福田美蘭展にみる創造的な「ずらし」の技法
現在千葉市美術館で開催中の「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧」に足を運びました。コロナ禍で、久しぶりに見る絵画に興奮しつつ、この展覧会の特異な魅力についてお伝えしたいと思います。
まずは、千葉市美術館のウェブサイトをご覧ください。このページだけを見ると、なんとなく現代的な日本画?浮世絵の展示?と言った印象です。しかし、それだけではもちろんありません!
福田美蘭展 3つの魅力
結論を先に書いてしまうと、この展覧会には三つの魅力があります。
① この展覧会は「騙し絵」「隠し文字」「間違い探し」「見立て」といった遊びの要素がふんだんに盛り込まれた、アトラクションのような作品展です。
② しかしながら、単なるトリックアート展ではもちろんありません。絵画史への深い造形と、圧倒的な画力、作品のオリジナリティとは何かを突きつける作家の熟練した手つきを体感できる、充実の現代美術展なのです。
③ さらには、浮世絵や水墨画といった日本画への理解も深められ、同時に新たな作品を作り出す創造的な技法について学ぶことができる教育的な展覧会でもあります。
福田美蘭とは?
アーティストの福田美蘭さんは、東西の名画を独自の手法でイメージ展開する作風が特徴です。
象徴的なのは、『見返り美人図 鏡面群像図』です。いわずとしれた名作菱川師宣の「見返り美人図」を、別の視点からみたものを複数、同じ画面の中に描き出しています。女性がふりかえりながら自分の顔を確認し合っているように見えて、思わずおかしみが込み上げます。
こうした作品に関して、千葉市美術館館長の山梨絵美子さんが端的に説明しています。
展覧会では、5月に就任された山梨絵美子さんらが丁寧にコレクションしてきた日本の名作たちと、福田さんの作品がコラボレーションを展開しています。
元になった作品が併置されており、過去の名画と福田さんの作品とを比較しながら鑑賞することができるようになっています。そのため、福田さんによる「作品からふくらんだイメージ」が一体なんなのか、謎を解くようにおいかけていくことができるところがこの展覧会のアトラクティブなポイントです。
創造性研究における「ずらし」から考える
この、もととなっている作品からイメージを広げる手つきには、創造性研究における「ずらし」と非常に近いものを感じています。
「ずらし」とは、創造性研究の第一人者、岡田猛先生らによるコンセプトで「ずらし」とは,「類推のマッピングの際に何らかの差異を生成するとい
う「差異性に基づく思考」である」と定義されています。(「現代美術の創作における「ずらし」のプロセスと創作ビジョン」より)
やや難しい説明になってしまうのでここでは簡潔に触れますが、元ネタをそのままトレースするのではなく、いくつかのポイントや構造を変えてしまうことで、新しさを生み出していく方法であると言えるでしょう。
上の見返り美人図で言えば、「見返り美人図を別の視点から描く」という点と、「別の視点から見た見返り美人図を複数同じ画面に描く」という2つの点において「ずらし」が行われ、新たなイメージが生成されているのです。
こうした福田さん特有のずらしの技法は「別の視点」「複数化」だけはもちろんありません。多種多様なこの「ずらし」の技法が展示作品では展開されており、その「ずらし」の思考プロセスをおいかけるのが非常に楽しい展覧会になっています。
教育関係者、編集者、認知科学の研究者…創造性に関わる多くの人に見てほしい展覧会
というわけで、筆舌につくしがたいこの展覧会の魅力を、僕なりに書いてみましたが、まだまだ魅力は伝えきれていません…。とかく、アーティストの思考プロセスをこれほどまでにアトラクティブに体験できる展覧会は非常に珍しいと思っています。
教育関係者の方は、美術教育の授業開発のヒントになることは間違いないでしょう。また、先行研究や過去作品をベースに新しいものを生み出すキュレーターや編集者の方にも、福田さんの「ずらし」の技法の数々はインスピレーションを与えるはずです。人間の思考プロセスを探究する認知科学の研究者の方々にも、しかりです。
発想法・アイデアの作り方に関心をもつビジネスパーソンにももちろん見に行っていただきたいと思っています。
ずらしのワークショップ
この記事で書いた「ずらし」の技法を福田美蘭作品から学びながら、自分なりに試してみるワークショップを、MIMIGURIのアートエデュケーター夏川真里奈さんとぼくがいま企画をしています。もし、展覧会だけ行ってもよくわからないかも?と不安になっているかたは、ぜひご応募ください。
小学校2~4年生ぐらいのお子さんから大人までたっぷり楽しめるワークショップになる予定です。久しぶりのオンサイトワークショップになるので、僕もとても楽しみです。会場でお会いできるのを楽しみにしています。
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