縲仙刈蟾_縲_3142

いつまでも続かない中銀と市場の接待関係

目下、金融市場ではFRBが利下げに踏み切るのか、踏み切るとすればそれはいつで、年内何回が想定されるのかが注目されています。利下げが行われた場合、その大義はあくまで「予防的な利下げ」で、あくまで景気循環に対して遅きに失した対応ではないという体裁が取られそうです。しかし、雇用・賃金はあくまで景気循環にとって遅行系列だということで知られています。雇用・賃金の失速が確認された時点で景気の拡大局面はとっくに終了しているはずであり、恐らくは縮小局面に入っている疑いが強いと考えられます。これは消費者物価指数(CPI)などの一般物価の動きについても同様です。物価も景気循環に対して遅効性が認められる項目です。


逆に、景気循環に対して先行性が認められる計数としては株価のほかISM製造業景気指数などのソフトデータの存在が挙げられます。ということは、例えばISM製造業景気指数とFF金利の間に安定した関係があれば、景気が本格的に縮小局面に突入する前に「予防的な利下げ」が行われていたということも言えそうである。この点、過去30年についてFF金利とISM製造業景気指数(以下単に指数)の動きを見ると、FRBは指数の悪化が相応に進んでから利下げに着手してきたことが分かります(図)


少なくとも直近2回の利下げ局面については指数が急落する途上で利下げが始まっています。企業心理の悪化を機敏に捉えて「予防的な利下げ」が割り当てられてきたという雰囲気はあまり感じられません。しかし、企業心理の悪化が顕著な時に利下げが行われていたこともまた事実であるため、足許で指数が急落していることを思えば、FF 金利が現状維持で逃げ切るのは簡単な話ではないように感じます。


中央銀行と株式市場の「接待関係」

一方、同じ先行系列としての株価に着目した場合、FF金利はよりビビッドに反応してきたように見えます。「金融政策は株式投資家のためにあるわけではない」と言いつつ、やはり株価が変調をきたした時には政策修正を検討せざるを得ないということでしょう。しかし、未曾有の金融緩和の影響もあって果たして株価が景気の先行指標として正しいのかどうかは判然としません。むしろ単なる「金融政策の写し鏡」に成り下がっている面はないでしょうか。6月に入り株価は反騰していますが、周知の通り、これは「利下げありき」の上昇です。ゆえに、この期に及んで「利下げはなく、暫くしたら利上げに復帰」という正常化トークは到底できる雰囲気ではありません。


こうした中央銀行と株式市場の一種の「接待関係」は持続可能なのでしょうか。日本や欧州のように家計部門における株式の保有割合がさほど高くない経済の場合、緩和的な金融環境で株価を押し上げたところで実体経済の減速を和らげる一助にはなり得ないだろう。しかし、保有している金融資産の30%以上が株式である米家計部門の現状を踏まえると、中央銀行と市場の「接待関係」は資産効果を通じて実体経済を押し上げるという現実的な効果を有してしまう可能性があります。米家計部門の純資産の名目GDPに対する比率は過去最高を更新し続けており、これが冴えない賃金動向をカバーしてきた可能性が推測されます。とすれば、このままFRBが株式市場のご機嫌取りを続けることで、再び資産効果を通じて窮地を脱する芽もなくはないのかもしれません。

数少ないカードが分捕られる展開
しかし、ここで雇用市場が完全雇用に到達していそうなことが問題になります。たとえFRBがハト派色を全面に押し出す政策運営に勤しんだとしても、5月雇用統計のような内容を見せ続けられて金融市場が穏当でいられるでしょうか。今後、非農業部門雇用者数(NFP)変化が恒常的に前月比+10万人を割り込み、失業率が上がり続け、賃金も失速が目立つような事態は十分想定されるでしょう。振り返ってみれば、「FRB のハト派傾斜」を理由に株式市場が盛り上がる展開は年初にもありました。年初は 「利上げ先送り」ないし「利上げの停止」の観測が株価を押し上げたわけですが、今は「利下げ転換」 が株価を押し上げています。少しずつですが、着実にFRBは追い込まれていると言って良いでしょう。

結局、株式市場のご機嫌を取り続ければ、急変動は避けられる面はあります。しかしそれはタダではなく数少ない手持ちのカードを分捕られることと引き換えだということを忘れるべきではないと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?