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パンデミック最前線で働くギグワーカーの報酬システム

新型コロナウイルスの感染拡大により、米国でも食料品や日用品の買い溜めをする消費者が増えている。それに伴い、需要が急増しているのが、「オンデマンドワーカー」や「ギグワーカー」と呼ばれる、フリーランスの労働力である。こんな時期には、誰でも働きたくないものだが、変動する報酬レートとのバランスにより、必要な労働力がギグエコノミーの中から調達されているのだ。

米ニューヨーク市は、地下鉄の利用を控えることを市民に呼びかけているため、通勤時間帯にUberやLyftの利用客が急増している。両社のライドシェアサービスは、需給のバランスによって変動する料金体系を導入しているため、通常は25ドルで済む区間の運賃が40ドル前後にまで上昇する事態が起きている。

これは、ライドシェアドライバーにとっては「稼げるチャンス」を意味している。 しかし、この時期の仕事は感染リスクがあるのも事実であり、UberはCOVIT-19に感染した乗客と濃厚接触したドライバーのアカウントを一時的に停止する措置を取る一方、休業中の収入を最大14日間まで補償することを発表している。

Coronavirus (COVID-19) Resources & Updates(Uber)

食品買い物代行サービスのInstacart(インスタカート)でも、配達員の安全対策として、注文者とは直接接触せずに、玄関ドア越しに商品の受け渡しを行う「Leave at my Door Delivery」の選択肢を設けることや、配達員に感染の疑いが生じたり、感染が確定して隔離される期間中の収入補償(最大14日間)を約束している。

New Guidelines and Policies(Instacart)

Instacartのビジネスは、米国各地域のスーパーマーケットと提携して、ショッパーと呼ばれる配達員がオンライン注文された食料品を買い物代行して宅配するシステムだが、COVIT-19の感染が拡大する地域では、新規の会員登録をする消費者が前年比で20倍以上に増えている。

Instacartの配達員(ショッパー)に対する報酬体系は、1回の配達距離によって算定される基本料金と、配達する商品数や重量によって設定されるバッチインセンティブ、繁忙期のブースト料金が加算される仕組みになっている。それと顧客の裁量で支払われるチップの合計額が、配達1回あたりの報酬額になる。※チップは全額、配達員の取り分になる。

ショッパー向けのアプリ上では、それらの報酬条件が公開されており、希望の注文案件を落札する方式だ。そのためショッパーにとっては、インセンティブとチップが高い案件ほど「割の良い仕事」になる。

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Instacartショッパーの配達報酬は、1件あたり10~20ドルが標準額になっているが、パンデミックの中でも同じ報酬額で働きたいと考える者は少ない。そのため2020年3月以降は、顧客が設定するチップ相場が上昇する傾向にあり、1回の配達(74品目)で、186ドルのチップが支払われたケースもSNS上で報告されている。特に、米国のスーパーでも品不足になっている、マスク、トイレットペーパー、ミネラルウォーターなどの買い物代行に対するチップ相場が高い。

Instacartのアプリ上では、注文者が買い物代金に対してゼロから20%以上までのチップ支払いを選択できるようにしている(標準設定は5%)が、ショッパーは、自分の健康を危険に晒して配達サービスをしているわけで、チップが低い配達案件に対してはボイコットをする動きも出てきている。

米国内には、UberやInstacartのようなギグエコノミー圏の仕事を第一の収入源にするワーカーが、労働人口の1割近くいると見られている。彼らは個人事業主の立場となるため、労災補償の資格を持つことなく、パンデミックの最前線で働いている。感染リスクのある中でも、働くか、働かないかの判断は、自分の裁量に任されており、報酬条件の変動によって需給のバランスが調節されている。

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