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おみくじは科学的である

おみくじや占いは非科学的なものだと思われている。

おみくじや占いで、あなたの未来を予測できるか、という問いの答えは、明らかに否である。そして、もしこれを肯定する主張があれば、明らかに非科学的な主張だ。

でも、正直いうと、私は、神社にいっておみくじを引くのは決して嫌いではない。いや、それどころか、むしろ好きである。

なぜなら、これまでも人生が苦しい時に、おみくじの言葉が助けになったことが何度かあるからだ。これはどう考えればよいのだろうか。

私は、いろいろな実験と考察の結果、おみくじは未来を予測はしないが、それとは別の科学的な意味があると考えるようになった。

実は最近、PNASという米国の一流科学誌に重要な論文が出た。

大量のコホート(継続的な追跡調査)データを使って、オプティミズム(楽観性)が長寿(特に85才以上の長寿)に強い影響をもたらすことを検証したのである。オプティミズムがあるかどうかで、なんと10%以上の寿命の差になるという。しかも健康状態や社会的地位などのそれ以外の交絡因子の影響を取り除いた結果である。

オプティミズムは、心理学や組織行動の分野でこれまでも研究が行われてきた概念であり、尺度である。置かれた状況を前向きに捉える力を示しており、オプティミズムが高いというのは、状況を前向きなストーリーで捉えるスキルを持っているということである。

我々を取り巻く状況は、どこに注目して見るかで、全く異なって見える。その意味で客観的な状況などはそもそも存在しない。我々がどこに着目し、どのようなストーリーをつくるか次第なのだ。

しかも、オプティミズムは、性格的なものでなく、訓練可能で向上可能であることがこれまでの研究で実証されている。

従って、我々の寿命は、オプティミズムの訓練によって向上可能ということである。これは身体運動をしたり、喫煙やアルコール摂取など制限したりというのとは独立に影響を与えることが先の論文で示されたのだ。

ここでおみくじの話に戻る。

おみくじには、人が偏った見方にとらわれ、状況の見方の柔軟性が低下した状態になっている時(即ち、オプティミズムが低下している状態になっている時)、ものの見方を柔軟にする効果がある。いわば、おみくじとは、オプティミズムを高める「心の柔軟体操」と考えられるのである。

このように考えると、これまでの人生の中で、おみくじが私をなぜ助けてくれたかが見事に説明できる。

宗教として捉えられてきた禅の瞑想が、科学的な見方で「マインドフルネス」として現代的な意味を見出したように、非科学的なものと捉えられてきた「おみくじ」が、科学的なオプティミズムの訓練法として、現代的な意義を見出すのではないかと思うのである。

オプティミズムは、幸せやウエルビーイングの中核となる要因である。組織の生産性や創造性、さらには、あなたの寿命にも強い影響を持つ可能性が高いのである。


具体的なオプティミズムを高める方法については、拙著『予測不能の時代』第8章により詳しく記載したので是非ご笑覧ください。


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