前に押し出すことができたら、気持ちよく進めていくことができるような気がする。

「企業が多様性を戦略として取り入れるには、「倫理的なDEI」と「発展的なDEI」を理解することが不可欠となる」とJobRainbowCEOの星賢人氏は言う。前者は差別の排除、公平な機会の提供、ハラスメント防止など、後者は心理的安全性の確立、イノベーションの創出、多様な評価制度の設計だが、昨今のニュースで目に入ってくる多様性は前者のことを説明しているものが多いように感じる。もしかしたら、ここにいびつさがあるのではないだろうか。

確かに、何よりも先に「倫理的なDEI」が満たされることが理想かもしれない。でも、もし「発展的なDEI」によってイノベーションを生み出すことができていれば、DEIの重要性、言い換えればDEIのメリットを感じることができる。そうすれば企業や個人の「倫理的なDEI」に向き合う姿勢に変化が生まれると思う。気持ちに余裕が持てるからだ。

では、なぜ「発展的なDEI」によってイノベーションが生み出せるのだろうか。早稲田大学准教授の山野井氏によれば、「アイデアの創造では完全な無から有が生まれるようなことは普通なく、個人が持っている既存の情報・知識が、他者の有する既存の情報・知識と結びつくことで、有用で新たなアイデアが生まれるという傾向がある」という。とはいえ、類似の情報・知識を持つ他者では役に立たない。異分野を含む社内外に広がるネットワークに属する他者が必要になるのだ。DEIによる化学反応というわけだ。

こうした化学反応を能動的に起こそうという取り組みも進んでいる。NTTの木下氏は「デジタル技術で自分の分身をつくる「Another Me」と、言語などの壁を越えて心の中を直接理解する「感性コンピューティング」が実現したときの社会の姿をSF作家に依頼してそれぞれ短編小説にまとめた」と話す。さらに「新技術の役立つ面だけ見がちな研究者と、規制を重視する法律家で議論すると、実際に使う当事者の目線を忘れやすくなる。そういうとき、多分野の英知を集めるSFプロトタイピングを通じてシナリオを具体的に描くと議論が進む」と多様性があるが故のメリットを語っている。

この記事には、まったくの異分野にもみえる科学とアートの化学反応が幾つか紹介されている。中でも面白かったのは、「科学とアートは真理と普遍を追求するところが共通する。似ているもの同士、何かの刺激になればいい」と、研究者と作家の交流の場を設け、双方の活動のヒントを探る取り組みの話だ。「似ているもの同士」というフレーズに、企業で言う「パーパス経営」を重ねたからだと思う。また、「対比で見るのは短絡的だし、融合すると緊張感を失う。理解したとは言い難いが、既成の芸術とも、科学とも違ったアプローチで何ができるか、考えるようになった」と言う参加アーティストの平川氏の言葉にも、多様性の更なる奥行きを感じることができた。

もちろん「倫理的なDEI」については個々人、各企業の無理のない最大限をまず進めておくべきなのは言うまでもないが、「発展的なDEI」にまず着手して「倫理的なDEI」に繋げる。こんなあり方もあって良いと考えている。自分とは常識の違う人と、場合によっては非常識と思える人(倫理的な部分は合っている人)と対話をしてみる。それによってイノベーションという果実を獲得する。まずは「多様性や化学反応は凄いのだ」という体験をすることが大事だと考えている。

ただ、このアプローチだと、社会的弱者は入れないのでは。こんな疑問も生まれるかもしれない。これに対する答えとしては、イノベーションを量産する中で、多様性の対象を広げていく、社会的弱者の極一部からかもしれないが対象に加えていくことだと感じている。どんな社会的弱者でもイノベーションになんらかの形で貢献できる能力を保持していると私は信じている。

もう一つのアプローチはイノベーションを量産することで、世の中に余裕やゆとりを量産することだと思う。こうすれば、みんなで社会を盛り上げていくという意識が高まると考えている。まだどちらも実践できていないが、こんな未来を描いて、それに貢献できる仲間と進んでいきたいと思う。

医師であり、心理学者であり、作家でもあるエドワード・デ・ボノ氏が生み出した「6つの帽子思考法」を、ふと思い出した。先人の知恵の中には、たくさんの多様性の活かし方が溢れている。こうしたものを武器や糧にして進めば勇気100倍だ。



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