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石破新政権に対する所感~希望か、失望か~

石破政権、経済政策に疎いのか?
9月27日の自民党総裁選挙を経て石破茂氏が第28代総裁に選出されました:

周知の通り、現時点で金融市場の評価は非常に手厳しいもの(大幅な円高・株安)になっています。ただ、これは高市氏への当選期待で積み上がっていた円売り・株買いのポジションが現実を見て巻き戻されている側面も大きいため、その意味で石破ショックでもあり、高市ショックでもあると表現するのがフェアだと思います。経済政策に疎いと呼ばれる評価に関し、石破氏は「私にいろいろ至らぬ点があるからだ」と述べています。ご自身で述べるくらいですから相応に事実なのかもしれませんが、そうであればこそ財務・経産などの閣僚に誰を据えるかが重要であり、まずはその人選が注目されます。現時点では色々、観測報道も出ているようですが、確定事項ではないので、ここでは噂話は控えたいと思います:

少し個人的なお話をしますと、筆者は2022年3月、石破総裁率いる水月会で講演を依頼されたことがあります。2022年3月と言えば、今次円安局面の起点となった時期です。その時点でパンデミックや戦争を受けた円相場の構造変化などについて関心を寄せる政治家は決して多数派ではありませんでした。現時点の経済・金融関連の知見に乏しい部分があるとしても、広くアンテナを張る政策姿勢には期待しても良い(?)のかもしれません。側近であった赤澤亮正議員(現・財務副大臣)を含め、極めて紳士的な対応をしてくださったことはよく覚えております。

現時点の悲観一色は尚早
現時点で財政・金融政策に対する憂いは現時点で相応に払拭されているようにも見えます。27日、テレビ東京「WBS」に出演した石破総裁は「必要であれば財政出動する。金融緩和基調は基本的に変えることはしない」、「日銀が政府の子会社だとは思っていない。連携を密にしながら、それぞれが適切な判断をしていく」と述べています:

経緯は分かりかねますが、最初の出演番組として「WBS」を選んだ辺り、経済に弱いとされる自身への評判を慮った部分もおありなのかも?と邪推したりもしました。

海外市場を中心として石破総裁誕生を受けて日銀による10月利上げの確度を高く見積もろうとする向きが目立ち始めているようです。ポイントレスだと思います。そもそも円高になればなるほど7月利上げ時点で示したロジック(円安を背景としたインフレリスクの高まり)は弱まるわけですから、高市氏で円相場が急落した状態よりもよほど日銀にとっては「時間的余裕がある(植田総裁)」と言えるでしょう。

現状の日本では「円安の修正」は「実質所得環境の改 善」に直結する話であり、それはもちろん「実質個人消費の改善」に繋がる話です。所得や消費の名実格差はあまりにも露骨なものになっていることから、この点は真摯に考えるべき事象です:

日銀へのタカ派姿勢を支持することはごく短期的にはアンチ経済成長のようなイメージが抱かれやすい一方、中長期的に見れば、円安修正が家計部門の消費・投資意欲を助ける側面は無視できません

もちろん、「だから高市氏ではなく石破氏で良かった」という安易な話をするつもりは毛頭ありません。ただ、「高市氏だったら万事解決だった」というような極論はアベノミクスから何も学んでいない暴論だとも思います。敵(今回は石破総裁)憎しで、対抗馬を極端に正当化するのは建設的ではないと考えます。

少なくとも、日銀の独立性を半ば蹂躙して緩和路線を持続させるという社会実験はもう10年間実施したわけですから違うアプローチを検討するのはおかしなことではないでしょう。事実、インフレ期待は押し上げられつつあるわけですから「金利のある世界」への回帰は志向されて良いでしょうし、見方次第ではアベノミクスの成果と(考えたければ)考えれば良いと思います。

また、石破総裁は「貯蓄から投資の流れをもっと加速していかなければならない」との考えも示している。「1億円の壁」問題についての情報発信が続けられる懸念はあるが、総裁選の最中でにわかに争点化した金融所得課税については距離を取る公算が大きいようにも見えます。今や日本家計部門における資産効果は恐らく石破総裁が考えるよりも大きなものになっています。この点を新閣僚や今後選ばれるであろうブレーン達が上手くプレゼンできるのかは注目したいところです。

いずれにせよ、現時点では得られる情報が少なすぎるので確たることは何も言えません。が、「高市氏ではなく石破氏だから全て終わり」のような悲観論はあまりにも直情的な側面が大きいと(今は)感じます

中長期的に不安なリフレ思想再燃
筆者が不安視するのはポスト石破後の政治・経済を見通した場合の懸念です。今回は通貨・金融政策に対してタカ派的な姿勢で知られる石破総裁が誕生したため、その懸念は小さそうですが、高市氏が接戦を演じたことの意味は軽視できない部分もあるでしょう。万が一、石破新政権の運営が早期頓挫した場合、再びリフレ政策への期待が浮上してくる可能性は否定できないように思います

有名な話ですが、第二次安倍政権があれほどのリフレ思想に染まった背景には2000年8月、日銀が政府の議決延期請求権を振り切ってゼロ金利政策の解除を決定し、政府と日銀の溝が深まったという出来事が発端になっていると言われています。当時官房副長官だった安倍氏が日銀に対して抱く強い不信感の下、第二次政権でリフレ思想が全面展開されたという話です。

財政・金融政策に対してタカ派的な石破政権が(どのような経緯であれ)失敗との烙印を押された場合、必然的に「では対照的な思想の持主に・・・」という発想に世論が動く可能性は十分ある。まだ、石破氏が首相に指名される前に持ち出す話ではありませんが、半年前に石破氏が首相になると思っていた向きは皆無に近いでしょう。市場参加者において、いつかやってくるリフレ世論の台頭は頭の片隅に置いても良いリスクシナリオの1つかもしれません

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