「AIはファシリテーターになれるのか?」について本気出して考えてみた
Potage代表 コミュニティ・アクセラレーター河原あずさです。ファシリテーションスキルをいかして個人や組織のコミュニケーションをデザインするお手伝いをしています。
また、実践から独自に体系化した理論を元に「THE MODERATORS &FACILITATORS」というオンラインスクールで、のべ100名以上の方にステージの進行やファシリテーションを教えています。(現在、2月開講クラスの受講生を6名限定で募集しています!ご興味ありましたらぜひ!)
さて今日は「AIとファシリテーション」の関係性について考えてみたいと思います。
昨今、AIテクノロジーの進化の話題が世間を賑わせています。最も話題になったのは「画像生成AI」でしょうか。あるお題を出すと、的確にAIが描写をしてアウトプットするというもので、SNSを中心に大きな話題を呼びました。
質問を入力すると自然な会話のようにAIが返してくれる「ChatGPT」も話題になっています。哲学的な回答から、プログラムのソースコードまで、あらゆるジャンルの回答をAIが瞬時に出すということで、かなりのインパクトを世間に与えています。
そのような世の中の変化により「AIにとって代わられる仕事はなんなのか」という話題も頻発するようになりました。当媒体「日経COMEMO」でも「#AIに奪われない仕事とは」というお題が出て、識者の皆様が数多くの論考を寄稿しています。
実際に、単調なオペレーションや、膨大な情報量のデーターベースの中から適切なものをチョイスして並べていくプロセスに関して言うと、人間よりもコンピューターの方がよっぽど優れているわけで、そのような要素を含むプロセスは、AIにどんどん取って代わられるだろうと言われています。
そういう時代にあって、僕の中でこのような疑問がふと浮かびました。「AIはファシリテーターになれるのかな?」
考察① AIはファシリテーションの進行デザインができるのか?
「AIはファシリテーターになれるのか?」という問いについて、みなさんはどう思われるでしょうか?
こういう命題があると、特に活躍しているファシリテーターの皆様は、「いや、そんなわけはない。ファシリテーションというものは、五感を駆使してやるものであり、人間的な思考や、その場の気の利いた判断など、複雑な情報処理が要求される。これはAIでは肩代わりできないはずだ」という回答をされる傾向がある気がします。ファシリテーションに興味のあるみなさんも、そのような回答を期待すると思うわけです。
ですが、僕はあえて、この答えに関して「そうなのかな?」という疑問を
呈したいのです。
僕がみる限り、どのようなファシリテーターの方も、一定のパターンの上にのっかって、ワークショップや対話の設計を行っています。
ちょうど先日、クライアントからの相談でワークショップの設計をすることになり、クライアントと打合せをしていました。その時に僕はまず、先方に、与えられる時間、つまり「尺」について聞きます。この尺が、90分なのか、60分なのか、半日なのかで、やれることはまったく変わるからです。
その後に聞くのは「人数」です。トータルの人数から、だいたい何グループつくられるのかを計算します。それから聞くのが「期待するアウトプットのゴール」です。持ち時間と人数規模を考えると、自然と、期待できるアウトプットの粒度は見えてきます。制約条件による影響を伝えながら、その粒度のイメージをすり合わせて、合意形成をつくるのです。
アウトプットイメージがクライアントなどの利害関係者と合意できれば、後は逆算でプロセスを考えていきます。制約条件から逆算すると、どのようなワークをどう組み合わせるかの最適解は、自分の引き出しをあけて並べてみると、おのずと見えてくるものなのです。
この流れをみて分かるのが、すべての判断が「Aという条件に応じて、最適と思われるBという選択をしている」ということです。その組み合わせで、ワークショップのデザインはある程度成立します。そして、この「ある条件から最適解をはじき出す」というのは、実はAIが最も得意としていることの1つなのです。
そう考えると、このような結論が生まれます。「少なくても、ワークショップのデザインに関しては、AIでも十分に実行できるはず」
