シェア型書店で「#界隈」カルチャーに思いを馳せる
「本屋になりたい」
日経新聞の記事です。棚を有料で貸し出し、棚の借り主が自分で選んだ本を売るシェア型書店が近頃注目を集めています。「本屋さんになりたい」というのは本好きなら誰もが一度は思うことではないでしょうか。でも、さすがに今どき書店を開業するのは大変。そんな人達の夢を叶えてくれるのがシェア型書店です。
東京の神保町にはすずらん通りにフランス文学者の鹿島茂さんが〈PASSAGE by All Reviewers〉という鹿島さんらしい洒落た名前のパリのパサージュをイメージしたシェア型書店を開業していましたが、2号店を神保町交差点近くに開業。作家の今村翔吾さんは、さくら通りに〈ほんまる 神保町〉を今年の4月に開店。こちらは、ロゴや什器のデザインを佐藤可士和さんが担当しています。
ザッピング感覚の書店
〈ほんまる 神保町〉は角地にあって通り側には大きなウインドウがあり、ボックス型に仕切られた棚を外からも見ることができます。店に入って棚を眺めるとこれまで本屋で感じた感覚と違う刺激を受けるんです。源氏物語関連の棚の近くに昆虫の本の棚、その付近にお天気の棚、みたいな感じで。それはまるでテレビチューナーでザッピングしている感覚。ポッドキャスト番組「奇奇怪怪」でDos MonosのラッパーTaiTanがTikTokのショート動画をザッピングであると分析したいたけれどまさにそんな感じ。
大型書店はもちろん、街の本屋は本で世界をつくろうと店作りをしています。恋愛小説、経済、政治、歴史、自然科学、スポーツ、音楽、生活実用などなど人間の興味関心領域をなるべく網羅した体系的な棚作りを心がけるわけです。「文脈棚」をつくり意外性のある本との出会いを提供する書店は、中世ヨーロッパの本の隣に、キリスト教会の本、そのとなりにチーズやワインの本、そのとなりにレストランガイドと本来ジャンルが異なる本をそのテーマに関連付けて並べるわけですが、書店全体でみれば様々な関心領域を網羅的にカバーしているわけです。
シェア型書店の棚は全く違う品揃えです。それが面白い。ロングテール現象をまさに体現しているというか、世の中にはいろんなことに興味を持つ方がいるんだなあと関心するような棚が並ぶのです。映画化されたスタンリー・キューブリックの原作小説だけを集めた棚とかね。
でも、シェア型書店は単なる趣味の棚というだけではなく、「界隈」を感じさせる棚が見つかるのが面白いんです。
「#界隈」が見つかる書棚
ちかごろ、「界隈」という言葉をあちこちで目にします。 Z世代が多用する用語で同じ嗜好性を持つ人達を意味します。#とともに使われることも多いですね。
「ジャニオタ界隈」のように「推し」が共通の人たちを表現するのに多用されています。渋谷109のマーケティング研究部門である「SHIBUYA109 lab.」が2024年のトレンド予測で取り上げて話題になったのが「#自然界隈」。それは単なるピクニックじゃないのか?とシニアはツッコミをいれたいのだが、山や森などの自然に触れ、そこでセルフィーを撮る若者たちがみずからそう名乗っているわけです。
「界隈」の特徴は、アイドルやアニメなどのいわゆる趣味だけではなく、行動パターンや嗜好性をグルーピングしていることでしょうか。たとえば、「#風呂キャンセル」界隈。毎日お風呂に入るのは実は面倒くさいと思っている人たちがこの「#風呂キャンセル」を活用し、界隈の仲間と世の中みんなが毎日お風呂に入るのがあたりまえみたいになっているのはおかしくないかという彼らの価値観を確かめ合っています。SNSのタイムラインに登場した「#」のおかげでいままで一生あうこともなかった同好の士が世の中で顕在化したわけです。
シェア型書店には、そんな「二番手でもいいじゃないか」みたいな人生のスタンスとか、嗜好性で括られた本棚も存在するんですね。僕はPRやマーケティングの仕事をしているわけですが、この「#」や「界隈」という文化は、未だ顕在化していない人々の欲望を言語化していると感じるときがあります。それはまさに、小さな新しいインサイトの発見ですね。新しいあたりまえになるかもしれない欲望の萌芽がTikTokだけでなく、シェア型書店の棚から見つかるかもしれませんね。
ちなみに、自分は「#風呂キャンセル」界隈の顕在化に続くのは「#あえて床で寝る」界隈だと思っているのですが、皆さんいかがでしょうか?