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市場は見たいものしか見ない~大統領選に透ける「株の債券化」~

既報の通り、大統領選挙は史上稀に見る接戦となっています。本稿執筆時点ではバイデン勝利の可能性が高そうですが、それを認めないトランプ大統領が結果確定を遅延させるという想定された中では最低最悪のコースを走っているように見えます:

しかし、金融市場の混乱は軽微・・・というよりも、選挙前後で大して動きを変えていないようにすら見えます。開票序盤、トランプの猛追が報じられサプライズ勝利が報じられた時も、株は一貫して上がりました。金利は当初騰勢を強めましたが、「やっぱりバイデン勝利か」という既定路線への思いが強まる中、金利は再び低下に転じています。為替、ここではドル円としますが、米金利が上がった時は円安、下がった時は円高と分かりやすい動きになりました。もちろん、株も先物の動きまで含めれば、相応に大きな値幅を伴った上下動はあったように見えますが、総じて、高止まりという印象です。また、今後もそうなると思っている市場参加者は多いようです:

正直、色々な解説が錯綜していますので、米大統領選と資産価格の値動きを結び付けて何らかの解釈を披露するのはまだ控えた方が良いと思います。そもそも選挙前、バイデントレードとは大統領に限らず議会も含めて民主党色が支配する中、拡張財政路線が色濃くなり米金利は上昇するものの、その結果として景気循環には追い風であり株高であると言われてきました。この際、為替(ドル)の値動きは基本的に低位安定してきました。拡張財政に伴う「ドルの過剰感」がドル安の背景という解釈でしょうか(もちろん後講釈です)。つまり、選挙前、バイデントレードとは「株高・米金利高・ドル安」を指しており、特に為替市場ではこれまでトランプと相性が悪かった通貨(代表的には人民元)が買われるのとの思惑が強くなっていました。このあたりは大統領選挙前、過去のnoteでも議論させて頂きました:

しかし、金融市場の解釈はいつだって刹那的です。最新の市況報道を見てみましょう:

記事冒頭では「金融市場では、民主党候補のバイデン氏が大統領選で勝利する一方で、上院は共和党が過半数を占める「ねじれ」になるとの見方が多い。米国の政策が一気に民主党寄りに急変するリスクは下がり、株高の環境が続くとの安心感が広がっている。」とあります。上述しましたが、そもそもバイデン民主党政権は拡張財政主導で株も金利も高くなるという話だったのではないでしょうか。ここで言う「民主党寄りに急変するリスクは下がり」というのは恐らくバイデン氏に元々まとわりついていた「増税派」としての不安を指しているのだと思いますが、筆者も含め、選挙前に増税リスクを念頭に株高に警戒を示していた向きからすると、「もともと増税の心配なんて市場はしていなかったではないか、と思ってしまいます。結局、「どちらにしても株を買いたいだけではないか」と感じます

定期的にインカムを産むアセットは株だけ
「結局、どちらにしても株を買いたいだけではないか」というフレーズに対しては、敢えて、「そうである」と言って良いでしょう。大統領が誰になろうと、またブレグジットがノーディールになろうと、東京五輪が中止になろうと、もはや国際金融市場における悲惨な低金利環境は直ぐに変わりようがありません。現状、FRBの利上げは最速でも2024年以降を展望する状況にあり、直ぐに債券利回りが戻ってくる雰囲気はありません。過去数年言われていることですが、「定期的にインカムを産むアセットは株だけ」という事実は重く、裁量的なマクロ経済政策(財政・金融政策)により野に放たれた過剰流動性は株を(配当利回りという目線から)債券として買わざるを得ない状況が続くのではないかと推測します。「株の債券化」はコロナ以前からあったフレーズですが、今回の政治混乱を経ても動揺せずに株が買い求められているのを見て、さらにそのフレーズのパワーを感じたところです。
 もちろん、バイデンが勝とうと「トランプ人気は根強かった」という事実は明確に残りましたので、方々で論評されるように米国という超大国が分断化されていることが改めて確認されたということもできます。また、バイデン大統領になったからと言って、漏れ伝わってくるワシントンの雰囲気からは親中路線のアクセルを踏むような印象を受けません。とすると、バイデントレードの一環として買われてきた人民元なども揺り戻し対象資産として今後、マークしておきたい通貨です。その期待は現在、かなり一方的にも見えます:


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