あれオレがたくさんいると褒められる?
新しい本を書いていたら気付いた!
NewsPicksの金泉さんと中島さんに唆されて本を書いた。題して『あたりまえのつくり方 ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書』(タイトル長いぞ!)。
働き方改革とか、二拠点生活とか、ソバーキュリアスとか、朝活とか今までの価値観とは違う新しいあたりまえが世の中に普及していくときのPRパーソンの働きについて書いていたら、ベーシックなPRの思考法をしっかり説明する本になってしまいました。そんなわけで、この本は多くの人に読んでくれたら嬉しいなと思っています。
この本を書いていて思ったことはPRは「あれオレ」がたくさん出没すると褒められる仕事なんだなということです。
広告の人はあれオレが嫌い?
広告業界の人ってしばしば「あれオレ詐欺」を話題にしますよね。もちろん、広告は一人で作れるわけではないので、ある仕事について「あれはオレが手掛けたんだ」とか、「あれはおれが関わったんだ」と何人もの人が口にするわけです。でも広告業界はアイデアを考えたヤツが偉い!という価値観が大事にされる世界ですから、ちょっとだけ関わった人が「あの仕事をした」なんていうと詐欺だ!と言われてしまうわけです。
あれオレがたくさんいるとハッピーだ!
僕はそんな話をする人を見るといつも「あれオレがやったんだ」っていう人がたくさんいる方がいいのになあとと思っていたんです。みんながいい仕事をやったと思えているなんて、なんて幸せなんだろうと。で、この本を書いているときに気づいたんです。そうか、PRパーソンは「あれオレ」が大量発生することを目指して仕事をしているから自分はそういうふうに感じてしまうんだって。
PRの仕事は今まで世の中になかった概念やアイデアを普及させる仕事です。しかも、対話を通じて、第三者にその考え方を支持してもらったり、その考え方に基づく行動をおこしてもらうんです。前にも書きましたが、自分でやったほうが手っ取り早いのに、他人様にわざわざ「このアイデアいいと思いませんか?」と聞きに行く仕事なんです。面倒くさい仕事なわけですが、自分がそのアイデアを自ら実践するより、影響力のある第三者がその気になってそのアイデアを広めてくれたり、そのアイデアに基づく行動をしてくれたとしたら、それはものすごいレバレッジになるわけです。
新しいあたりまえの普及を進める仕事をするPRパーソンのもう一つの特徴はマルチステークホルダーと対話をすること。世間的にはPRパーソンは記者やテレビのディレクター、プロデューサーに会いに行ってパブリシティをお願いしているイメージですが、Public Relationsの最後に複数形のsがついているのが重要で、様々な利害関係を持つ複数のステークホルダーと対話をするのが本来の仕事なわけです。企業でいえば、監督官庁とか地域住民とかアカデミアの世界の学者とかビジネスをしていくうえで関係するプレイヤーは幅広く存在するわけです。
いろんな人と対話するからあたりまえができる
でも、マルチステークホルダーと対話を進めるPRのパーソンだからこそ新しいあたりまえの普及に貢献できるんです。男性の育児参加という新しいあたりまえを推進したいPRパーソンは誰に会いにいくでしょうか?
もちろん、新聞記者に会って、育児参加する男性を取り上げた記事を書いてほしいと依頼したり、ニュース番組のディレクターに男性の育児事情をテーマにしてもらったり、情報番組に子育て中の男性タレントをブッキングすることをお願いしたりするでしょう。
でも、まだまだ対話をする相手はたくさんいます。
企業の人事や総務をたずねて、男性の育児休暇取得インセンティブなど男性の育児参加を促進する社内制度をつくることをお願いするかもしれません。
ショッピングモールを訪ねて施設のブランディングのためにも男性トイレにこどものオムツ替えコーナーを作ってもうら交渉をするかもしれません。
ベビーカーのメーカーを訪ねてパパが好きなデザインのベビーカーの開発を呼びかけるかもしれません。
星座のようにあたりまえは生まれる
新しいあたりまえはある日突然生まれるわけではありません。男性は働いて、女性が子育てをするという昭和の常識はなにかおかしい。多くの人がモヤモヤしている中、立場がまったく異なる人達が、まったく違う持ち場で今までのあたりまえでは考えられなかった行動を起こし始めるわけです。そんなファーストペンギンたちの新しい価値観を体現する動きや発言が、星と星を結びつけるようにグルーピングされ「イクメン」という星座として認識されていくのです。その役割をメディアが果たします。星座は新しい「社会記号」に、そしてあらたな「あたりまえ」になっていくのです。
そう、PRパーソンがマルチステークホルダーに働きかけることによって、社会のあちこちで同じ価値観を目指した行動が同時多発的に発生するのです。その合意形成の積み重ねがあたらいいあたりまえを生んでいくんです。
そしてファーストペンギンたち、みんなが男性育児参加を推進したのは「あれオレ」を名乗る資格があるんですよね。新しい「あたりまえ」を浸透させるには「あれオレ」がたくさん発生したほうがいいんですね。