新型コロナ治療薬は今後使われるのか?
今年度をもって新型コロナ(COVID)医療費の公費支援がすべて廃止されます。これまで多額の公費が使われてきたことや、感染症法上の5類移行への流れを鑑みるのであれば妥当な判断なのでしょう。その一方で100床未満の病院で特例として加算することが可能であった特定疾患療養管理料である147点(1,470円・3割負担で440円)も見直されることから、患者さん側としては診療費の負担が軽減され一般的な診療とほぼ同等の扱いになる訳です。
内服として処方される抗ウイルス薬はニルマトレルビル(パキロビッドパック)・モルヌピラビル(ラゲブリオ)・エンシトレルビル(ゾコーバ)の3種類があり、それぞれ薬価は異なりますが、3割負担の場合には診察費のほかに薬剤費として一律9,000円の負担が生じます。ただ実際にかかる費用は一治療当たり以下のとおりです。
4月以降に内服を希望する場合には保険の負担割合によってこの費用を支払うことになる訳ですので、最も安価なゾコーバを希望する場合でも3割負担で一治療あたり15,555円かかることになります。インフルエンザ治療薬の場合、オセルタミビル(タミフル®)で816円、バロキサビル(ゾフルーザ®)で1,436円ですのでかなり高額であることは一目瞭然です。
私はこれまで多くの方々にCOVID治療薬を処方してきましたが、患者さんの反応としては「内服してからかなり楽になった」という方と「あまり変わらなかった」という方と様々であり、インフルエンザ治療薬に比べると「切れは今ひとつ」というのが正直な印象です。そのような薬に多額の費用をかけても内服するかというと確かに難しい選択かもしれません。
COVIDはデルタ株までと比べると重症化リスクや死亡リスクが少なくなったことは事実ですし、患者さんにもよりますが、症状自体もインフルエンザより軽症である印象です。しかし入院しなければならない状態や、倦怠感や精神神経症状が長期にわたるLONG COVID(コロナ後遺症)の発生がなくなった訳ではありません。上記の抗ウイルス薬は高齢者や基礎疾患をお持ちである重症化しやすい方々において、入院や重症化のリスクを軽減させる効果が多くの臨床研究から証明されており、治療ガイドラインでも投与が推奨されています(*世界的にはゾコーバ承認国は限定的ですので以下には明記がありません)。
仮に入院してレムデシビル(ベクルリー®)による治療を行った場合は一治療当たり247,988円(3割負担で74,396.4円)となり、内服薬で最も高額なパキロビッドの約2倍の薬価となります。また入院すれば抗ウイルス薬以外の治療費や検査費などの費用もかさむこととなります。
入院を回避する可能性が高まるのであれば、費用対効果の観点から鑑みて重症化リスクが高くなることが予想される方々に対して抗ウイルス薬は推奨されるべきであると考えられます。また最近ではCOVID罹患後に長期にわたりウイルスが残存する可能性を示唆する報告も散見されており、ウイルスを確実に減らすことができる抗ウイルス薬の役割は、急性期の症状改善効果だけではなく、LONG COVIDの回避も含む長期的な予後を見据えた上でもその価値を見出せるものであると思います。ただ処方するのは医師であり、その是非に関してもこれまで以上に温度差が広がるのではないかと思われます。