ESGに積極的な企業は収益力も高いのか?
ESG投資の目的は「長期的リターンの最大化」とされています。政策目的(わかりやすく言うと、世直し、という感じでしょうか)ではないので、長期的リターンにつながっているのか、という観点が議論になるのは当然ですね。その点でこうした分析が活発に行われるのは当然でもあり、良いことだと思います。
ただ、一方でこの記事の中で伊藤邦雄先生が「もともと収益力が高くて余裕があるからESGに力を入れるのか、ESGが良いから収益性が高いのか、結論は出ていない。」と仰っている通り、その相関関係は議論の余地が多いとされています。
「拡大する「ESG投資」の課題は何か──気候変動に関する投資家エンゲージメントを巡って」という論考で指摘した通り、多くの論文でESGと企業の財務パフォーマンスの間に正の相関関係が認められています(例えば、Deutsche Asset Management のFriede氏らが2015年に発表した論文では、2,000件以上の実証研究のメタ分析を行って、90%以上の研究で負の相関はなく、多くの研究で正の相関が認められたとしています)。とはいえ、全く逆の結論を導き出している論文もあって、ハーバード大学ケネディースクールの名誉教授であるJoseph P. Kalt博士らは気候変動関連の株主提案によって、株主の利益(リターン)を高めているのかどうかの分析を行ったうえで、「企業が気候変動関連の情報開示を増やした場合、あるいは、増やすことを求める株主提案がなされた場合に、それが株主の利益となるという仮定を裏付けるものは何ら得られなかった。むしろ、そうした株主決議の採択が企業収益に何らインパクトをもたらすことはないという証左が示された。」と断じています。
ESGは長期目的ですから、リターン向上に結び付いているかどうかの分析も難しいわけですが、そんななかでESGをしっかり定着させていくためにも、リターンが出ないことの「言い訳」にされてしまうことのないよう、きちんんとした評価軸を議論していくことが大事だと思っています。
写真は全く関係ないのですが、先週のロンドンの夏空。
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