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統計は事実への道しるべ。「誰かの価値観を傷付けたり、生活を否定する」ためにあるのではない

「数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う」とは、政治アナリストの伊藤惇夫さんがテレビ番組の中で発した言葉だと言われています。

数字を使って作為的に嘘をつく人もいますが、数字がわからずに、数字そのものを見誤って、結果として悪意なき大嘘をつく人もいます。

最悪なのは、自己の論を正当化するために、あえて都合のいい部分だけを切り取って、それでマウントしようとする輩だと思っています。


こんな記事を見かけました。

結論から言えば、これは正しい事実を伝えたものとは言えません。それについてご説明します。

そもそも「女性の社会進出だけが少子化の元凶」なんて言説を一体誰が流しているんでしょう?仮に、誰かがそんなたわごとを流しているとするならば、その人もまた無知といわざるを得ません。

少子化の原因は決してひとつの要因に帰結するような簡単な問題ではありません。複数ある要因の中には「女性の社会進出」も当然含まれます。データ的には90年代以降の女性就業率の大幅な上昇は確かですし、それに伴って未婚率が正の相関にあることも確かです。しかし、だからといって、それを「女性がは働くと子どもを産まなくなる」という因果に結びつけるから間違うのです。相関と因果は別です。

さて、この記事で主張しているのは、2015年国勢調査における世帯の同居児数のデータをベースに、専業主婦世帯と共働き夫婦世帯とでの子どもの数を比較して、「共働き世帯の方が子どもの数が多い! 共働きの方が子ども産んでいるんだ! 」と結論づけているのですが、正直茫然としました。

案の定、ヤフコメやツイッターではこの記事に対して「共働きが子どもを産んでいるんじゃなくて、子どもができたから働かざるを得なくなったのでは?」という指摘が数多く寄せられていますが、まさにそっちの方が正しい統計の読み取り方です。

記事の中でも使われているこのグラフですが

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これを見て、「日本は専業主婦の2倍以上共働き夫婦が多い」と思ってしまうかもしれませんが、労働力調査の詳細をちゃんと見ている人ならそんな読み方はしません。

第一、ここでいう共働き世帯とは、妻が週一回たった2-3時間だけ働くパートやアルバイトも含む数字です。このグラフ通りなら、共働き世帯は全体の67%を占めることになりますが、労働力調査にてフルタイムで働く妻の割合を見ると、子どものいる夫婦25-34歳では18%、35-44歳でも25%しかありません。つまり、共働きといっても、子育て期間中の場合、全体の2割しかフルタイム働く妻は存在しないということになります。

さて、その上で、専業主婦世帯と共働き世帯とで、子どもの数がどっちが多いかという話になりますが、そもそも専業主婦世帯と共働き世帯とで比較すること自体が無意味なんです。

女性の場合、結婚前から子どもが産まれるまではフルタイムで働く人が多いですが、出産・子育て期間中は育児に専念し、子育てが一段落したらまた仕事に復帰するパターンが多い。つまり、ずっと専業主婦か、ずっと共働きか、という二項で見ることは間違いなのです。

就業構造基本調査には、無業及びパートとそれ以外の就業形態で妻の年齢別分布がわかる資料がありますが、それによれば、子どもがいる妻の場合、以下の通りです。

専業主婦 20代46%→30代38%→40代27%
パート主婦 20代19%→30代26%→40代37%
パート以外の就業主婦 20代36%→30代36%→40代36%

パート以外の就業主婦は、子がいても20代も40代も割合は変わりません。バリバリ働きたい女性は、ほぼ一定数いるということです(これはこれで興味深い結果です)。

注目したいのは、20代で子を産んだ女性の46%が専業主婦であるということです。当然、彼女たちも結婚するまでは仕事をしていました。子どもができから専業主婦になったに過ぎません。

一方で、パートの比率を見ると、年代ごとに上昇し、40代で4割近くになります。これは、子育て期間が終わって、ようやく働きに出かれられる体制になったからとも考えられます。

そもそも、元記事で使っている同居児数のデータは、年代別に分かれていませんが、それを見れば一目瞭然。20代より40代の方が子どもの数が多いに決まっています。平均初婚年齢30歳の昨今、20代ではせいぜい1人目の子を産むのが精いっぱいでしょう。

こういうことを鑑みれば、共働き世帯の方が子どもの数が多く見えるのは当たり前です。決して共働き夫婦が子どもをたくさん産んでいるわけではなく、「子どもを産んだから、手がかからなくなった時期からパートなどに出て家計を助けないと子どもを大学とかに進学させられない」というのが事実です。

要するに、「共働きの方が子どもを多く産むのではなく、子どもが多く産まれたから共働きになった」と考えるのが妥当なのです。

この記事の結論は、「専業主婦世帯が多数派という伝統的な労働体制の企業が多いが、少子化対策しようとするなら、そうした企業による男性のライフデザイン改革が必要だ」と結んでいるのですが、いやはや。

前述した通り、子育て期間中は育児に専業したいと希望しているお母さんは書くなくありません。子を産んだお母さんは事実末子0歳児で61%、1歳で52%、2歳で46%の母親が育児に専念しています。

末子年齢妻無業率

それって、やむをえずせざるを得ないという場合もあるでしょうが、嫌なのに、国や企業や夫から強制的に押し付けられたことというわけでもないてじょう。自ら希望して子どもを自分の手で育てたいというお母さんだったたくさんいます。そもそも、夫婦間で役割分担を決めたことなら他人がとやかく言うことではない。

むしろ、課題は「子どもが小さいころは思う存分子育てに専業したとしても、またハンデなく社会復帰できるシステムの構築」の方です。

そもそも、結論として企業のおじさんが悪いという言い方をしつつも、この記事の文面から醸し出される「専業主婦は悪」みたいなニュアンスが僕はとても不快に感じました。

誇りと喜びをもって専業主婦をしている女性はたくさんいます。むしろ僕は、パートライフ専業主婦(専業主夫でもいい)=人生のある一定期間専業主婦をやったとしても、継続的キャリアの人達となんら変わらない復職の機会が与えられる制度があるべきだと思います。

ちなみに、この筆者は、かつて親元に住み続ける未婚男性を「子ども部屋おじさん」と揶揄して炎上したことがある方です。

炎上したのはこの記事

それに対して僕が書いたのはこの記事

フラットな視点で読んでいただければ、どちらの考察が現実を伝えているかはおわかりになると思います。


勿論、どなたであろうと、その人なりの言説を唱える自由はありますし、ご自由にどうぞと思います。言説自体は否定しません。が、統計の読み違いによって間違った情報が伝わるのは我慢できません。

統計とはファクトへ導く道しるべであるべきで、看板が意思をもって旅人を誘導しちゃいけないし、あまつさえ、看板が旅人を殴ったりするものではない。といいつつ、統計で人を殴ったり、マウントする人多いよね。

そして、何より言いたのはこれ。親元未婚であろうが、専業主婦であろうが、個人の価値観に基づく生活を「少子化の元凶」であるかのごとく非難したり、否定する権利など誰にもない。そう思います。誰かを悪者にして、足蹴にして傷つけなきゃ解決できない少子化なら、そんなもの解決しなくてもいいと思います。


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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。