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メンバー層エンジニアすら採れない—自社サービス企業が直面する採用市場の現実を図解する
2021年に「経験者ITエンジニアが転職市場に見当たらない」という話題をしました。
あれから4年、採用市場は大きく変化しました。最近では「経験者どころかジュニア層の選考書類すら回ってこない」という相談が増えています。
2025年の中途採用市場を見ても、採用できている企業は存在するものの、ゾーニングが進んでいる印象です。今回は、その背景について整理します。
採用強者企業は少ないが居る
採用を継続できている企業はあります。
相変わらず活発に採用を行うコンサル企業
国や日系大手企業から受注する大手SIer
2022年までの採用手法を繰り返しながら、資金調達に成功したスタートアップ
事業の立ち位置からして真似できないラインナップと言えます。2023年くらいまでは「スカウト媒体活用のポイント」「◯◯社採用成功の秘訣」という人事向けセミナーもあったのですが、現在では再現性がないこともあり少なくなった印象です。
こうした採用強者企業がどのように採用を進めているのかを見ていきます。
人材紹介に高額フィーを支払う
東京だけでなく大阪でも、メンバー層の人材紹介フィーが50%、60%といった高額で案内されている企業が確認されています。
これは、一般的な企業が真似できる水準ではありません。しかも、人材紹介フィーが上がっても、人材紹介会社の貢献度は特に向上していません。以前は「応募意志を獲得する」と称し、志望理由を明確にするよう候補者がマインドセットされていましたが、現在は「言われたから来た」という候補者が増え、介在価値が下がっているように感じます。
この状況を冷ややかに見ている(無理もないですが)当該企業の面接官もおり、このトレンドがいつまで続くのか注視しています。
リファラル採用に注力する
人材紹介会社に50%〜60%のフィーを支払うと、600万円の人材を採用するだけで300〜360万円のコストが発生します。年間100名採用する場合、最低でも3億円が必要となります。
さすがに企業体力がある企業でも、このようなコストを継続するのは困難です。そのため、リファラル採用にシフトする動きが見られます。
例えば、リファラルパーティーを開催し、自社社員の知人を集めて企業説明会や懇親会を実施する企業が増えています。都内では、リファラル採用が成功すると、中途入社者の4割程度を確保できる企業も存在します。
採用コストの観点からも、リファラル採用の強化が経営に直結する時代になりつつあります。北海道信用金庫でも導入されたという記事があり、リファラル採用の広がりが感じられます。
リファラル採用は顔が広くSNSやイベントでのつながりを持つ社員に、自社への愛着を持ってもらうことが重要になっていることを意味します。採用コストが安い割には、おいそれと真似できない手法です。
自社サービスの人気低下?
一方で、自社サービス志向の低下が見られます。2020年11月に以下の記事を書きましたが、当時は「努力不足でSES」などと揶揄されるように、フリーランス・自社サービス・SIer・SESの鉄のヒエラルキーが存在しました。
しかし現在は、自社サービスを目指すエンジニアが減少しているように感じます。
下図は中途デジタル人材の流れを示したイメージ図です。こちらの図を念頭に個別の事象について触れていきます。
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事業共感が求められる風潮と壁化
2022年までのエンジニアバブルでは、企業は正社員採用人数を追っていました。しかし現在、単なる実装要員であればSESやフリーランスで十分と考えられ、事業共感やプロダクト志向が求められるようになりました。
2025年時点で自社サービスに転職を希望する場合、企業研究や事業研究を徹底し、原体験を絡めた志望理由を構築することが求められます。候補者にとってよほど行きたい企業や業界でない限りは企業研究がコストになっています。
SIer志向の新卒が転職市場に流入
2022年の24新卒採用時、就活生の間でSIerの人気が高まりました。その背景には以下の要因がありました。
自社サービス各社が社会貢献性を謳い、優劣が分かりにくくなった
既存の顧客と課題があるSIerのほうが、需要が明確だった
研修制度や体制が整っていることへの期待
2024年には、この世代の新卒が転職市場に流入し始め、今後も影響を与えることが予想されます。
SESが自社サービスにとって人材輩出企業ではなくなった
かつては人材輩出企業とされたSES企業ですが、現在はクライアントワークに留まるケースが増えています。
大手SIerや総合コンサルのデリバリー部門は依然として採用に積極的ですが、「給与を上げたい」だけのモチベーションであれば、高還元SESやフリーランスが一般的な選択肢になっています。
SESには利他性は必要ですが、事業共感は不要です。そのため、自社サービス志向の低下にもつながっている可能性があります。
クライアントワークの中で人材の流通が完結しつつあると考えています。
厳しくなる採用市場への対応
総じて、採用予算や知名度がない自社サービス企業の採用は厳しくなっています。
リファラル採用の活性化は必須となりつつあります。また、事業共感の壁を見直し、採用プロセス全体で候補者の意向を醸成する仕組みが求められます。
また、中途・新卒を問わず事業共感の壁については見直しが必要でしょう。これまでの採用では、カジュアル面談で意向上げをし、事業に興味を持ってもらおうとする企業が多く見られました。その結果、一次面接で興味がなければ落とすという判断がありました。
これからはカジュアル面談だけでなく、採用過程全体で事業に対する意向を醸成するような仕組みを整えるように候補者体験の設計を緩やかにする必要もあると考えています。
私の場合ですが、まだ出会い系との差別化ができていないときのマッチングサービスで採用を展開していました。事業理解以前に偏見と立ち向かう必要があるので、志望理由の醸成まで時間がかかっていました。当時意識していたものは、最終面接までにはそれなりに候補者の言葉で志望理由を言えるような状態にすることをゴールにするというものでした。こうした採用工程の後ろに事業共感のジャッジポイントを置くというのは一考する価値があります。合わせて入社後に事業に対する意向を醸成し、高めるような取り組みも必要でしょう。
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