睡眠負債を解消する自己投資と睡眠インセンティブの報酬制度
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、不眠症に悩んでいる人の割合は、国民全体の2割とみられている。健康面からすれば1日7時間以上の睡眠が必要と言われるが、20~50代の現役世代で1日6時間未満の睡眠しか取れていない人は5割近くになる。過去10年間の平均睡眠時間をみても、現代人の寝不足は顕著に進行している。
睡眠時間が短くなれば、心臓病や高血圧など様々な病気を誘発するリスクが高まることは知られているが、睡眠と貧富の格差にも因果関係がある。英国のベッド業界による研究団体、睡眠評議会(The Sleep Council)の調査によると、年収65,000ポンド(約980万円)以上を稼ぐ人の中では、質の高い睡眠を取っている割合が高い。逆に、年収 15,000ポンド(約226万円)以下の低所得層では、深夜の飲酒やテレビを見ていて睡眠時間が短くなる傾向がある。
そのため「忙しい人ほど睡眠時間が短い」と考えるのは間違いで、仕事の能率を高めるためにも、睡眠は重要であることを理解して、生活習慣やワークスタイルの改善、就寝環境への自己投資を行っている。職場から近いエリアにマイホームを取得したり、熟睡できるベッドにお金をかけるのも、睡眠への自己投資といえる。
■The Great British Bedtime Report(PDF)
企業にとっても、従業員の睡眠不足は、業務中の事故やパフォーマンスの低下に直結するため、何らかの対策を講じる必要がある。しかし、自宅での睡眠時間を会社が強制するわけにはいかないため、自発的な睡眠習慣の改善を促す「睡眠インセンティブ」の報酬制度が考案されている。
米医療保険会社の Aetna(エトナ)では、1日7時間以上の睡眠がとれた日が20日蓄積されると25ドルの“睡眠ボーナス”を与える制度を導入しており、それを年間で12回(240日)達成すれば、最大300ドルを支給する制度を2014年から実施している。睡眠データの把握については、「Fitbit」や「Apple Watch 」などスマートウォッチのスリープトラッキング機能が使われている。
スマートウォッチを装着して寝ると、就寝と起床の時刻と眠りの深さまでを記録することができるため、「昨夜は何時間寝たか」というデータも、客観的に把握できるようになる。そのデータに基づいた睡眠ボーナスを与える企業は、 Aetnaの他にも増えてきている。
社員向け健康対策としては、スポーツジムの法人加入などに予算を投じている会社は多いが、睡眠不足が続く睡眠習慣の改善は、生活習慣病やうつ病などのリスクを減らして医療費の負担を軽減できることと、仕事のパフォーマンスを高められる両方のメリットがある。睡眠インセンティブは、それを実現する手法としてわかりやすい。ただし、会社が社員の睡眠時間を常時トラッキングすることは、個人のプライバシーを侵害する恐れもあるため、社員にプレッシャーやストレスを与えずに、睡眠時間を把握する方法が模索されている。
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