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金価格上昇にまつわる方便~上がっている理由を冷静に整理~

金価格の高騰
金価格が連日、過去最高値を付けていることが話題です:


市場で指標として注目されるニューヨーク金先物は7月1日に1オンス1800ドルを遂に突破しました。これは2011年11月以来、約8年8か月ぶりの高値となります。なお、ドル/円相場が円安気味で安定していることもあって、円建ててでも連日、史上最高値が更新されているのも日本人にとっては興味を引くポイントでしょう。ちなみに前回高値をつけていた2011年11月と言えば、欧州債務危機を巡る緊張がピークに達していた時期です。当時はユーロ圏崩壊への思惑が最高潮でした。足元では感染拡大の第二波懸念を受け、文字通り「この先どうなるのか分からない」との不安が支配的になり、「とりあえず金」というフローが増加しているとの解説が目立ちます。年初来の変化理に目をやると、金は約+20%も上昇しています。


金属価格と言えば、金価格の記事がやはり圧倒的に多く、テーマ性のある記事も多くみられます:

金価格は当然重要なのですが、筆者はこれに加え世界経済の体温を推し量る指標として銅価格に着目することも推奨したいです。実はその銅価格も金価格と同時に騰勢を強めているというのが現状です:

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そこで金価格と銅価格の相対価格(両者を割り算したものです)に着目すれば、足許で景気センチメントは悪化こそしていないものの、3月半ば以降始まり、5月下旬から加速してきた改善傾向が停止しつつあるようにも見えますが、率直に「互角」という感じでしょうか:

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金価格上昇の背景は?
金価格が上昇する理由はいくつか考えられます。最も分かりやすいのは、前述した通り、①「先行き不透明感の拡大を受けた安全資産への逃避」という漠然とした論点でしょう。恐らく間違いではないのだと思います。

また、教科書的な視点からは②法定通貨への信認毀損という考え方もありましょう。金を無国籍通貨と見なした場合、対ドルで圧倒的に年初来の上昇を確保しているのは金だけです(円もなんとか対ドルで下落せずに持ち堪えられている通貨の1つです)。こうした状況に敢えて解説をつけるのであれば、コロナショックを受けた各国政府の形振り構わない拡張財政路線の結果、将来的なインフレ(法定通貨の価値毀損)を懸念した動きが強まりつつあるといったところでしょうか。これも理屈としては違和感はありません。

また、③世界中で金利が消滅しており金保有のデメリットが薄れているということも当然あるでしょう。何故ならば、「安全資産としての金」にまつわる最大の欠点は「金利がつかないこと」と言われてきたからです。しかし、今や主要通貨の殆どで政策金利がゼロ付近です。最も流動性が高く、金利先高観が見込めたドルも政策金利の固定化(イールドカーブコントロール、YCC)が囁かれ、投資妙味が薄れている有様です。これでは「金利が付かないという金の弱点」は無きに等しいものです。③もかなりもっともらしい金上昇の理由でしょう。

本当の理由は単なる金融相場
 しかし、筆者は上記①~③のいずれの理由も所詮は金価格上昇を正当化する方便ではないかと考えています。上で見たように、金価格も上がっているが、銅価格も劣らず騰勢を強めており、もっと言えば株価も依然高止まりしているのは読者の皆様もご存じかと思います。また、原油価格も上がっていますし、債券価格も好調です。このような状況から客観的に言えることは、「上昇しそうなものはとりあえず買う」という金融相場(金余り相場)であるというのが実情に近いのではないでしょうか。金価格の上昇は確かに不安を駆り立てるニュースですがが、ヘッドラインで伝えられるほど金融市場の緊迫感が高まっているわけではないでしょう。

そもそもリスクオフムードの程度を考える際、「とりあえず金」というムードが先行しているうちはまだ序の口です。本当に恐ろしいのは、今年3月に見られたような「とりあえずドル」というムードが蔓延した時であり、為替スワップ市場などにおいてドル調達コストが高騰するような局面です。そこまでの緊迫感が高まった際に今のように株価が好調であるということはあり得ないですし、金も株価下落の損失を穴埋めるために現金化され、急落することがあります(そのような動きは3月に見たので記憶にある方も多いのではないでしょうか)。「リスクオフムードの高まり」や「法定通貨への不安」は金融相場において金価格を買うための方便であって、①~③を真剣に心配している向きが多いとは思えません。


前回の記事(※)でも議論しましたが(大変な反響を頂きました。有難うございました)、ウィズコロナ、アフターコロナという言葉と共に雑な議論(やたらと都市化を否定したり、移住を進めたりする論調など)が増えてる世相です。不安の増長に惑わされずに起きている事象の原因を客観的に、丁寧に見極め、経済・金融情勢を評価していきたいと思います:


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