考察② AIは適切にアドリブを産み出せるのか
このような見解をぶつけたときに、ファシリテーションをやられている方が出す反論はこのようなものかもしれません。「いやいや、設計通りにいかないのがワークショップや対話だ。大事なのは現場での臨機応変さであり、それはAIではなかなか難しいのではないか」
なるほど。それはその通りな気がします。この反論についても、ちょっと深掘りして考えてみることにしましょう。
確かに、僕がワークショップをやる際も、ステージを進行する際も、用意したものをそのままやることはむしろ稀です。むしろ、用意したものをいかに状況にあわせ勇気をもって捨てて、臨機応変に判断して、その時その時で最適なガイドをしていくかが、プロのスキルとしても大事だったりします。その重要性について疑う余地はありません。要は「アドリブ超大事」というお話です。
それは本当にその通りなのですが、果たして、AIがアドリブをつくれないかというと、そんなこともない気がするのです。アドリブにだって、一定のパターンがきちんと存在します。アドリブとは要するに「ある条件」を満たしたときに、Aと決めていたプロセスをあえてちょっとはずして「A´(エーダッシュ)」というプロセスに変えることなわけで、そこのはずしかたのパターンさえ習得すれば、意外とアドリブもAIがつくれちゃう気がするのです。
しかし、AIが精度高いアドリブをする際に、課題は存在すると考えています。それが「インプットの精度」です。
根拠となるのが、5年くらい前にある方と飲み屋で話した雑談です。そのお相手は、後に「心理的安全性のつくりかた」という本を大ヒットさせた石井遼介さんでした。
石井さんは、当時はシンガポールに住んでいた、脳科学の研究者です。たまたま知人に「面白い人がいるから」と招かれた飲み会の個室で、隣の席になったのが、石井さんとの初対面でした。(コロナ前は本当にこういう偶然な楽しい出逢いがたくさんありましたね…)
その時に2人で盛り上がったのが「脳とAI」の話でした。その時、僕は石井さんにまさにこう聞いたのです。「AIって、ファシリテーターになることができると思いますか?」
その時に石井さんがおっしゃっていたのは(おぼろげな記憶をたどると)このようなことでした。
「確かに「こういう条件でこういう発言をする」というアウトプットはできるはず。ただし、実はより大事になるのは、インプットから状況を判断する能力だと思う」
確かに、ファシリテーターは現場の状況を実際目で見て、耳で聞いて、脳で考えて「今はこういう状況である」と判断しています。つまり、数多くの入力情報から取捨選択をしつつ、それを混ぜ合わせながら、どんなアウトプットが適切かを判断しているのです。
例えば「進行が最適に進んでいるのかそうでないのか」「想定通りなのか想定外なのか。想定外の場合は、いい想定外なのか悪い想定外なのか」を、今目の前の状況から瞬時に判断して、適切なアクションを次のプロセスとして提示しているのです。
AIは、単純な条件分岐をとても得意にしています。しかし、抽象化された情報の処理は比較的苦手な傾向があるように見えます。抽象化された情報とは「判断のパラメーターが無数に存在している」情報のことです。この抽象化された情報の処理に関して言うと、人間の脳みそは、現時点でいえば、かなりの優位性を持っているのです。
そして、抽象化された情報の中でも最もハイレベルなものが「不確実性の高い未来に起きることを予測する力」です。熟練のファシリテーターほど「なんとなくこの先こうなる気がする(なぜなら今こういうことが起きているから)」という第六感のようなものが高精度で働くのですが、それはこの「無数の入力情報を抽象化した上で実施している未来予測」による効果なのではないかと個人的には考えています。
人間の脳の力はまだまだ研究段階でもあり、まだ解明されていない部分も多々あります。その未解明部分の多くはこの「抽象化」であったり、いわゆる右脳的な「第六感」「インスピレーション」「創造性」の部分です。この領域を駆使したファシリテーションに関しては、現時点の技術をもとに考えるなら、まだまだ人間側に軍配が上がりそうです。
(※この記事全般そうなのですが、AIについては専門ではないので、もし技術面等々の観点でツッコミがある場合はご容赦下さい…!)
