見出し画像

デジタル庁によりDXは進むのか。カギを握るのは副業を含む労働市場の流動化と学び直しだ

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

菅義偉内閣の重要課題のひとつとして、政府のデジタル化があげられました。これまでも住基ネットやマイナンバーなどオンライン行政などに巨額の財源を投下してきたものの、目立った成果を上げられずにいます。そこで「デジタル庁」を新設し、縦割りを排してオンライン行政のここに集約するとのことです。

日本総合研究所によると5万5千以上ある政府の行政手続きのうち、オンラインで完結できるものは2019年3月末時点で全体の7.5%にとどまった。政府は01年に「e-Japan戦略」を策定するなど20年近くかけてこの問題に取り組んできたが、目立った成果を上げられずにいる。

この遅れを取り戻そうと、菅内閣が目玉のひとつに掲げるのがデジタル庁の新設だ。

首相はオンライン行政に関するあらゆる機能をここに集約する方針だ。23日には関係閣僚会議を開き、デジタル庁創設への基本方針を年内にまとめるよう指示した。

近年ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)やSociety5.0だと声高に呼びかけているわけですが、足元の行政自体のDXが進んでいないのは皮肉としか言いようがありません。ぜひ、力強く進めていただきたいと思います。

では、デジタル庁ができ、縦割りを排して集約をすればDXがなされるのかと言えば、そう簡単にはいかないだろうと考えています。これまでも内閣官房の下にIT総合戦略室を設け、IT政策担当大臣の元で民間からも優秀な人材を政府CIO補佐官として任命してやってきたわけです。オープンデータなど一定の成果は認められると思いますが、多くの国民が求めている「ワンストップ&オンライン完結」での行政サービスとまでは至ってません。

まったく同じ構造が民間企業にも存在しています。Windows95と共に日本のインターネットの普及が始まったとすれば、その後のブロードバンド革命を通じて企業・個人ともにネット活用が進みました。いまでは電子メールを利用していない企業はほぼないと言ってもいいでしょう。ところがどうでしょう。私たちはその時代においても紙に押印し、FAXで発注し、会って名刺交換をしているわけです。

また、デジタル化を進めるにあたっても、ベンダーに外注するパターンが多いです。これにより、社内にIT人材が育たず、数年に一度の更新。更新できていれば良い方で、予算繰りの都合で一度つくったシステムを大事に使い続け、10年前の最先端技術を活用しているという事例も多いのではないでしょうか。ここに関しては、行政も民間企業も似たような状況に思えます。

IT化というのは、最初の立ち上げや更新時に多くのリソースを必要としますが、保守フェーズではそこまでの人員はいらないという特徴があります。よって、必要なときに必要な人材を調達できたとしても、後に余剰人員となる可能性が高いです。よって雇用流動性の低い現在の日本においては、中で抱えるよりは外に出そうという意識が働き、ベンダー依存となっていきます。

IT人材に絞って言えば、そもそも労働市場の需給ギャップが大きい領域でもあります。経済産業省の委託を受けたみずほ情報総研の調査によれば、2018年時点でのギャップは22万人の不足、2030年には最大で78.7万人不足と試算されています。新卒者のIT人材への就職割合の上昇トレンドが継続していることから、以前の試算よりもギャップは若干小さくなっています。が、引き続き大きく不足する見込みであることは間違いありません。

特にこれから大きく不足すると言われているのが、高度IT人材のひとつである「データサイエンティスト」です。2030年には約26.5万人不足するという試算もあります。DataRobotなどのAI自動化ツールにより手当できる領域もあると思いますが、そのツールを使いこなすにもスキルが必要です。

欧米では新型コロナウィルスによる雇用不安が広がっていることから、失業リスクの高い産業からニーズが拡大するデジタル分野への雇用シフトが加速しています。公的支援も相次いで投入され、再教育に力を入れています。

欧州ではフランスも3日発表した1千億ユーロ(約12兆円)の追加のコロナ対策で、雇用や職業訓練に153億ユーロを充てた。デジタル、医療などの職業訓練を支援する。

米国では超党派議員がスキル更新を促すための新法を提案し、専門技能の訓練を受けた個人に4千ドル(約42万円)の税額控除を与えると盛り込んだ。米マッキンゼー・アンド・カンパニーの試算では、米国はコロナ後に5700万人の雇用が失業リスクにさらされるが、デジタル分野などへの人材流動化を促す。

日本は遅れが目立つ。世界各国が労働市場のニーズを再教育にどれだけ反映できているかを、経済協力開発機構(OECD)が比較したところ、日本は加盟国で最下位だった。将来必要になる技能を定期評価する仕組みを企業が整えているかや、最新スキルを学べるプログラムを従業員に提供する企業の割合などを評価し、最大値が1となるよう指標化。日本は0.15で、加盟国平均の0.57を下回った。

日本のDXを進めるためには、必要なときに適切な人材を確保できる環境と、人材自体が経験をつみながら継続的にスキルアップが図れる環境の両方が必要です。そのためには、以下の3点がカギになると考えています。

1) 人材の母数自体を増やすため、公的支援も含めた再教育の促進
2) 波のあるIT需要をコントロールするため、機動的な人材調達ができる雇用体系
3) 副業の推進による既存人材の活用強化

また、人は業務の中からも学び続けることができます。特にIT人材は自身のスキルアップのため、より難易度の高い課題を求め続ける傾向にあります。やりがいと「歯ごたえ」のある業務を与え続けられるかは、人材の定着率にも影響します。

以前の「適材適所から適所適材へ」という記事を書きました。

ポジション思考とIT人材の調達環境こそが、DXを完遂するための近道であると思います。今後デジタル庁を中心に、本丸の課題解決に取り組んでほしいと願っています。

---------
みなさまからいただく「スキ」がものすごく嬉しいので、記事を読んで「へー」と思ったらぜひポチっとしていただけると飛び上がって喜びます!

タイトル画像提供:Graphs / PIXTA(ピクスタ)

#COMEMO #NIKKEI

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?