変化が激しい今こそ、「次の世代に分かってもらおう」がちょうどいい #リーダーの心得
コロナ、花粉のダブルパンチで、家に引きこもる人が史上最大人数ではないかな。そんな中、わたしも類にもれず自宅で引きこもっているので、この機会に、あまり考えたことがない「リーダーの心得」について考えてみた。そして、そのまとめとして「リーダーが目指す成果は、次の世代に分かってもらうぐらいがちょうどいい」ということを書いていく。
「地域を変えるリーダーとは」を父と考えてみる
「リーダーの心得」と聞くと、WEB上ではいろいろな記事があふれて、本屋に行けば棚いっぱいのビジネス誌が並んでいる。それだけ多くのビジネスマンたちが、自分自身がどのようなリーダーになるべきか日々悩んでいるということだと思う。
どれだけ自分の頭をふってみても私には、人様の参考になるようなリーダー論を語ることはできない。しかし、私だからこそ書けるリーダー論とは何かなと思い、ある日のお昼ごはんに、農業歴50年の父と、田舎でのリーダー論について話し合ってみることにした。
高度経済成長期、農業地域のリーダーの挑戦
私のふるさとは人口6万人の小さな町。この地でずっと農業をやってきた父に「お父さんが考えるリーダーの心得とは?」と問うと、少し考えたあとで、リーダーとは①未来を見据える力 ②人を動かす力 ③決断力 がある人だと答えてくれた。
では、具体的にどんな人がその3つの要素を持っていたリーダーだったのかと聞くと、半世紀前にいた地元の町長さんのことを話してくれた。
時は高度経済成長期。町長さんが就任した当時、私のふるさとの人々はまだ牛や馬でお米を作っていたという。祖母の経験を聞くに、朝6時にお寺の鐘が鳴り、みんなが音と共に田んぼに出ていく。そして馬や牛を使いながら、家々が有する田んぼを耕していたという(日本昔ばなしの世界は、テレビの中ではなく、ふるさとにあった!)。
水田に入り一つずつ植えていくため、人間ひとりで一日に田植えできる量はバスケットボールコート数枚分しかなかったという。今の時代と比較すると、現代の田植え機を使えば5-10分で終わる量を、当時は1日かけて行っていたということになる。
資産を再分配してほしい、そんな協力を一人ひとりに
その現状に対して、当時の町長さんは、(日本と同じく敗戦国だった)ドイツなどでも農地で田植え機などが導入されていることを知る。田植え機を自分たちの町でも導入できれば、多くの町民の時間を占めている田植えの時間を短縮できる。空いた時間ができれば、もっと好きなことをしたり、工場などに働きに出られたりすると考えた。
当時、国が進めていた”農工一体化政策”の考えだった。しかし、その政策には多くのハードルがあった。その一番の難点は、当時の細かく分配されていた農地を、機械が入るくらい大きく整えることだった。
そのためには、町民みんなの農地を出し合って再度整える必要があり、大きな反発があったという。なぜなら当時、地元の百姓にとって農地は”資産”。つまりお金と同等の価値があるものだったので、それを町のためという名目でも、町に差し出して再分配するということには心理的にも抵抗感を持つ人が多かった。
実際に今の自分におきかえてみると、会社の社長から『同僚のために自分の預金を全部引き出してくれ、その上でみんなで売上が上がるように再分配しよう。損はさせないから!』と言われているようなものかなと思うと、心理的にはかなり抵抗感がある。
そんな政策を遂行しようとしたある日、農地を整えるため田んぼに機械を入れようとしたら、その田んぼを先祖代々所有しているおばあちゃんが泣きながら、田んぼの前に座り込み抵抗。町長さんたちはそんな老婆を無理やり引き剥がし強行したという。
町民の説得と反対者への強行突破
町長さんは、そんな改革の日々を10年続けた。
いやぁ〜果てしない!
その結果、私の村は細切れの段々畑から、きれいな直線でつながった大きな田んぼになった。そして、ほとんどの田んぼで農機具が入るようになり、田植えが1/20の速さで終わるようになった。機械で効率化できるおかげで、富山は全国に先駆けて、兼業農家が増えていった(※) 。
富山県は、貯蓄額No.1とか、家がでかいとか、全国平均と比べてお金持ちの県と言われるのは、この兼業農家率が大きく関係している。
つまり、富山を豊かにしてくれたのは、この農地改革を進めてくれた、今は亡き町長さんのおかげであると言える。
※2012年時点で全国兼業農家率70%に対して、富山県は89%以上
(※出典:富山県の農業農村整備の展開方向 / 石川英一/2012年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsidre/82/6/82_471/_pdf
次の世代にわかってもらうぐらいがちょうどいい
この町長さんの話を聞くと、時代が変わっても、リーダーの条件というのは大きく変わらないのだ。町の人を豊かにしようという信念や戦略を持つ一方で、農地にしがみつく老婆を無理やり引き離すなど、悪者にならないといけないシーンもある。
眼下に広がる整った田畑風景を見ながら、私は地域のリーダーの心得は、「次の世代にわかってもらうぐらいがちょうどいい」ではないかと思った。
”富山を所得が高い地域に”という願いで政策を遂行した当時の町長さんは、すでに亡くなっている。彼はこの変化やデータを見ることなく亡くなったが、彼が旗を振ったおかげで、この地域に住む私の父や私達が豊かに暮らせるようになった。
SNSの浸透で、短期間で求められる成果
インターネットが生み出した情報化社会で、私達の生活は、過去類を見ないほどのスピードで変化していく。生活や経済の変化と連動して、人々も素早いアクションと、短期間での成果を求めてしまうのではと思う。
しかし、農業改革を遂行した町長さんは、町に変化を生み出すことに10年、20年かかった。
人々の生活習慣を変化させようとする取り組み
業界に変化を生む取り組み
地域や社会に変化を生む取り組み
これらはSNSでの情報伝達のように素早くできるものではない。
だからこそ、大きな変化を生み出そうとするリーダーは、「今の取り組みが評価されるのは、次の世代だ」そう信じて突き進むことが大切なのかなと思う。
リーダーの心得というものは変わっていない。しかし時代は変化している。WEB記事のPV数や、SNSでの拡散数、就任後数年での成果報告や4年に1回の選挙のための成果報告など、どれも、SNSやメディアが短期間で成果を求めるものばかりだ。しかし、こんな時代になったからこそ、本当の変化が目に見えるには時間がかかると腹をくくる必要がある。
「今の取り組みが評価されるのは、次の世代だ」と信じて、未来のためにやるべきことを突き進みたい。ふるさとの今は亡き町長さんの話を聞いて、そんなことを自分自身に言い聞かせるように考えてみた。
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