考察③ AIが人間を上回るファシリテーションの領域があるとすれば
ただし、条件付きで「AIがファシリテーターができそうな領域はある」と個人的には思っています。それが「オンラインでのワークショップやトークの進行」です。
先ほどの章では「無数の入力情報の処理がまだ難しい」というAIの特徴から、人間ファシリテーターの優位性を語りましたが、この「入力情報が限定される状況」においては、両者の力は拮抗するのではないでしょうか。
そう考えると、オンラインでのコミュニケーションにおいては、入力情報がかなり限定されます。オンライン環境においては、現時点でみれば、ファシリテーターは、主に目と耳からくる情報だけで状況を判断します。いわゆる「空気」から状況を把握することがかなり困難になります。
特にオンラインのコミュニケーションにおける入力情報で優位になるのが「視覚」です。スクリーンの表情から「察する」という営みが必要になるわけですが、基本的には入ってくるメインの情報は「対象の顔が、ポジティブな表情か、ネガティブな表情か」というシンプルなものにならざるをえません。
この「表情のポジネガの判定」は、実は今のAIでも相応の精度で実現できます。例えば、世界的に評価を受けている日本のスタートアップ「I’mbesideyou」の持つテクノロジーがそれに該当します。
I'mbesideyouのAIはZoomなどのオンライン会議ツールと連携し、表情や音声から参加者のコンディションを可視化します。試していないのでどの程度の精度なのかは個人的にはわからない部分は正直ありますが、Zoomのスクリーンで全員の表情を拾えないことを考えると、人間のファシリテーターよりも、よっぽど高精度の判断ができている可能性はあります。(仮に現時点ではできていないとしても、今後実現する可能性はかなり高いと個人的には見ています)
そうなると、オンライン会議ツール等から得られた入力情報から参加者の没入度を判断して、その数値に応じて用意していたプロセスAとちょっとずらした「A’(エーダッシュ)」を出力することは十分に今の技術レベルでも可能な気がしています。(I'm beside you社がそういうことを考えていてもおかしくないですね。今度、この領域についてお話してみたいなあ…)
まとめの考察 人間にしかできないファシリテーションって?
というわけで今回は「AIはファシリテーターになれるのか?」というお題をたてていろいろ考えてみました。いかがだったでしょうか。
ここまで考えてみると、最後には「人間のファシリテーターとして、自分にできることは何だろうか」という命題につきあたります。このヒントになると個人的に思うのが「アンラーニング」です。
アンラーニングという言葉には様々な概念が含まれますが、ざっくり乱暴に要約すると「成功パターンを固定観念を見直し、パターンを解除した上で、行動を変えるプロセス」ということが言えると僕は解釈しています。
この「アンラーニング」を繰り返しながら、自分自身や参加者の方々の思考のかき混ぜ方を熟知し、あえてパターンを外したり、あえて「意図を放棄して状況にゆだねていく」アプローチをとったりする実験の連続が鍵になる気がしているのです。
AIが得意なのは「パターンを選択して再現すること」です。しかし、将棋でAIと人間が対決する際、人間側が「パターン外し」に挑むことで勝利している事例もあります。過去のパターンにない手を打つことは、AIには不可能でありご法度なのです。この「新しい打ち手の発明」こそが、人間が今後になっていくべき、価値創造のあり方ではないでしょうか。
いったいどういう研究をしていけばそこに至れるのか。そこをいかに研究できて形にできるかは、今後の僕の修行次第なのですが、パターンにはまらない価値創造のために、自分にしかできない実験を繰り返して「人や組織の在り方を促進する」というファシリテーターとしての存在意義を深めていければと考えています。
もし一緒に探究したい方いらっしゃいましたら、THE MODERATORS &FACILITATORSの門戸をぜひ叩いてみてください!一緒に語らいましょう。
※当記事は、高柳謙さんが毎年主宰されているファシリテータアドベントカレンダーの1記事として寄稿しました。毎年ファシリテーションについて考える貴重な機会をありがとうございます!他の記事も面白いので、ぜひチェック下さい!
※編集協力 横田真弓(THE MODERATORS & FACILITATORS受講生)